「いやー、相変わらずのアイナさん節でしたね!」
エイムズ家の四人がいた部屋を出ると、エミリアさんがそんなことを言い出した。
何となくピエールさんの筋書きに乗った節はあるものの、それでも人助けとは素晴らしいものである。
「すべての人には難しいですけど……。
私と縁ができる人くらいは、これくらい大丈夫ですよね?」
「はい、立派なことだと思います!
みんながそれをすれば、世界はもっと良くなると思います」
うんうん、と頷いて言うエミリアさん。ルークとピエールさんの表情も『その通り!』と言っているようだ。
……それにしても、ピエールさん。何と言うか……まぁ、いいや。
「さて、それではアイナ様。次は警備の者を紹介させて頂きマス。
こちらは10名ほど集めさせて頂きマシタガ、その中から5人をお選びクダサイ」
「えーっと……。10人がいる前で、5人を選ぶんですか?」
「もしかすると、気まずい感じデスカナ?
それでは一人ずつお会いして頂きマショウ」
私たちを先ほどとは別の部屋に通されて、そのまま待つように伝えられた。
これから順番に、一人ずつ連れてくるそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――アイナ様、お疲れ様でゴザイマシタ」
10人と話を終えたあと、ピエールさんが話し掛けてきた。
「ありがとうございます。いやぁ、いろいろな方がいらっしゃいますね」
「戦闘の強さだけで決めてしまいマスと、性格や価値観の相性が悪くなる場合がゴザイマス。
今回ご紹介した者たちは平均以上の強さデスノデ、総合的にお選びクダサイ」
平均以上――
……メイドさんたちの場合は『実力、性格ともに申し分ない者たち』って言っていたから、それよりも下がる評価になるのかな……?
それっぽくお得な感じで言ってはいるものの、その行間に、きっと正しい評価が紛れているのだろう。
「それでは少し、ルークとエミリアさんと相談してみます」
「かしこまりマシタ。
お決まりになりマシタラ、こちらのベルでお呼びクダサイ」
そう言いながら、ピエールさんは小さなベルを1つ手渡してきた。
うちのお屋敷にもある『呼び出しの鈴』と似たようなものだろう。
「ありがとうございます。
それでは申し訳ありませんが、しばらくお待ちください」
「承知シマシタ。一旦、失礼イタシマス」
ピエールさんは挨拶をすると、静かに部屋から出ていった。
「――さて、お二人の意見もお願いします!」
「うーん……。わたしはこういうの、良く分からないんですよね……。
あ。お酒で借金を作った傭兵さんは、外した方が良いかとは思います!」
「現在進行形で、まだ飲んでいるそうですしね……」
「酔うほどに強くなるとは言っていましたが、仕事中に酔われるというのも……。
アイナ様のお屋敷には、絶対に相応しくありませんね」
「ふぅむ、それじゃこの人は止めておこう……。
こっちの無口の人は、どうだった?」
「こちらの方は良いと思いました。奴隷としては規格外の強さということで――
……無口なところはどうしても気になりますが、最低限の意思疎通はできるかな、と」
「あの人、挨拶は会釈くらいになりそうだよね。
使う武器は剣みたいだし、ルークに近いと言えば近いのかな」
「体格も同じくらいですしね。
あとはこちらの、鎚使いの方。元聖職者ということで、簡単な光魔法を使えるのは良いと思いました」
「アイナさんのポーションが支給されるとは言え、魔法を使えるのは強みですからね」
「ふむふむ。
少しスローな感じはしましたが、実力的には申し分は無さそう……」
それじゃ、この人も採用っと。
「あとはそうですね。こちらの弓使いの方と、魔法剣士の方が良いと思います。
……とすると、残りの一人はある程度のリーダーシップを発揮できる方が望ましいですね」
「警備の人たちの、リーダーみたいな感じ?」
「はい、その通りです。
立場的にはクラリスさんの下に付くとは言え、警備の人たちの問題が、クラリスさんまでいくのは出来るだけ避けたいですからね」
「あー、確かに。
自分たちで、ある程度の解決能力が欲しいよね」
うちのお屋敷の場合、メイド長のクラリスさんが全体の統括をする関係で、使用人はすべて彼女の下に付く形になる。
権限的な上下関係というか、体制上の上下関係……といった方が近いかな。
「リーダー、ですか……。
