テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「プレゼン、ひとりで大丈夫か?」
「あれだけ練習したんだ。僕がヘマするとでも? 潤がいなくても大丈夫だよ。それより早く会社に戻って。そっちは任せた!」
僕は早々に車から降りて扉を閉めた。僕の判断は正しいのかどうか、ほんとうのところはわからない。投げ売りでもリスク資産は手放すことを推奨するのであれば、もっと早い段階で言うべきだった。今さら投げ打ったら大きな損失を出させて終わりだ。
判断をミスってしまったのか――いつもは強気で考えられるはずなのに、どういうわけか弱腰だ。潤がすぐさま切り返してTENGAに戻って行った直後からも、日経平均は下落の一途を辿っているのだ。
こんな状態でひとりでプレゼンをしなきゃならないなんて。
成功できるかな…。弱気で情けないことを考えてしまう。
もちろん、自分だけの損失ならまだ立て直すことができる。でも、TENGAは投資会社として様々なインデックスファンド、株、会社へ投資を行っている。できる手は打ったつもりだったが、先週下落を始めた時点で顧客に適切な損切を推奨するべきだったのか…。ヘッジは入れさせてあるが、じゃあそのヘッジはいつ解消すればいいのか、まったく見通しが立たない。
こんな気持ちでプレゼンが成功するのか?
大丈夫なのか?
うちのスタッフが必死で僕の下した判断を電話や対面で伝えているはず。リスクを恐れる顧客に責められているかもしれない。どうしよう。僕が判断をミスしたばかりに、みんなに辛い思いをさせている。
今からでもファンドを手放せというべきか?
ここまで我慢させておいて、結局投げ売らせることしかできないのか?
フジノに入る前に電話が鳴った。見ると先生からだった。
えっ……。もし先生から『別れたい』とかいう連絡だったら僕は今すぐ死ねる。
「もしもし……?」
恐る恐る電話に出た。先生からの電話が嬉しいはずなのに喜べない。
不安が胸をよぎる。
僕にもう愛想尽かせたとかそんな連絡だったらどうしよう。
『あ、睦月君? 大丈夫?』
「大丈夫って…」
『今、ニュースで株価の値下がりについてやっていたから、睦月君大丈夫かなって思って連絡したの』
「先生……」
どうしよう、嬉しい。僕のことを心配して連絡してくれたんだ!
『今からフジノでプレゼンよね? ずっと今日まで頑張っていたもんね』
「うん」
『睦月君なら大丈夫よ』
「そんなことないよ……」
先生にそう言ってもらえるのは嬉しいけれど、自分に自信がなくなっているのは確かだ。
「今回の下落で、顧客に不安な思いをさせているんだ。僕の判断が間違っていたんじゃないかって…僕も自分の考えを信じられなくなっちゃってさ…」
僕は大丈夫と励ましてくれる先生に思わず弱音を吐いてしまった。潤みたいなカッコいい男なら、こんなトラブルでもきっとなんでもないことのように一蹴するのだろう。僕にはまだ社会経験も殆どないし、会社の社長としての責任を今、果たす時なのだろうが、怖い。間違っていたら、みんなが困ることになる。
今、改めて代表取締役社長という役職の責任の重さに気づいたんだ。
『睦月君。そんな考えはダメよ。睦月君が信じた行動を自分が信じてあげなきゃ、誰が信じてくれるの?』
先生の言葉にはっとした。
『私は、夫である睦月君を信じてる。あなたが今から行うプレゼンで、折り紙の味を世界に届けてくれるって、信じてるよ』
「――!」
胸が、震えた。
#実際の話
Beni🩵🥷
63
コメント
1件
みぅです🤍🥀 先生からの電話、めっちゃ良かった…。睦月がプロとしての責任と不安で押し潰されそうになってる時に、「夫である睦月君を信じてる」ってまっすぐ言ってくれるの、胸が震えた。弱気な自分をさらけ出せる相手がいるって、すごく強いなって思う。プレゼン、絶対うまくいくって信じてる。