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「いってきます……」
一歩、踏み出す。
地面に立ってるのに、感触がない。
浮いているわけでも、落ちているわけでもない。
ただ、「支えられていない」という感覚だけが、はっきりとあった。
視線を上げると、廃墟のような村があった。
そこから泣き声、怒鳴り声、いくつもの不安がる声があった。
「この人たちが帰られなくなった人たち……」
あたりを見回すと幼い男の子の姿が目に入った。
4歳くらいだろうか。
村の隅で丸まり、くまのぬいぐるみを抱きながら泣いていた。
男の子が私の存在に気づき、こっちに向かって歩いてきた。
「ねぇ。お姉さん、助けて。
お母さんがね、泣いてるの。」
「お母さんはどこにいるの?」
「扉の向こうにいるの。」
男の子が指したのは私が通ってきた扉ではなく、
自分の胸のあたりに手を当てた。
「どうやったら扉の向こうに行ける?」
「僕の手を握って。」
男の子はそう言い、私に向かって手を差し伸べてきた。
ものすごく小さな手。こんな子が帰れない人に。
私は彼の手を握った。
すると、目の前に青い扉が現れ、
奥にはソファーの上で渦っくまって泣いている女性がいた。
恐る恐る扉の中に入って声をかけてみる。
「あの、大丈夫ですか?」
返事はない。まるで聞こえていないように。
「話しかけたって無駄だよ。こっちの世界の住人の声は現実では聞こえないんだ。
もちろん姿も見えない。
ねぇ、お願いお姉さん。お母さんを、、ママを笑わせてあげて。」
「、、、」
男の子の言葉に私はなんて言えばいいかわからなかった。
息子を亡くして挫折しかけてる母親に何をしてあげられるか、
私にはわからなかった。
そう思った瞬間男の子が手に持ってるくまのぬいぐるみが目に入った。
「ねぇ、そのぬいぐるみ、お母さんにプレゼントとしてあげられない?」
「僕の、ぬいぐるみ?」
男の子は迷ったように答えたがすぐ口を開いた。
「ママ、これで笑顔になる?」
「きっと。君がそばにいるよってくまさんが代わりに伝えてくれるかもしれない。」
「わかった。」
男の子はお母さんのそばにぬいぐるみを置いてあげた。
それに気づいたのか、お母さんがぬいぐるみを持ち上げる。
泣きながら言う。
「りくと、、
ごめんね。守れなくて。
ごめんね。一緒にいてあげられなくて。」
「ママ、、泣かないで。
僕、そばにいるからね。」
りくとの声は聞こえていない。
でも、女性の顔がちょっと和らいだ気がする。
少なくとも私はそう感じた。
「お姉さん、ありがとう。
ママ笑ってくれた。」
「うん。お母さんもりくとくんがそばにいてくれてるって感じてるんだと思うよ。」
女性が笑いながらぬいぐるみに向かって言った。
「りくと、『おかえり』」
その瞬間男の子の体が光り、透け始めた。
「うん。ママ、『ただいま』」
すると、辺りが白く光り、気がつくと私はもとの村にいた。
でも、男の子の姿は見当たらなかった。
「お疲れ様。」
「わっ!」
驚いて振り向くと管理人がそこにいた。
「男の子、どうなったんですか?」
「ん〜。簡単に言えば“成仏”かな。」
「そうですか。あれで本当に良かったんでしょうか。」
「答えはないよ。でも、よかったんじゃないかな。
でも、まだまだ帰れない人たちがたくさんいる。
その人たちも救ってくれ。」
「はい、頑張ります……」
気がつくとあたりは真っ暗で、誰もいなかった。
現実に戻ってきたのだ。
アスファルトの匂い。なんだか懐かしい。
そう思いながら私はアパートに歩いてった。