ばっちゃんと美月さんがハグを交わして謝罪は盛大に終わった。いや、ハグを交わした瞬間のフラッシュはビックリするくらい激しくで目を瞑ってしまったよ。写真撮られてないと良いなぁ。
ちょっと大袈裟に思えたけど、ばっちゃんが言うには大事なことらしいので何も言わないことにした。
ハリソンさん達から時間が欲しいと言われたし、引き続き日本に滞在することになった。
「まだ日本に居て良いですか?」
「勿論よ。それに、何処に行くか決めるのはティナちゃん自身なんだし、私達がとやかく言う資格なんてないもの」
何だか水面下でバチバチやってそうな感じがしたけど、美月さんが大丈夫と言ってくれたから甘えることにする。
もちろん滞在させて貰っているのでちゃんとお礼もする。トランクは異星人対策室が管理することになってるから、医療シートを提供することにした。
「美月さん、少ないですがこれを。日本でお世話になるお返しです」
私物のトランクから医療シートを二百枚取り出して美月さんに手渡……嵩張るから、取り敢えず机に並べさせて貰った。
「これは?」
あっ、実物を見たことがないんだ。
「医療シートですよ。傷口に貼れば、貼った場所の怪我を直ぐに治してしまうんです。ただ、病気や内臓関係には効き目がないから気を付けてくださいね」
あくまでも傷口を塞ぐ魔法具だ。血管までは治してくれるけど、内臓には使わない方がいい。お母さんが言うには、ガンがあった場合がん細胞も元気にしてしまうらしいからね。詳しくは分からないけど。
私が説明すると周りの皆さんもどよめいた。効果は合衆国で証明されているからね。
「こんな貴重なものを……良いのかしら?」
「ハリソンさん達にも説明しましたし、これは私からの気持ちですから」
ハリソンさんには昨晩のうちにジョンさん経由で相談したんだけど、トランクだけでも交易品の対価としては充分すぎる価値があるみたい。だから、医療シートについては自由にして欲しいって許可も貰った。
私だって少しは学ぶのだ……フェルに相談して慌てて連絡したのは秘密ダヨ。
「そう……ありがとう。本当に必要な人たちのために使うことを約束するわ。もちろん富豪や地位のある人を優先するような真似はしないから安心して」
「美月さんのことは信用していますから、使い方までは口を挟みませんよ」
美月さんならちゃんと正しい使い方をしてくれる筈だ。高値で取引されて、一部の人が独占するような事態は起こして欲しくないし。
合衆国も政府が厳正に管理してくれているからね。
それに、プレゼントしたからには使い方に口を挟まないのが礼儀だろうし。トランクは劇物だから口を挟むけど、医療シートは人助けにしか使えない。使う相手を選ぶのは地球人だけど、まあ悪さは出来ないよね。多分。
「ありがとう。引き続き日本で過ごしてくれるみたいだけど、宿泊場所はどうするの?新しく手配することも出来るわよ?」
色んな宿を体験できるのは魅力的だけど、今回はフェルも気に入っているみたいだし今の旅館でお世話になりたいかな。
「出来れば今滞在している旅館で過ごしたいんですけど、駄目ですか……?」
「もちろん構いませんよ、妻も喜ぶでしょう。引き続きおもてなしをさせていただきます」
美月さんの代わりに朝霧さんが答えてくれた。女将さんは朝霧さんの奥さんだし、その事も安心材料の一つだ。
「では引き続き旅館を利用していただこうかしら。朝霧主任、代金は心配しないでちょうだい。必要なものがあったら政府が手配するわ」
「ありがとうございます、首相」
あれ?朝霧さんいつの間にか主任さんになってる?良かった、出世しているんだね。
「せっかく滞在期間が延びたのだから、まだまだ日本の魅力を堪能して貰いたいわね。ガイドしましょうか?」
美月さんが提案してくれた。良い機会だし、行きたい場所を伝えておいた方が良いだろうね。
「実は行きたい場所がありまして」
「あら、何処かしら?」
この時、椎崎首相の質問は軽いものであった。ティナ達は来日二日目であり、関東圏の何処かであると思っていた。
だが、ティナの存在がいつものように予定を狂わせていく。
「屋久島に行って屋久杉を見てみたいと思いまして」
「やっ、屋久島?」
「もちろん今すぐじゃありませんよ?旅館に戻って、二時間くらい休憩してから向かう予定ですから。あっ!転移を使うので移動のことは気にしないでくださいね!」
ティナとしては日本政府の負担を軽減しようと言う考えだったのだが、いきなり遠方を指定された日本政府としては大問題である。
ティナ達が国会議事堂を去った後、政府は上から下まで大騒ぎとなった。
「直ぐ現地に警戒体制を敷いてください!」
「無茶言わないでください!数日時間があるならまだしも、二時間後なんて物理的に無理です!」
「現地の警察署からはとても無理だと!」
「また現地には多数の観光客が滞在しています!混乱が起きる可能性も!」
「警官が足りないなら他所から応援に回せば良い!」
「二時間では無理ですよ!」
「鹿児島は!?船を使えば二時間以内にいけるだろう!」
「鹿児島県警より、選抜と準備に最低でも一日は欲しいと!」
「それでは間に合わんではないか!」
「九州各県警からも人員に余裕がないので今すぐに派遣するのは無理と連絡が!」
「警視総監より、せめて一週間前に連絡が欲しいと抗議が届きました!」
「そんなのはあちらの都合だ!我々に文句を言われても困る!」
大勢が慌ただしく行き交い怒号が飛び交う会議室の惨状を目の当たりにして、椎崎首相は頭痛を覚えていた。
「なるほど、合衆国が手を焼く訳ね」
「ティナさんに無理だと伝えましょうか?」
彼女に声をかけたのはオブザーバーとして残った朝霧さんである。日本でティナ達ともっとも関わりがある人物として昇進を果たせたが、突然の大出世に本人が胃痛を訴えているのはご愛敬である。
「ティナちゃんだけならお願いしてみるけれど……ティリスちゃんは駄目よ。あの子、底知れないわ」
「……お気付きになったのですか?」
「同じ女だもの、分かるものがあるわ。少なくともあの子を見た目通りに扱ったら酷い目に遭う。そんな気がするわ。そんな子が側に居る以上、お願いを無下には出来ない。むしろ行き先をちゃんと教えてくれるだけでも好意的だわ。ティナちゃん達は私達の事を完全に無視しても構わないのだから」
「……少しだけ離れます。ケラー室長ならば、良い案があるかもしれません」
「お願いね……胃薬と頭痛薬もお願い」
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