コメント
5件
上手すぎね? ......負け確定だわぁ......
負け確定☆おわた\(^o^)/
千夏様のコンテスト作品です!!
曲パロ
赤×桃
曲名は「ノンブレス・オブリージュ」
『ノンブレス・オブリージュ ―呼吸と罪と、俺たちの話―』
Prologue ―息を止める練習―
チャイムが鳴った瞬間、教室が静止する。立ち上がる者も、息を吐く者もいない。みんな、時計の針が正確に五を指すのを確認してから、一斉に「おはようございます」を放つ。ずれたやつがいれば、翌日のグループワークから外される。
ここでは、息を合わせることがルールだ。
違和感を覚えても、それは“自分が未熟だから”と自己責任にされる。正しい空気を読めない人間は、このクラスでは生きていけない。
「今日も、ノンブレスでいきましょうね」
ホームルームの最後に、担任がにこやかにそう言う。みんなうなずく。“ノンブレス”とは、比喩ではない。
教室に入るときは深呼吸をしておくのがマナーだ。ここでは、誰かの『呼吸』さえもノイズとして扱われるから。
俺――りうらは、そんな毎日にとっくに慣れていた。 隣の席、ないこも同じだ。
彼とは小学校の頃からの付き合いで、クラスが変わろうが、教室が変わろうが、気づけばいつも隣にいた。彼も、空気を読むのが上手かった。でもそれ以上に、空気を「無視するタイミング」を知ってるやつだった。
今日も、俺たちは無言で視線を交わす。 “今日も、無事に息を止めて生き延びようぜ”
言葉にしなくても、伝わる。 このクラスでは、言葉よりも表情よりも、“沈黙”が一番多くを語る。
――でも、その日は少し違った。
昼休み。隣の席のないこが、声を出した。 教室の、ど真ん中で。
「俺さ、今日ちょっと息したい気分なんだよね」
しん、と音が吸い込まれる。
誰も笑わない。誰も返事をしない。 たった一言が、まるで放火のようにクラスの空気を変えていく。
その瞬間から、“俺たちの呼吸”は世界の敵になった。
教室という密室
翌日、俺は教室に入る前、深呼吸を三回した。 昨日のないこの発言が、どれほどの波紋を生んだかは明白だった。 クラスのLINEグループでは、名前のない“既読スルー”が連鎖していたし、廊下では他のクラスのやつらがコソコソとこっちを見ていた。
「りうら、どうしたの? 顔色悪いよ」 気づけば担任が俺に声をかけていた。
俺は笑って首を振った。「いえ、大丈夫です」
大丈夫なんかじゃねぇのに。
ないこは、もう教室にいた。 いつも通り、席について、教科書を広げている。 それだけで、彼の“異常さ”が際立っていた。
なぜなら、今日のクラスのテーマは――
《自他の境界線を尊重するための共感ゲーム》だったからだ。
生徒たちはカードを引き、それに書かれたシチュエーションに対して「共感する」か「しない」かを発表する。
誰かが「共感しない」と言えば、その理由を説明しなければならず、逆に多数派の意見とズレれば、“空気を読めない”と評価される。
まるで地雷原を歩くようなこのゲーム。 それでも、俺は何も言わない。
でも、ないこは違った。
彼はカードを引いて、にやりと笑って言った。
「“幸せなやつを見るとムカつくことがある”。……あるに決まってんじゃん」
誰も笑わなかった。 またしても、教室の温度が下がる。
「どうしてそう思うの?」と担任。
「だって、自分が不幸な時に“幸せです!”って顔されて、それ見て微笑ましくなれるほど、俺は大人じゃねーから」
そう言い切った彼の声は、誰よりも静かだった。
それなのに、どうしてこんなに耳に残るのか。
俺は、その瞬間に思った。
――このままじゃ、ないこは呼吸を止めさせられる。
誰かが彼を“異物”として排除しようと動き出す前に、俺が何とかしないといけない。
俺たちはもう、ただ息を止めてやりすごすだけじゃ生き残れない。