うーん。そういう観点で見ると、この人はどうでしたか?」
「む、これは……姉御肌の斧使いさんですね」
エミリアさんが選んだのは、笑い声が豪快なお姉さん。
女性ながら、結構筋肉がムキムキだった人だ。
「性格も竹を割ったような感じですし、私は好きですよ」
「確かに、女性からは慕われそうな方でしたよね。
……とすると、他が全員男性というのもやりにくいかな?」
「それではアイナ様。
先ほど選んだ魔法剣士の男性を、女性の魔法剣士に変更してはいかがでしょうか」
うーん、そこを変えるかぁ……。
「何か、ドジっ子っぽかったけど……大丈夫かな」
「真面目そうではありましたし、ピエールさんの紹介ですし、きっと大丈夫でしょう」
「むぅ。ピエールさんの紹介、かぁ……。
今のところは完全にダメな人を紹介されたことは無いし……それじゃ、大丈夫かな?」
少し悩ましいところもあったけど、最後の一人はピエールさんの実績が後押しをした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アイナ様、まずはディアドラさんをお連れしマシタ」
ディアドラさんというのは、竹を割ったような性格の斧使いの女性だ。
「あ、あれ? アタシが一番乗りですか?」
「はい。今回は5人と契約する予定なのですが、ディアドラさんにはそのリーダーをやってもらいたいと思いまして。
それで、まずは先にお話しておこうかなと」
「え? アタシが? ……それは大変光栄であります!」
多少言葉を無理している感じはするが、満更では無い表情をしている。
「ある程度の取りまとめもやって頂きたいので、お給金は上乗せしますが……いかがでしょう」
「はい! 全力を以って仕事にあたらせて頂きます!」
ビシッと敬礼するディアドラさん。
そう言えば、以前はどこかの小さな軍にいたんだっけ。
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
「それではアイナ様。残りの四人をお連れイタシマス」
「はい、お願いします」
私とルーク、エミリアさんは座りながら、ディアドラさんは立ちながら、ピエールさんの戻りを静かに待つ。
しばらくすると、ピエールさんを先頭に、残りの四人が続けて部屋に入ってきた。
「アイナ様! 俺を選んでくれてありがとうございます!!」
流れや順番を無視して大きな声を上げたのは、弓使いのカーティスさん。
性格が熱血気味で、少し暑苦しそうではあるものの、頼りにはなりそうだ。
それにしても熱血キャラが弓使いだなんて、珍しいよね? ……っていうのは、ステレオタイプの一種だろうか。
「僕の腕を見込んで頂けて大変嬉しいです。頑張りますので、よろしくお願いします」
大きい身体で少しのんびり言うのは、元聖職者で鎚使いのランドルさん。
『動かざること山の如し』っていう感じかな。いや、動いてもらわないと困るんだけど。
しかしこう見えて足は速いらしく、『押し寄せる壁』という異名を持っていたそうだ。……想像すると、何だか怖いけど。
「あの、私なんかを選んで頂いてありがとうございます!
せ、精一杯お仕事させて頂きますので……っ!」
少し可愛い感じで言うのは、魔法剣使いのサブリナさん。
話しながら、少し目が潤んでいる。彼女って、話すときに目を潤ませるんだよね。
ドジっ子にありがちな必死さが、伝わってくるかもしれない。
「…………」
ぺこり。
無言で会釈をしたのは、剣使いのレオボルトさん。
……今後、ずっとこんな調子なのだろうか……。
そんなことを思っていると、早速ディアドラさんから注意が飛んでいった。
「挨拶はしっかりしような?」
「………………よろしく頼む」
レオボルトさんは小さい声でそう言ったあと、再び会釈をした。
話したくない、挨拶をしたくない……のではなくて、喋るのが本当に苦手なだけのようだ。
でも思ったより素直な印象だし、ディアドラさんは苦労するかもしれないけど……まぁ、そこは頑張ってもらおう。
「それでは皆さん、早速明日からよろしくお願いしますね」
「はい!!」
「はい!!!!!」
「はい!」
「は、はい!」
「……」
四人の元気な返事が響く。
うーん、もう一人も頑張れ!
……多分、小さくは何か言ってると思うんだけど。
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