テラーノベル
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体調不良などなどで全く進んでいなかったのですが、ようやく書き終わる事が出来ました。何度も書き直してしまいました···こちらは悲しい終わりになります、ご注意ください。
その日はホワイトクリスマスになって、昼から雪がちらつき地面を濡らした。
寒い風が吹くなか、似たようなマフラーをつけた俺たちは何のプレゼトが良いか話をしながらキラキラした街を歩く。
「ネックレスのさ、チェーンだけ欲しくて···ほら、学校では指輪付けられないから通してネックレスにしようかなって」
「それいい、それならいつでも身に着けられる」
「あとは手袋!ほら、元貴また手凄く冷たいし」
若井の手が俺の手を暖めてくれる。
暖かさがじわり、と気持ちいい。
「だって···いつだって若井がこうしてくれるから···それが、好きなの」
隣、少し高い所にある顔を見て手に力を入れる。
「いつでも温めるけど···俺も好きだけど、俺がそうしてあげられない時のために買う、ほら行こ!」
いつだって若井がそうしてくれるから必要ないのに、という俺を連れて若井は手袋を選ぶ。
「元貴はグリーンも似合うね」
そう言って選んでくれたモスグリーンの手袋は綺麗にラッピングされていた。
「今日は、こっちがあるから」
若井と手を繋いで次はどの店にいこうか、と話しながら信号を渡る。
もっと早く車に気づいていれば、それかあと5分店を出るのが遅ければ。
事故に巻き込まれることなんて、無かったのに。
車の音が聞こえた気がしてそちらを向いた瞬間、気付けば冷たい地面に倒れ込み痛みで動けなくなっていた。
わずかに顔を動かすと、さっきまで繋いでいた手が視界に入る。
「も、と、き···?」
「若井、わかい···っ」
身体が痛い、寒い。
けどなんとか身体を起こしてその声の方へ身体を向ける。
「うそ···なんで···ひ、ひろと、動かないで···」
服に血が滲んであちこち赤くなっている。そしてそのシミはどんどん広がっている。
若井を抱きしめる。
どうしよう、どうしよう。
泣きたくないのに涙が溢れて恐怖と寒さで身体が震える。けどきっと若井のほうが寒いだろうと必死に暖めるその顔はどんどん血の気がひいて真っ白になっていく。
「もとき···俺がいなくても···がんばれ···もときなら、大丈夫だから···」
「だめだよ、俺···ひろとがいなかったら頑張れない···そんな事言わないで···いなくなるみたいなこと言わないで···!」
なんでそんなお別れみたいな事言うの、どうして段々声が小さくなるの。
若井は自分の指輪を外して俺に手渡す。
「···いなくなるわけないだろ···けど、言っておかないと後悔しそうだから···もとき、愛してる。世界で一番だいすき···」
「俺も愛してる、世界一愛してる、だからっ······ひろと?···滉斗!」
起きて起きて、なんで?
目を閉じ力無くぐったりとするその身体を抱きしめる。
救急車が来て滉斗がその場で医師たちに囲まれる。
どうかお願いします。
神様、滉斗を俺から奪わないで。
俺は滉斗と一緒に救急車で運ばれた。
けど病院で治療を受けたのは俺だけだった。
ついさっきまで隣で笑っていたのに。
なんで滉斗は静かにベッドに寝かされているんだろう。
「滉斗···!」
「おばさん···おじさん···」
「元貴くん···滉斗、なんで···っ」
おじさんとおばさんが滉斗の身体に縋り付いて泣いている。
なんで、なんでって。
早く起きてよ、皆泣いてるよ。
滉斗が起きなきゃみんな悲しいんだよ、俺だってそうだよ。
でもどんなにおじさんとおばさんが呼んでも、滉斗は目を覚まさなかった。
俺がどんなに泣いて叫んでも優しく抱きしめてくれることもなかった。
俺はその日、世界一大切な親友と世界一愛している恋人を同時に失った。
気付けば俺は真っ白な病室のベッドの上で、母親が俺の顔を見て泣いていた。
「元貴!良かった···」
「俺···なんで···?」
ぼんやりする頭で聞いているとどうやら泣いて興奮して更に怪我による熱で気を失っていたらしい。
「あ、あ···!滉斗は?滉斗のところに行かなきゃ 」
ベッドから降りるとくらくらして身体もあちこち痛い。
けど、そんなことなんてどうでもいい、滉斗のところに行かなきゃいけない。
「お願い···滉斗のところに行かせて、どこにいるの?!お願い、お願いだから···!いやだ、もう会えないなんて!!お願い!」
床に崩れ落ちる俺を見て母親は何も言わずに車椅子を持ってきてくれて、滉斗のところへ連れて行ってくれた。
そこは少し暗くて寂しい場所。
滉斗は眠っているようなのに触れた頬は冷たかった。
「やだ···なんで···!俺を置いていかないで!目を覚ましてよ!クリスマスパーティーするって約束したじゃん!ひろと、ひろと···!俺、ひろとがいないとだめなのに···!」
その身体に縋って泣いた。周りに止められるまで俺はずっと滉斗の手を握ってその身体に抱きついて泣いた。
部屋に戻って熱が上がって···夢の中でも滉斗のことを思って泣いた。
声が掠れて出なくなっても涙も出なくなって、けど辛くて苦しくてそうしたらまた涙が出て。
滉斗が家に帰ってお葬式の日が決まって、俺は何もかも受け入れられないままに参列して···何もかも夢の中の出来事のように現実味がないまま時間が流れていった。
人前では泣きそうになるたびに重ねた2つの指輪をぎゅっと握って泣かないように我慢した。
そして部屋に籠もって写真を見返して滉斗のことを思って泣いた。
「あのコテージ素敵だった海も楽しかったよね···また滉斗と泊まりにいきたかったなぁ···ネックレスも買おうって約束したのに···付き合って1年記念日をお祝いしたいよ···なんで、滉斗だけいないの?」
もう何もいらない。
何も飲まずに、何も食べずに···このまま死んだら滉斗に会えるのかな?
