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ティナ達が日本を満喫している頃、地球から十万光年の彼方にある天の川銀河の反対側に位置する惑星アード。
海洋惑星であるアードにおいて最大の陸地面積を持つケレステス島。豊かな自然に恵まれたその島の中心地には、アードの中枢であり指導者であるセレスティナ女王が住まうハロン神殿が静かに佇んでいる。
神殿最奥は女王のプライベート空間で立ち入りが禁じられているが、それ以外の区画はアードの政府に当たるアード永久管理機構の各部署が設置されている。
中庭が見える渡り廊下で、アード政務局長パトラウスは職員らを引き連れて進む。大会議室で行われた定例会議が終わり、政務局へ戻る最中である。そんな彼らの向かい側からリーフ人の集団が現れて、双方歩みを止める。
「パトラウス殿」
「これはフリースト殿、先の定例会への参加を改めて感謝させていただく」
リーフ人の集団の中心人物がパトラウスと挨拶を交わす。彼はアードに住まうリーフ人を取りまとめるフリーストである。
「何の、あなた方は故郷を失った我々を暖かく迎え入れてくれ、更に対等の立場として礼を尽くしてくれているのだ。定例会への参加を許していただけるだけでも望外の事。この恩義に報いるためならば、我々はどんなことでも協力は惜しまない」
「それは心強い、今後とも手を携えていきたいものですな。それで、何かご用ですかな」
リーフ人の居住区が存在する浮き島へ向かう転送ポートは反対側にある。つまり、フリーストはパトラウスを待っていたのである。それを察せられないパトラウスではない。
パトラウスの質問に、フリーストの表情に影がさす。彼だけではない。取り巻きのリーフ人達も同様である。
「我らは大恩あるあなた方の繁栄を何よりも望んでいるし、その為ならば何でもする覚悟がある。しかしながら、この楽園に紛れ込んだ忌み者の存在を憂慮しているのだ」
「例のリーフの少女か」
「左様、あの忌み者は必ずやアードに災悪を招く。これは我らの長きに渡る歴史で証明されているのだ。どうか、パトラウス殿のご助力を」
「フリースト殿」
熱弁を振るうフリーストをパトラウスは止め、続けて口を開く。
「先の御前会議の結果は変わらぬ。女王陛下はあの少女が保護されることを望まれた。この決定は覆ることはなく、我らも女王陛下のご意志を何よりも優先する」
「パトラウス殿!」
「今一度申し上げる。フリースト殿、リーフの為にならぬ。この件に関する異議申し立ては、アード人の不快を招き双方の関係にヒビを入れる結果となる。お控えあれ」
「しかし……」
「リーフにも慣習があることは承知しているし、最大限尊重させていただく。しかしながら、この件だけは覆らぬ。繰り返すが、リーフの為にならぬ。お控えあれ」
パトラウスの言葉にリーフ人達は絶望の表情を浮かべるが、フリーストのみは平静であった。
「パトラウス殿のご意見は良くわかった。我らのためを思い忠告してくれたことに感謝を申し上げる。時間を取らせて申し訳なかった」
「構わない、フリースト殿のためならばいくらでも時間を作ろう。それでは」
パトラウス一行が立ち去り、その場にはリーフ人達が残された。
「族長、如何なさるおつもりか!アード人達はあの忌み者を匿う腹積もりだぞ!」
「何と恐ろしいことを!我々は災いが降り掛かるのを座して待てと言うのか!」
「何と言うことだ、アード人達は事の重要性を理解していないっ!」
「これでは、この楽園も災いの業火に焼かれる事になる!」
リーフ人達が戸惑い叫び始めるが、フリーストが右手を挙げると静まり返る。
「皆、静まれ。ここは討議に相応しい場所ではない」
彼らは転送ポートから移動してリーフ人の里がある浮き島へと戻った。そのまま石造りの集会所へ向かう。そこには既に大勢の老若男女のリーフ人達が集まっていた。
静まり返った集会所にてフリーストは再び口を開く。
「我が同胞達よ、残念ながらパトラウス政務局長への直訴は失敗に終わった。アード側はセレスティナ女王の意志を最優先とする。忌み者を、災いの子を保護する決定を覆すつもりは無いようだ」
「そんな!」
「我々の安寧が!」
「また我々は安息の地を失うのか!?」
再び騒がしくなったが、フリーストが右手を挙げると静まり返る。
「族長、セレスティナ女王への直訴を行ってみては?」
「私もそう考えて女王との謁見を申請してみたのだが、断られた。滅多に人前に姿を現す方では無いし、今後も見込みは薄いだろう」
「何と言うことだ……」
「我々は滅びの時を黙って受け入れよと!?」
「静粛に。事ここに至り、アード内部であの忌み者に手を出すことは出来ない。それをすれば外交問題となるだろう。しかし、アード以外であればやり様は幾らでもある」
フリーストの言葉に場がざわめく。
「各自、軽挙妄動は慎むように。然るべき時に然るべき手段で忌み者を除く。宇宙は危険で満ちている。不幸な事故は幾らでも起き得るのだからな」
「「「おおおっっ!!!」」」
フリーストの言葉にリーフ人達が表情を明るくする。不幸な事故を装ってフェルを始末する。大半のリーフ人はその行いが如何に不条理なものか理解する素振りも見せない。
自分達の行いは正義であり、アード側は無知ゆえに仕方がないのだと。傲慢な考えではあるが、排他的で閉鎖的な彼らからすれば自分達の慣習こそが何よりも優先されるものなのだ。
「ばっかみたい」
熱に浮かされたような周囲の大人達を冷ややかに見つめて呟く少女のように、極一部の例外を除いては。
ハロン神殿最奥、セレスティナ女王のプライベート空間である。その一画に彩り豊かな花が咲き乱れる花畑が存在していた。
その中に一つだけあるベンチに腰かけた女性。彼女こそ、二千年に渡りアードを率いるセレスティナ女王である。
彼女にはリーフ人達の企みが聴こえており。
「はぁ……」
その企みの内容を耳にして、憂いを帯びた瞳で星空を見上げていた。