ならせめて、 一緒に息をする相手を、俺が守る。
呼吸の代償
その日の放課後、俺はないこを呼び止めた。教室を出ると、廊下にはまだ数人の生徒が残っていたが、全員がこちらをちらと見て、そそくさと視線をそらした。
「……よく、あんなこと言えたな」
俺の声は、驚き半分、呆れ半分、そして……羨ましさも混ざっていた。
「言わなかったら、たぶん、俺が壊れてた」
ないこはそう答えて、ポケットに手を突っ込んだまま歩き出す。 俺も後を追った。ふたりきりになれる、非常階段へ。
鉄の扉を開けて、錆びた階段に腰を下ろす。夕日が照らす中、ないこは口元を隠すようにして言った。
「なあ、りうら。お前はさ、本当にこのままでいいと思ってんの? この、空気で支配された学校で」
「いいわけないだろ。でも……」
でも、どうすればいいのかなんて、俺にもわからない。 ないこは少し笑った。「そう、俺もわかんねえ。でもさ」
彼はポケットから小さなICレコーダーを取り出す。
「俺、録ったんだ。クラスの“無言の圧力”を。誰も声に出さないけど、確かにあった空気。記録できたかはわからねえけど……、誰かが、こういうの持っとくべきだと思って」
俺は驚いた。そんな危険なもの、もし見つかれば、退学ものだ。
「バカじゃねえのか……」
「バカだよ。でもな、誰かが記録しないと、全部“なかったこと”になる。そうなったら、俺たちが“息できなかった”ことすら、誰にも伝わらない」
ないこの言葉に、俺は言葉を失った。
誰かに見つかれば、終わる。 でも、誰にも見つからなければ、終わったことにされる。
だったら――
「俺にも、分けろ。それ」
「え?」
「録音。二人で保管すれば、簡単に消せねぇだろ」
ないこは目を見開いた後、笑った。
「……さすが、俺の相棒」
夕日が、赤く彼の髪を照らす。 この瞬間、俺たちは、世界のどこよりも深く呼吸していた。
それが、最初の“反抗”だった。
“記録”という名の爆弾
翌週の月曜日、空気がさらに重くなった。誰かが確実に、ないこの“異常性”を報告したのだろう。朝のHRで、担任が「他人に不快感を与える発言や行動は慎みましょう」と言ったとき、クラス全体の視線が、無言で一点に集中した。
ないこ。
彼は机に頬杖をついていたが、少しも動じた様子はない。ただ、何もかも分かっている目だった。
「なあ、りうら」 昼休み、俺の席に来たないこは、声を潜めて言った。 「……この録音、外に出す」
「は?」
「もう、限界。誰か一人の首が飛んで終わるなら、せめてその首が意味あるもんになればいい」
俺は息を呑んだ。だが同時に、思った。 こいつ、本気だ。
録音には、日常の“圧力”が詰まっている。担任の言葉、ゲームでの排除、無言の集団圧力――全部、生々しい現実だ。
「……どうやって出すつもりだよ」
「SNSはすぐバレる。だから、生徒会に出す」
「生徒会!?」
「あそこ、意外と“見て見ぬふり”を嫌うやつ、いるから」
俺は机の下で拳を握った。危ない橋だ。でも、どこかで誰かが壊さなきゃ、この空気は変わらない。
「わかった。俺も一緒に行く」
「りうら……」
「俺だけ無傷でいようなんて、思ってねぇよ」
ないこは少しだけ目を伏せ、それから、にかっと笑った。
「やっぱお前、最高の相棒だわ」
生徒会という中立地帯
放課後、俺とないこは職員室の横にある生徒会室をノックした。 内側から「どうぞ」と声がして、ドアを開けると、書類に目を通していた副会長――猫宮(ねこみや)が顔を上げた。
「用件は?」
ないこが一歩前に出た。背筋をまっすぐに、でもその瞳は挑戦的だった。
「この学校の“空気”について、知ってほしいことがあります」
猫宮は目を細め、促すように椅子を引いた。「座りーや」
俺たちは録音データを提出し、再生しながら説明を始めた。担任の言葉、ゲームの圧力、教室内の無言の同調――すべての空気が“見えない武器”になっていたことを。
