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でも、それと同時にやっぱり不安もある。
彼の両親はきっと竜之介くんに期待をしているはずで、次男だから自由が利く立場とは言え、少なからず親御さんたちの描く彼の将来像はあるだろう。
そしてそれはきちんとした家柄の娘さんと交際させて、名雪家に相応しい、利益のある結婚なのでは無いかという事。
それなのに、私みたいな平凡どころかバツイチで子供の居るような女と、交際もしていない上に同居をするだなんて知ったらどう思うのだろう。
竜之介くんは私の事を好いてくれているけど、私は凜の事もあるから簡単には気持ちに応える事も出来ない。
だけど、困っているところに手を差し伸べられて、戸惑いながらもその手を取って、ついつい頼ってしまう。
果たしてそんな事でいいのだろうか?
「亜子さん」
「何?」
「あのさ、もしかして、また何か余計な心配してるんじゃない?」
「え? ど、どうして?」
色々考えていると、またしても竜之介くんは私の変化に気付いて問い掛けてくる。
というより、何でそんなに鋭いのだろう?
いつもいつも心の奥を見透かされている事に疑問を感じていた私だけど、それは彼の次の言葉で分かった。
「亜子さんは気付いて無いんだろうけど、何か心配事があるとすぐに表情が暗くなる。今度は何で悩んでるの?」
「…………その、私と同居する事を、ご両親にはどう話すのかなって……気になって」
「ああ、そんな事? 別に隠すような事じゃないから普通に話すよ。親父には社員である岡部の素性も話したから、亜子さんが困ってる事も知ってる。そこに俺の亜子さんへの気持ちを話して、今は知人という立場で亜子さんたちの手助けをする為に一緒に住む……そう説明をしようかなって」
「…………」
「亜子さん、そんなに心配しなくて大丈夫だよ。うちの親は意外と放任主義だし、亜子さんが考えてる程お堅いイメージの人間じゃない。それに俺はもう子供じゃないから、同居をするのにいちいち親の許可を貰う必要も無いんだ。俺のやりたいようにやる、それだけ」
そう話す彼は凄く大人びて見えて、思わず見蕩れてしまう。
凜がいなかったらきっと、私はすぐに彼に落ちていると思う。
凜が生まれて、正人と別れて、もう絶対、恋愛なんてしないって思ってた。
自分の事よりも凜の幸せを第一に考えようって、思ってた。
だけど、
彼に――竜之介くんに出逢って、
私は思い出してしまった。
異性に対する胸のときめきや、
誰よりも知りたい近づきたいと思う独占欲。
そして、
触れたい、触れられたいと思う欲求を。
「……亜子さん?」
「……竜之介くん……」
これはきっと、お酒のせいだと思う。
酔いが回っているから、
正常な判断がしにくくなっているのだ。
ふと、視線がぶつかり合った私たち。
彼に対して感じている様々な気持ちを再確認してしまった私は竜之介くんから視線を外す事が出来なくなってしまう。
「――亜子さん」
互いに見つめ合っているさなか、もう一度私の名前を口にした竜之介くんが手を伸ばしてくると、彼の指が、私の顎に優しく添えられた。