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コメント
1件
はぴえんなのか……、?これからもっといろんな事ありそうだけど…!とりあえず仲違いすることにはならなくてよかったぁ、、! やっぱりこんな神作品が書けるってもうもはや神様ですよねっ、?!(?) 本当に尊敬してますっ!これからも頑張ってください!
夜の街は、まだ人の気配が多かった。
居酒屋の明かり。
笑い声。
車のエンジン音。
そのすべてが、どこか遠い世界の出来事のように感じられる。
いるまは、無言のまま、ひまなつの腕を掴んで歩き続けていた。
強すぎず、弱すぎず。
逃がさない、という意思だけがはっきり伝わる力。
言葉は、ひとつもない。
それなのに、ひまなつの胸は、ひどく騒がしかった。
「……っ」
視界が、滲む。
堪えようとすればするほど、涙は溢れてくる。
ぽろり、ぽろりと、頬を伝って落ちていく。
声を上げて泣くわけでもない。
嗚咽を漏らすわけでもない。
ただ、静かに、止まらない。
(……いるま)
名前を呼びたいのに、喉が詰まって声にならない。
どうして連れ出されたのか。
何を言われるのか。
怒られるのか、突き放されるのか。
不安でいっぱいなのに、それでも――
ひまなつは、抵抗しなかった。
振りほどこうとも、立ち止まろうとも思わなかった。
この手が、まだ自分を掴んでいることが、どこか救いだったから。
離される方が、ずっと怖かった。
少し歩いた先に、小さな公園が見えてきた。
街灯に照らされたブランコ。
誰もいない砂場。
静かに並ぶベンチ。
いるまは、足を止めると、ひまなつをベンチへと導いた。
二人並んで、腰を下ろす。
ようやく、掴まれていた腕が、そっと離される。
その瞬間、ひまなつの胸が、きゅっと締めつけられた。
触れていた温度が、急に消えてしまったみたいで。
ひまなつは、俯いたまま、涙を落とし続けていた。
膝の上に、ぽつぽつと、小さな染みが増えていく。
肩が、かすかに震えている。
いるまは、その様子を、黙って見つめていた。
言葉を探しているように。
触れていいのか迷っているように。
しばらくの沈黙のあと。
いるまは、ゆっくりと手を伸ばした。
指先で、ひまなつの前髪をそっと避ける。
泣いて濡れたまつ毛。
赤くなった目元。
無理に顔を上げさせることはせず、覗き込むように、距離を詰める。
ひまなつは、視線を落としたまま、涙を止められずにいた。
「……っ」
小さく、息が震える。
その姿に、いるまの胸が痛んだ。
「ごめんな」
低く、掠れた声だった。
後悔と、懐かしさと、抑え込んできた感情が、全部混ざった声。
次の瞬間。
いるまは、ひまなつの目元に、そっと口付けた。
涙の跡に触れる、短く、静かなキス。
慰めるように。
確かめるように。
離れなかった想いを、伝えるみたいに。
ひまなつの肩が、ぴくりと揺れる。
驚きと、安堵と、張り詰めていた感情が、一気に緩んだ。
いるまは、そのまま、ひまなつの頭を抱えるように引き寄せた。
腕の中に、すっぽりと包み込む。
逃げ場を塞ぐようでいて、守るような抱き方。
「……っ、ぅ……」
ひまなつの喉から、ようやく、小さな嗚咽が零れた。
堰を切ったように、涙が溢れ出す。
胸元に顔を押し付けながら、ひまなつは声をころして泣いた。
何年分もの寂しさ。
置いていかれた時間。
会えなかった後悔。
それでも消えなかった想い。
全部が、今になって溢れ出してくる。
いるまは、何も言わず、ただ強く抱きしめていた。
離さない、と無言で伝えるみたいに。
夜の公園は、静かだった。
街の音が、遠くに滲み。
二人の呼吸と、ひまなつの小さな泣き声だけが、そこに残っていた。