猫宮は沈黙を貫いたまま、最後まで聴いていた。
再生が終わったとき、彼はゆっくりと口を開いた。
「これは……確かに、“問題”ではある。でも……」
その“でも”に、俺の喉が詰まる。
「君たちも分かってるだろ? これを“正面から”問題化すれば、クラスだけじゃなく、教師、保護者、そして学校全体の体面にも関わる」
ないこが低く返した。「それが怖くて、黙るんですか?」
「怖いからこそ、慎重にやらなきゃならない」
猫宮は手元のペンを転がしながら、視線を俺たちに向ける。
「……この件、俺が“個人の意見”として、教育相談部に持っていく。ただし、誰が録音したのかは明かせない。その代わり、お前たちには何があっても“知らない”ふりを貫いてもらう」
ないこが唇を噛む。
「でも、それじゃあ俺たちは何も――」
俺が彼の腕をつかんだ。
「いい。ここで引いたら全部パーになる。これは“渡す”ことに意味があるんだよ」
ないこはしばらく沈黙したあと、静かにうなずいた。
「……わかった。託す。だけど、見捨てないでくれ」
猫宮はそれには答えず、「気をつけて帰れよ」とだけ言った。
俺たちは、生徒会室を後にした。校舎を出ると、いつもより少し冷たい風が吹いた。
俺たちは、世界に石を投げた。まだ波紋は起きていないけど、確かに水面は揺れた。
ざわめきの予兆
翌朝、クラスの空気は妙に静かだった。 誰も話しかけてこない。いや、正確には、“話しかけられない空気”が支配していた。
昼休み、数人が廊下で話していたのを耳にした。
「なんか、上の方で問題になってるらしいよ。ウチのクラスの雰囲気がさ」 「誰かが密告したんじゃね?」 「ヤバくね? これでまた、ゲームとか制限されたら意味なくない?」
“誰か”が告発した。 でも、“誰”とは言えない。言った瞬間、そいつが今度は標的になるから。
午後の授業中、担任がやけに丁寧な声で言った。
「最近、空気が張り詰めているように感じますね。ですが、私たちは互いに信頼し合って過ごしていけると信じています」
教室は水を打ったように静かだった。
ないこは、机に視線を落としたままピクリとも動かない。 俺は彼の背中をそっと見つめながら思う。
“あの録音が、本当に届いたんだ”
だけど――この静けさは、嵐の前触れにも似ていた。
ざわめきは水面下で膨らんでいる。 次に誰が“息を止めさせられる”のか、それを全員が探っている。
俺たちの一手が、クラスの空気を確実に変え始めている。
それが、希望になるか、破滅になるか――
もうすぐわかる。
告発者狩り
火曜日の放課後、教室の空気が異様に重かった。ロッカーの前に集まった数人が、周囲に聞こえないように低い声で話している。
「マジでさ、誰かが録音したんでしょ? 教師とか、生徒会に。気持ち悪くね?」 「俺、ちょっと前にないこがスマホいじってたの見たかも」 「え、マジで? じゃああいつじゃん」
俺の心臓が一瞬止まる。 名前が、出た。
その瞬間から、クラス内の“次のターゲット”が、確定した。
翌朝、ないこの机に誰かが貼り紙をしていた。 《空気読めよ》《裏切り者》
担任はそのことに触れなかった。 掃除の時間、誰かが雑巾で机をわざと濡らした。
ないこは、何も言わなかった。 ただ静かに、いつも通り教科書を開いていた。
俺はたまらなくなって、放課後に声をかけた。 「大丈夫か?」
ないこは笑った。「大丈夫なわけねーだろ。でも、いいんだよ。これが“代償”なら、まだ安い」
「ふざけんなよ……俺にも責任ある。録音、俺も保管してたじゃん」
「でもお前は、名指しされてねえ。……なら、今は黙ってろ。お前まで巻き込まれたら、意味ねぇから」
ないこの言葉は優しすぎて、逆に苦しかった。 俺はうなずけなかった。
誰かが標的にされて、孤立して、耐えている。その横で、自分だけ無傷でいることの方が、よっぽど痛い。
