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「……亜子さん、いい?」
そんな風に断りを入れてくる辺り、彼らしいなと思う。
だけど、本来なら私はここで『駄目』と答えるべきなのに、やっぱりそれは出来なくて。
「…………」
『良い』とも『駄目』とも答えない代わりに、小さく頷いた。
答えなくても、それが『良い』の合図だと分かるから。
正直、この答え方が一番狡いと思う。
だけど、
今の私にはこれが精一杯の応え方だった。
「…………っん……」
私が頷いたのを確認した竜之介くんはゆっくり私との距離を縮めてくると、彼の唇が私の唇を優しく塞ぐ。
キスなんて、いつぶりだろう?
柔らかくて温かみのある唇の感触、重ねただけなのに何だか心地よくて安心感を得られる不思議な感覚。
言葉では表せないくらいに愛おしく、特別な感情が私の頭の中を駆け巡る。
初めは触れるだけの優しい口付けを何度か交わしていただけだったけれど、回数を重ねる毎にそれでは物足りなくなっていったのは彼も同じだったようで……、
「……ん、……っ」
徐々に、啄むようなキスから少しだけ強引さを増した口付けへと変わっていき――彼の指が私の顎から離れて少し淋しさを感じたのも束の間、今度は竜之介くんの指が私の髪や耳を掠め、首筋から後頭部を支えるように捉えてくる。
それによって、これまで以上に拒む事は出来なくなるけど、そんなつもりは全く無くて、
「……ッん、……はぁっ、」
何度も何度も角度を変えながら奪われるよう強引なキスをされていく私の身体からは力が抜けていくと同時に息も上がっていき、息継ぎをする間も減っていく。
そして――
「……っんん……、っ」
気付けば彼の舌が私の唇の内側へ入って来て、優しく私の舌を絡めとった。
ついさっきまでは強引さがあったのに、舌を絡めとられるとまた優しく控えめなものへと変わっていき、心地良い感覚に頭がフワフワするけど、それだけじゃ少し物足りなくもあって、もどかしい気持ちが溢れてくる。
決して自分本位にならない相手を思いやる優しいキスは彼そのもので、そんな竜之介くんにだからこそ、私は唇を許したんだと思う。
考えてみれば、こんなに思いやりのあるキスは初めてだった。
そしてそれは私を大切に想ってくれているからこそなのだと思い、彼への愛しさがより一層増していく。
「……っん……、はぁ……っ」
互いの舌を感じながら少しずつ深いものへと変わるその感覚が気持ち良くて、もっと欲しいと自ら強請るように少しだけ強引に舌を絡めていくと、竜之介くんも同じように応えてくれた。
キスだけでこんなにも幸せな気分になれるなんて、私は知らなかった。
彼になら身を任せられる、もっと深く、彼に溺れたい――そんな思いが、私の心を支配する。
互いを求め合い、いつしか私の身体は彼に支えられながらソファーの上に優しく倒されていた。
そして、名残惜しい気持ちを残しつつも一旦唇を離した私たち。
乱れた息を整えながらも、視線は外せない。
私の上に跨り、見下ろしてくる竜之介くん。
これが正人だったら恐怖で身体が強ばってしまうけど、愛おしい竜之介くんだから安心出来るし、彼にならば全てを支配されても良いとさえ思ってしまう。
(私……竜之介くんの事が、好き……)
自分の気持ちにはっきり気付いてしまうと、もう、止められなかった。
それは竜之介くんも同じのようで、少し遠慮がちに私の頬に触れて来ると、そのまま覆い被さるように近付き、再び唇を重ねてきた。
最初と同じで触れる程度の優しいキスから始まり、唇が離れたと思ったのも束の間、竜之介くんは私の耳朶にチュッとリップ音を立てて口付けると、
「亜子さん……好きだ」
囁くように、好きだと想いを口にしてくれる。
耳朶にキスをされたせいか耳元で囁かれたせいか、恥ずかしさと擽ったさが混ざり合い、私の体温は更に上昇していくのがよく分かる。
彼の想いに応えたくて、想いを伝えたくて『私も好き……』と言いかけたけれど、どうしてか、まるで喉に張り付くように言葉が止まってしまって口にする事が出来なかった。