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第十話~僅かな気配~
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それから数日後。
甲斐国へ、急報がやってくることとなる。
武田信玄の元へ、砥石城から援軍を求める伝令がやってきたのだった。
「……どうした! そのように慌てて!!」
信玄が声を上げる。
伝令は息を切らしながら、必死に言葉を紡いだ。
「はっ……我が砥石城が……砥石城が……!」
「砥石城がどうしたというのだ!?」
山本勘助が鋭く問いかける。
「落ち着いて、報告をせよ!!」
「はっ……申し訳ございません!」
伝令は深く頭を下げる。
「我が砥石城が、包囲されているのです!!」
「なに!?」
勘助の声が響く。
信玄も、思わず身を乗り出した。
「それはまことか!?」
「信濃は、ほぼ制したはずじゃ!!」
「はっ、嘘ではございませぬ!」
伝令は、震える声で続ける。
「あの旗印は……小笠原!!!」
「兵の数は、五千!!」
「このままでは、我が殿が……!」
「どうか、援軍を!!」
「なんだと……」
勘助は、険しい表情を浮かべる。
「そのような動き……」
「一切なかったはずだ!!!」
信玄も、しばし黙り込む。
「ああ……なにかがおかしい」
「五千もの兵を、気づかれぬよう集めるなど……。」
やがて、信玄は顔を上げる。
「もちろん、援軍はだ……」
そこへ、別の兵がやってきた。
「申し上げます!!」
「今度はなんだ!?」
勘助が振り返る。
兵は、手にした書状を差し出した。
「はっ……とある、ボロボロの衣を身にまとった人物から、この書状を御館様に渡すよう言われました」
「先程、安全面のため中身をすべて確認させていただきましたが……」
「村上義清からの、果たし状のようです!!」
沈黙。
「果たし状だと……?!」
信玄の表情が険しくなる。
「見せろ!!!」
書状を受け取り、信玄はその内容に目を通す。
そこには、こう記されていた。
――――――――――
拝啓 信玄殿
以前は不覚をとったが、今度はまた勝たせてもらう。
真田を助けたけれ――
――
ちっ…
勘助が書状を奪い取る。
ビリッ…ビリリッ!!!!
そして、そのまま破り捨てた。
「……ちっ…嫌な手を、」
「おい、勘助!まだ読んでおるだろう!?」
信玄が声を荒らげる。
そして破り捨てた書状の切れ端を一気に組み合わせて読み、内容を把握してしまった。
「こことここを繋げて……さらに、ここを繋げて……。」
「えーと……。」
しばし考えた後、信玄は顔を上げた。
「場所はここか……やむを得ん、行くぞ……!!」
「行けませぬ、罠です!!!」
勘助の声は、冷静だが鋭かった。
信玄は、ゆっくりと勘助を見る。
「罠でも……行かねばならぬ」
「家臣は助けねば、当主として示しがつかぬ」
握りしめた拳が、ぎりぎりと震える。
そして、信玄は続けた。
「一体、裏で糸を引いている者は誰だ!?」
「小笠原や村上では、ここまでの動きはできぬ!!」
空気が、重く沈む。
「誰だ」
低く、鋭い声。
「誰が動かしておる」
「……分かりかねます」
静かに応じるのは、山本勘助。
「ですが――」
わずかに間を置く。
「相当に厄介な相手であることは、確かに」
「それは分かっておる」
信玄は、苛立ちを抑えきれずに吐き捨てる。
「問題は、“見えぬ”ことだ」
拳を握る。
勘助は、視線を落としたまま呟く。
「この動き――一過性のものとは思えませぬな……」
信玄は、しばし黙り込む。
そして、低く呟いた。
「……嫌な勘がする」
その言葉だけが、やけに重く残った。
ーーーーー
……包円は、名前を出さぬ条件で、果たし状での接触を許していた。
そして、策略を静かに仕掛けていた。
「……村上義清殿は、果たし状を出すことにしたようだ」
少々呆れたが、利用できるかもしれない。
さあ、どう出ますか――
あ に う え。
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信玄の部屋には、今も破かれた果たし状の1部が残されている。
(正々堂々やろう、信玄殿)
(我らは、希望と救いを得たのだよ)
コメント
1件
第十話、読み終えました!砥石城の窮地に始まり、村上義清からの果たし状が届く流れ、すごく緊迫感がありましたね。特に勘助が書状を破り捨てる瞬間、一気に空気が変わる感じがして、あそこは思わず息を止めてしまいました。信玄が破片を繋ぎ合わせて読むシーンの執念というか、家臣を思う覚悟みたいなものが伝わってきて、ぐっときました。それにラストの「あ に う え」、背後で動いている何かの気配を感じさせられて、続きがすごく気になります!琴寧さんの丁寧な時代劇の空気感、いつもながら素晴らしかったです🌷
琴寧
38
#織田信長
常陸之介寛浩
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