呼吸の臨界点
金曜日。ないこが欠席した。
それだけで、俺の中にあった“最後の均衡”が崩れた。
朝のHRで、担任が無表情に言う。 「ないこくんは、体調不良のため欠席です」
それだけ。
教室の空気はどこまでも澱んでいた。誰も笑わず、誰も語らず、ただ、空気だけが支配している。
昼休み、俺はスマホを開いた。 通知はひとつだけ。
《ごめんな ちょっとだけ、呼吸しに行ってくる》
ないこからだった。 その一文だけで、すべてがわかった。
放課後。俺は向かった。あいつがよく行っていた、公園裏の古い防空壕跡。
そこには、いた。 うずくまって、小さく息をしている、ないこが。
「……遅ぇよ」
「言えよ、最初から」
「言ったら、止めるだろ」
俺は彼の隣に腰を下ろし、無言で空を見た。天井なんてない、防空壕の空間。ぽっかりと穴が開いたような、自由な空間。
「……なあ、りうら」 「ん」 「俺たち、ここなら、息していいよな」 「当たり前だ」
俺たちは、ようやく、言葉でなく、体温で繋がった気がした。 ここには、誰の視線も、同調圧力も、空気もない。 ただ、ふたりだけの呼吸があった。
それでも、世界は、あの教室は、俺たちを見ている。
戦いは、まだ、終わっていない。
沈黙を破る声
月曜日。ないこが教室に戻ってきた。
けれど、その場の空気は凍ったままだった。誰も彼に話しかけず、彼も誰にも目を合わせない。机に座り、静かに筆箱を取り出す。その仕草ひとつでさえ、誰かの嘲笑の種になるような張りつめた空気だった。
そんな中、俺は立ち上がった。
「おい」
教室中の視線が俺に集まる。
俺はないこの机の横まで歩いていき、堂々と椅子を引いて隣に座った。
「よっ、戻ってきたな」
ないこは一瞬だけ目を見開き、それから小さく笑った。
「……お前、馬鹿かよ」
「うるせえ。俺は俺の好きにする。お前としゃべるのも、隣に座るのも、俺の自由だ」
数秒の沈黙。クラスメイトたちがざわめく前に、俺は言葉を続けた。
「“空気”に従って黙ってるだけじゃ、何も変わらねぇだろ。俺たち、誰に許可をもらって生きてるわけでもない」
どこかで笑い声が起きかけたが、誰もそれを続けなかった。俺の声が、思ったよりも強く、響いていたからだ。
「こいつは悪くねぇ。悪いのは、“息を止めさせる空気”だろ」
ないこが少しだけ顔を上げる。彼の瞳が、揺れていた。
「……ありがとう、りうら」
その瞬間、教室の空気が、ほんの少しだけ動いた。
最後の爆発
翌週、生徒会が“クラス内の環境改善”という名目で、全校アンケートを実施した。 質問内容には、「周囲との関係において息苦しさを感じたことがあるか」「同調圧力を感じた経験はあるか」など、明らかに俺たちの件を反映したものが含まれていた。
結果は当然、非公開。 けれど、何人かの生徒が、そのアンケートをきっかけに先生へ相談に行ったという噂も流れた。
変化は、静かに始まっていた。
そんな中、ある日。
俺とないこは、再び生徒会に呼び出された。
猫宮副会長は、静かに言った。 「君たちの行動は、確かに波紋を起こした。けれど、その代償も大きかったと思うんや」
「……ああ」ないこがうなずく。「でも、後悔はしてない」
猫宮は微笑む。「俺もや。お前らのやり方が間違っていたとは思わん。むしろ、誰かが声をあげたことを、今の学校は“初めて”知った」
彼は、封筒を差し出した。
「この件、学校として正式に検討に入る。匿名扱いだが、君たちが種をまいたという記録は、ここに残しておく」
ないこがその封筒を受け取り、そして俺の方を見る。
「……じゃあ、少しは報われたか?」
俺は頷いた。
けれど―― まだ、終わりじゃない。
この呼吸は、ようやく始まったばかりなのだから。
呼吸という革命
季節は、冬から春へと変わりつつあった。 暖かくなってきた朝の教室で、俺とないこは、他愛もない会話をしながら席につく。誰かに睨まれることも、避けられることも、今はもうない。