けど、滉斗が言ったがんばれ、の一言だけが俺をこの世に繋ぎ止める。
「ひろと···俺どうしたらいいの···?」
身体の痛みはだんだんと消えていく。
熱も下がった。
けどこの世界には滉斗はもういないのに俺だけがいつも通りに生きていくことになんの意味があるんだろう?
ただ滉斗のことだけを考えてぼんやり時間が過ぎていく俺に会いに来てくれたのは滉斗のお母さんだった。
「これ、滉斗の机にあったの。元貴くん宛の手紙、早く渡したほうがいいと思って」
おばさんもまだ悲しみの中にいるのに、俺を気遣ってくれているのがわかる。受け取った手紙は元貴へ、と書いてある綺麗な真っ白い封筒だった。
1人になってその手紙をそっと開くとそこには見覚えのある滉斗の字が並んでいて、けどいつもより丁寧に書いたことが伝わってきた。
『元貴へ
付き合って1年の記念に手紙を書こうと思いました。出会って仲良くなって恋をして長い間片想いをしていた元貴と付き合えることになって本当に幸せな1年だった。元貴の笑った顔が大好きでこれからもずっと笑顔でいてほしいです。俺がずっと守るから、これからも一緒にいてください。愛してるよ。 滉斗
大学に合格して2人で一緒に暮らすのが楽しみ!俺の今の夢です。俺も頑張るから元貴も頑張れ! 』
最初で最後のラブレター。
それを抱きしめて滉斗のことを想った。
「滉斗、俺も滉斗のことがずっと大好きだったよ···付き合って本当に幸せで···これからもずっと愛してるから···俺、がんばるよ···笑えるように頑張るから···」
また泣いたけど、滉斗が頑張れっていうなら、俺はそうしなきゃいけない。
きっと滉斗は俺のことを見守ってくれてるし、側にいるから。
俺はそのあと悲しくなるたびに滉斗の手紙を読み返してはがんばれ、と自分に言い聞かせて受験勉強をがんばった。 寂しくなったときはたくさん撮った写真を見て楽しかったことを思い出した。
そうして試験を受けて合格発表を終えて、卒業式を迎えて。
俺は大学生活を始めるために引っ越しの準備をしていた。
そんなときに、滉斗のお母さんから呼ばれて久しぶりに滉斗の部屋に入ることになった。
「合格おめでとう。もしよかったら、滉斗のもので必要ながあったら貰ってくれない?あの子、本当に元貴くんのこと好きだったから」
滉斗がいない、滉斗の部屋。
ここで何度もキスして、抱きしめて一緒に眠った。本当ならその全てこのまま貰い受けたいくらい、愛しい場所。
俺はデートによく着てくれていた滉斗のシャツとズボン、お揃いのマグカップ、あの日も身に着けいた俺がプレゼントしたマフラーと手袋を抱きしめておばさんにこれ、貰っていいですか、と確認した。
「あと···お金は払います、だからこのカメラを譲ってもらえませんか?」
「元貴くんが持っていてくれたほうが喜ぶと思うから···大切にしてあげてね」
付き合ってからたくさん2人で写しあったカメラ。電源を入れると俺と滉斗が一緒に撮った写真が何枚もあった。俺の寝顔や俺に抱きついて自撮りしたような写真も。
もしかしたら、おばさんはこの写真を見て俺たちの関係に気づいたのかもしれない。
だからこんな風に俺に滉斗のものを分けてくれて、カメラを譲ってくれたのかもしれないと気づいたのは少し経ってからだったけど。
大学生活を4年過ごしてそのまま就職して6年。俺は28歳になっていた。
「滉斗、行ってきます」
滉斗の写真の前にはお揃いのマグカップと手紙とあのカメラが置いてある。
あれから10年、毎日欠かさずに行ってきますとただいまを伝えて今日あったことを報告する、それが俺のルーティーンだった。
「滉斗、ただいま···駅前はクリスマスが近いからイルミネーションしてたよ。そろそろお墓参り行くからね、おばさんもおじさんも元気かなぁ」
今年で滉斗が亡くなって10年を迎える。毎年俺はクリスマスが近づくとお墓参りとおばさんたちに会いに行っていた。
「10年経っても変わらずに滉斗を愛してるよ」
写真の中の滉斗は笑っている。
俺も端から見れば普通に生活して普通に行きている。けどあの日のことを忘れることはないし、忘れたくもなかった。でも確実にゆっくりと滉斗を愛したことも、失ったことも俺の人生の一部になりつつある。
ずっと滉斗を想いながら日々を過ごしていた。
こんな俺がまた人を好きになって···愛して愛されて···一緒に過ごすようになるのは、まだ少し先の別のお話。
コメント
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体調良くない中、完結、ありがとうございます🙏✨ 泣きました〜🥹💦 ♥️くんに幸せになってほしいと心から思います✨ いつも素敵なお話、ありがとうございます!
ご体調は大丈夫ですか?😥 そんな中での更新ありがとうございます😢 悲し過ぎますがなんだかあたたかくて‥強い2人だなぁって涙が出ました😭 またお元気な時に更新していただけましたら、嬉しいです🥹
がんばれ、って言葉と手紙で···なんとかなんとか笑える日がくるように頑張ろうと選んだ感じで···10年間の葛藤も書いていきたいです🥲