テラーノベル
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「ほんとだ……」
「後場(ごば)も気を付けて見ておこう」
「そうだね。ヘッジは入れてあるから資金に関しては大丈夫だけれど、ファンドが痛いね。これ以上下げられたら困るな…」
日経平均が下落しているということは、フジノの株もマルヨーの株も下がっているということだ。マルヨーは小売業でスーパーだから、内需株(主に国内市場での需要に依存している企業の株式のことです。 これらの企業は、海外市場の影響を受けにくく、国内経済の状況に大きく左右されます。セクターは 食品、日用品、小売業などが主に該当します)とはいえ、ここまで株価が落ちると、内需だからといえ同じく下落に巻き込まれる。
先物の値動きが気になったので、弁当を食べた後に潤とふたりで後場の様子を見つめた。振るわない日本株、青色に染まったヒートマップ(株価の騰落や出来高などを色や濃淡で可視化したツール)を見つめた。青色というのは、マイナスの意味を成す色だ。僕は青色がマイナス、赤色がプラスになるようにヒートマップを設定している。
こうしていても仕方ない。値動きは気になるが、デイトレーダーをやっているわけではないのでもう見ないでおこうとパソコンを切った。僕が潤とTENGAの事務所を出る際、電話が鳴っていた。ファンドの値下がりについての問い合わせだろうな。気が重い。受付の白柿京奈(しらがきけいな)が電話対応をしてくれている。
「行こう」
京奈が淡々と『大丈夫です』と顧客に伝えているのを尻目に、TENGAを後にした。
フジノに到着すると、ちょうど13時半を回ったところだった。資料を持って車の外に出ると、スマートフォンが鳴りだした。誰からの電話かと思ってみると、事務所で対応している林下竜志(はやしたりゅうし)さんからだ。
元証券マンだから、暴落についても詳しいし、顧客への対応は彼に任せてある。彼が電話をかけてくるなんて、よっぽどのことだろう。
「もしもし、どうしたの?」
『社長、大変ですッ』
「なにかあった?」
『日本株価の下落が止まりません! 顧客への説明がつかず困っています。ご指示をいただけますでしょうか!』
「えっ…」
急いで確認すると、33150円付近を推移している。会社を出る頃は、33700円ほどあったのに…。しかも今日の始値は35249円だったのに。
先週から3日連続で大幅な下落となっている。過去にみない暴落ぶりに僕もさすがに焦ってきた。でも、ここで僕が取り乱すわけにはいかない。とにかくみんなに落ち着いてもらうのが先決だ。暴落は何度も経験しているけれど、こんな酷いものは初めてだから不安になる。
「とにかく焦らずに。下落はどこまで続くかわからない。海外の機関は、僕たちプロの会社でさえ食い尽くすつもりなんだろう。竜志さんはそのことをよくわかっているはずだ。冷静な判断でこちらは対応していると、そう伝えて。潤を会社に戻らせるから、なんとか乗り切ってほしい。売買は絶対にしないで。大きく損失を被る可能性があるから」
『承知しました。大脇さんのお帰りをお待ちしています』
急いで電話を切って潤に伝えた。「日経がまだ下落していると連絡があった。すぐTENGAに戻って。フジノのプレゼンは僕がひとりでやるから」
心細いなんて言っている場合じゃない。潤がいなくても、僕がしっかりと商品のアピールをすればいいだけ。頑張ろう。やるしかない!
コメント
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第73話、読み終えました。暴落の中でも冷静さを保とうとする主人公の緊張がひしひしと伝わってきて、思わず息を止めてしまう場面でした。潤さんに事務所へ戻るよう伝えた「心細いなんて言っている場合じゃない」の一文に、プロとしての覚悟と孤独がにじんでいて、胸が締めつけられました。プレゼンに一人で挑むラスト、応援したくなります。次が気になりますね。