テラーノベル
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あの日から、三日が過ぎた。
仕事が休みの今日は、少しくらい朝寝坊したい。
目覚まし時計もかけずに布団に潜っていると、突然お腹の上にドスンと重みがのる。
「ママー、おきろーーっ!」
花斗の元気な声が聞こえたが、低反発のマットレスは背中から体を沈み込め、ゆっくりと押し上げる。
マットレス、最高っ!
覚醒しかけた脳がもう一度スリープ体勢に差し掛かり、掛け布団を頭から被り直す。
けれど、それは小さな手によってズルズルと剥がされてしまった。
「ママ、ダメーー!!」
口を開けば「ダメ」しか言わないんだから。
心の中で唇を尖らせながら、欠伸をこぼしつつ体を起こす。
「おはよう、花斗」
すると、花斗は不満げな顔でこちらを見る。
「起こしてくれてありがとう、は?」
「はいはい。ありがとう、ね」
「『はい』は一回だよ!」
「はい」
ひと通りいつものやりとりをして満足げに微笑んだ花斗は、「ごはんー!」と、リビングへ駆け出した。
*
朝食を適当に済ませた後、花斗は今日も大窓にへばりついて、外を眺めていた。
「いつき、いつかえってくる?」
それで、キッチンで洗い物をしていた私はピクリと震えてしまった。
ああ、またそれか、と、ついため息をこぼす。この三日間、花斗はそればかりを聞いてくるのだ。
「あのひこうき、いつきかな?」
そんなこと、私は知らない。けれど――。
「今日、帰ってくるよ」
「ほんと? わーい!」
私の答えに、花斗はピョンピョンとソファの上で跳び跳ねる。
同じように、私も少しだけ心が軽いのはなぜだろう。
――いや、これは、きっと気のせい。
皿洗いをちょうど終えた私はシンクの水を止め、軽く頭を振って彼への気持ちを振り落とす。
それから手を拭き、リビングへと向かった。
すると花斗がこちらを振り向き、すぐに声を上げる。
「ママー、いつきのおむかえ、いこう?」
その急な思い付きに、私は危うくスマホを落としかけた。
今日のご飯はなににしようかと、スマホ片手に時短簡単メニューを検索したところだったのだ。
ついスマホを握りしめたまま、眉間に皺が寄ってしまう。
すると、花斗はこちらにキラキラお目目ビームを炸裂する。
「ママ、いつき、きらい?」
「いやー、そういうことじゃなくて、ねー……」
この子はどこでこんなにあざとい技を覚えてくるのだろう。
苦笑いとともに、冷や汗が出てくる。
「ほら、壱月の帰ってくる時間、わからないし」
我ながらナイス言い訳!
心の内でドヤ顔をキメていると、花斗は隣で唇を尖らせる。
「えー、いつき、よろこばせたかった」
そのまま、花斗はしゅんと肩を落とした。
「なんで?」
きょとんとして言うと、花斗は顔を上げてこちらを見る。
「いつき、ぼくとたくさんおはなしてくれる。ベッドも、おいすも、うれしかった。だから、ぼくも……おれい、したかったのぉ……」
花斗の声は、途中から涙声になっていた。よほどがっかりしたのか、目に涙を湛えている。
そしてそのままうつむくと、今度はひっくひっくと静かに泣き出した。
ああ、またやってしまった。
私はこの子の気持ちを、掬えなかったのだ。
自分のことしか考えない思考回路に、なってしまっていた。親でいるには、それではダメなのに。
花斗の心の成長が嬉しいはずなのに、胸に広がるのは嫌悪感だ。それから、この子の優しさの芽を潰しかけてしまった、罪悪感も。
だから私は「ごめんね」の気持ちを込めて、花斗の隣に膝をつき、ぎゅっと抱きしめた。
――私も、壱月の気持ちを、素直に受け取れればいいのに。
小さな息子を抱きしめながら、ふとそんなことを思う。
だから、まだ泣き止まない花斗に、私は声をかけた。
「ねえ、花斗?」
花斗はすぐに顔を上げる。
「お迎えには行けないけれど、壱月に美味しいごはんを作ってあげようか?」
だが、花斗はこちらを見つめたまま、ぴくりとも動かない。
不安になったが、私は笑顔のまま花斗に聞く。
「お手伝い、してくれる?」
「……うん!」
今度は元気いっぱいに頷いてくれた花斗は、そのままぎゅっと私に飛び付いてきた。
「お買い物、行こうか?」
「いくーー!」
花斗はさっと私から降りて、出掛ける準備を始める。
私も苦笑いを浮かべながら、その後に続いた。
コメント
1件
読んだよ〜〜!!😭💕 花斗くんの「お礼したかったのぉ……」がもう健気すぎて泣くかと思った!!ママも自分の気持ちに気づき始めてる感じ、じわじわくるね…。壱月さんの帰宅、どうなるんだろう?!続き気になる〜!🥺✨
朝永ゆうり
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