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自動機械のタロースに感情は無い、その事に疑問を抱いてしまう程、かの巨人は嬉しそうな表情を浮かべて、突然現れた好敵手に向けて両目と口、両の掌(てのひら)を向けトドメの攻撃を加えようとしているのが、遠目に見つめるコユキにもはっきりと見て取れたのであった。
その時、
「どこを見ている、貴様の相手はこの俺様だ、これ以上、我が輩(ともがら)を傷付けさせてなる物か!」
そんな声が響き、発射体制に入っていたタロースを手に持った小さな盾で打ち据えたのである。
ガッシャーンッ!
大きな音を立てて倒れ込む自動機械タロースの足元には、地面に降り立つ一柱の悪魔の姿があった、無論オリジナルの姿を現したパズスである。
背はここまでオリジナルの姿を見せたモラクスやラマシュトゥ、アヴァドン、アルテミスに比べれば大きくはない、と言うよりは普通の人間と比べても小さい部類では無かろうか?
恐らく百四十センチ程の体躯は、日本人女性と比べても小ぶりと評して良い物であった。
反して肩幅の広さや胸と背中の厚み、ずんぐりとした太い腕や足は、人間の男性と比ぶるべきも無い程の|膂力《りょりょく》と万力を秘めている事が容易に推測できる迫力を有している。
別段鎧や兜を装着している訳では無いが、全身が金属質に輝くオレンジで統一され、同じく全身にハンムラビ法典で見られる古代シュメールの楔(くさび)形文字が鮮やかな朱色で浮かび上がっていた。
パズスはたった今タロースを転倒させた小さな盾を、体の中に取り込み両手を開いて言ったのである。
「『拘束(シンクラティス)』」
パズスの全身を覆った朱色の文字が転倒から立ち上がろうとしている赤銅色の巨人、タロースに向けて飛び掛かり、鎖の様に手や足、顔や胴体に隙間なく搦(から)め付き自由を奪っていく。
メキメキギィーギィー、ガシャガシャッ! ベキィ、ベッキィッ!
嫌な音を軋ませるタロースを真っ直ぐ見つめたままでパズスは言った。
「中々の強敵だったぞ、自動機械タロースよ、いいやその身に魔核を持ち、復活が叶ったならばこう名乗れば良い、赤銅のタロース、鉄人と鉄壁の好敵手、とな! では来世で会おう、さらばだ! 『拘束(シンクラティス)、オーヴァーリミットっ!」
メキョメキョメキョメキョ、グシャアァーッ! シーン……
タロースが圧し潰された後には、大きな魔核が残されていたがパズスはそれには構う事なく、近くで消滅し続けて行く鉄人に歩み寄り、足元の赤いブーツ部分を掴むと、消滅から救い上げる様に取り外したのである。
パズスの勝利に安堵の顔を浮かべて近づいた仲間達の中からコユキが話し掛ける。
「鉄人ちゃんの想い出ね…… 寂しいわね、それに神戸の皆様の希望も消えっちゃったわね……」
パズスが首を左右に振りながら答える。
「いいえ、結城さんに頼んで鉄製のフィギュアに加工出来ないかと思ったんですよ…… まあ、作者の方の魔核が有れば依り代として復活できるのでは無いか、そんな一縷(いちる)の希望を持って、と言った所ですけど、ね…… コユキ様、あるでしょうか? 魔核」
コユキはパズスを慰める為では無く本気で返す。
「なるほど…… うんきっと有るわよ! 何しろ漢朝末期の三国鼎立(ていりつ)を描いた漫画で八千万部を叩き出した破格の巨匠なんだから、悪魔と言うより神だわよ! だから見つけて貰おうね、ねえ、リエ、リョウコ、アンタ等さ、千里の天神さん訪ねてアンドロマリウスちゃんに頼んでくんない? 横っちょの山が光り輝く感じの巨匠の魔核! それが有れば鉄人ちゃんが復活できるでしょ? 頼むわ」
リョウコが頷いて答える。
「判ったよぉコユキぃ、見つけて貰ったらぁその足の部分で作られたぁ依り代に入れればいいんだよねぇ、うん、分かったよぉ」
リエは隣で不審そうな表情で呟いている。
「でもそんな赤一色で出来た依り代だとあっちの鉄人になっちゃうんじゃないのかなぁ? ほら赤ヘルが似合う方のさ、そうなると二十八号じゃなくて三号とかさ、背番号的に? それでも良いの?」
コユキは仰々しく頷いてから満足気に言う。
「望む所じゃないのん、フンババちゃん?」
お猿のフンババは大体コユキの肩位まで大きくなった体を反らせて答える。
「対決が待ち遠しいな、是非、在りし日のピークで復活して欲しい物だ!」
まあ、魔核が彼(か)の天才漫画家の大先生なのだから、故鉄人の祥雄(さちお)氏ほどのバッティングセンスは期待出来ないかも知れないが、そんな事は重要では無いだろう。
魔核を見つけて何らかの形で鉄人が復活するかもしれない、そんな新たに芽生えた希望の前では、文字通りバビルの二世だろうが魔法を使うサリーだろうが赤い影だろうがジャイアントなロボだろうが、結果は些末(さまつ)な事なのである。
リエも理解したのだろう、これ以上衣笠(きぬがさ)化問題には言及せずに話題を変えたのである。