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風鈴高校の放課後――
桜は梅宮と一緒に町の広場を歩いていた。
今日は、いつもよりもずっと歩調が合ってるように感じる。
「お前、今日なんか変だな」
梅宮は、桜の横顔をちらっと見て、にっこり笑う。
「な、なにがだよ!!別に何も変わんねぇし!!」
いつもよりも、少し口調が強くなる桜。
その言葉には、けれど少しだけ、焦りが感じられる。
「そう?……お前、やけに照れてんじゃん」
「うるせぇ!照れてねぇし!何もっ!!」
桜は前を向いて歩くけれど、足音が少しずつ速くなっていく。
その様子を見て、梅宮は思わず苦笑する。
「……まあ、顔が赤いのは確かだけどな」
「うっ……だ、だってお前が突然……」
「手、つなごうって言ったじゃん」
「なっ、は!?」「うっ、てめぇっ!!!!」
「今、手、繋ぐの照れくさいの?」
「うっ、うるっせぇ!!照れてねぇし!!」
桜は自分の顔を手で隠す。
そのまま、少し歩調が乱れる。
「……ほんとに、無理すんなよ」
「なっ!?てめぇ、何、急に……」
「手繋ぐの、嫌だった?」
桜が振り向くと、梅宮が少しだけ顔を近づけて言った。
「なっ……別に、嫌じゃねぇっ!!ただ、べ、別にお前と……」
桜は顔を赤くして目をそらす。
「なに言ってんだよ、桜」
梅宮は、少し顔を近づけ、そして――
「お前が一番照れてるんだろ」
その瞬間、桜の心臓が大きく跳ねた。
「こ、こらっ!!バカぁ!!!」
桜は必死に梅宮を突き放すけれど、その腕を梅宮がしっかり掴んでいた。
「お前さ、何か俺に言いたいことあるんじゃないの?」
「ないし!!」
桜は真っ赤になりながら、振りほどこうとするけれど、梅宮は動じない。
「じゃあ、少しは素直になれよ」
その言葉に、桜はまた目を伏せてしまう。
「……バカ」
小さな声で、桜が呟く。
梅宮はその声を聞き逃さず、優しく笑った。
「お前、ほんっとに照れ屋だな。大丈夫、俺は怖くないって」
梅宮の手が、そっと桜の背中に回される。
「……しょーがねぇな、バカ」
桜は、自分の思いを少しずつ、言葉にしていた。
その背中が、温かいと感じた瞬間。
そして――その手がまた、桜の手をギュッと握った。
「梅宮……」
桜が顔を赤くして、少しだけ震える声を出す。
「桜」
梅宮が名前を呼ぶたび、桜は胸がドキドキと高鳴るのを感じていた。
「……ありがとな、桜。俺、絶対にお前を守るから」
その言葉に、桜は顔を伏せながらも、そっと手を握り返す。
「……うん」
言葉にはできないけれど、桜の心は、確かに梅宮の温もりを感じていた。