空気が完全に変わったわけじゃない。 それでも、たしかに“誰かの呼吸”を、誰も邪魔しなくなった。
「なあ、りうら」
「ん?」
「俺さ、録音や行動のこと、ずっと“武器”だと思ってたけどさ……今は違う。あれ、きっと“助け”だったんだな」
ないこの言葉に、俺は少しだけ笑った。
「最初から、お前が誰かを助けようとしてたのは分かってたよ」
「違う違う。俺が一番、助けられたんだよ。……お前に」
その言葉に、何も言い返せなかった。 だから、代わりにそっと彼の肩を叩いた。
その日、生徒会掲示板に新しいポスターが貼られた。 《“空気”に苦しむ人へ。匿名相談はこちら》
署名はなかったけれど、その紙の角が少しだけ折れていた。多分、ないこが貼ったんだろう。あいつの癖だ。
呼吸は、言葉以上に雄弁だ。
教室の片隅で、今日も誰かが自分の声を取り戻していく。 それが、俺たちの願った世界だった。
防空壕で肩を寄せ合っていた日々を思い出す。 あの時、二人で確かめた“好き”と“痛み”と“静けさ”。
あれは、戦いの始まりじゃなかった。 あれこそが、平和の始まりだったんだ。
だから、今なら胸を張って言える。
「I love you それぞれの好きを守るため 君と防空壕で呼吸する」
Epilogue ―この世界で息をするということ―
春休み。誰もいない教室の窓を開けると、暖かい風がカーテンを揺らした。
空気はやわらかい。 そして、どこまでも静かだった。
机の配置も、掲示板のポスターも、俺たちがいたときと変わらない。でも、ここには何かが違っている。俺とないこが踏みしめてきた日々が、確かにこの空間を少しだけ変えた。
俺は最後のロッカーを確認し終えると、振り返った。
「なあ、帰るか」
ないこは窓際の席で立ち止まり、教室を見渡していた。 「うん……でも、なんか名残惜しいな。あんなに苦しかったのにさ」
「わかる」俺も笑う。「結局、ここで“息”できるようになったからな」
「俺、昔はこの場所が怖かったんだよ。何か喋ったら否定される、ちょっと違ったら孤立する、って」
「でも、お前は逃げなかった」
「違う。お前が隣にいてくれたからだよ」
そう言って、ないこは照れ隠しのように肩をすくめた。
廊下に出ると、春の光が差し込んでいた。 階段の途中で、すれ違った後輩が、こちらに小さく頭を下げた。 俺たちは無言で会釈を返す。
「見てたかな、全部」 「かもな」 「……伝わってたらいいな。俺たちが、何を怖れて、何を守りたかったか」
ないこはポケットから、小さなボイスレコーダーを取り出して、俺に差し出す。 「これ、もう要らないな」
俺はそれを受け取り、少し考えてから言った。 「じゃあ、防空壕に置いてこうぜ」
あの場所へ、俺たちはまた足を運んだ。
枯葉が少し積もっている。だけど、春の気配がそっと地面を撫でていた。
ないこが、レコーダーを穴の中心にそっと置く。 「ここで全部、始まったからな」
「そして、終わった。……いや、始まり直したんだ」
そう、俺たちはここで、ちゃんと“息をする”ことを決めた。 誰かの視線も、空気も、ルールも関係なく。 それぞれの痛みと、好きを持ったまま、同じ空間で呼吸するということ。
それはきっと、この世界で一番小さくて、でも一番強い革命だ。
ないこが、俺の方を見てにやっと笑う。
「なあ、りうら。俺さ、これからも“空気読めない”ままでいいかな」
「上等だよ。俺が隣で空気、破ってやる」
ふたりで声をあげて笑った。 風が吹いた。
息を吸って、俺たちは歩き出した。
誰かのためでも、誰かの期待に応えるためでもなく。
ただ、俺たち自身のために――この世界で、今日も、息をしている。
今回長めに書きました!
賞にでも入ればいいかなとw
はいらなくても全然いい作品かけたんで満足です!
それでは!