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午前1時03分。
メモリア・パーク西区、取り壊し寸前の「ホラーハウス・ノクターン」。
雨漏りのような音がポタポタと響き、カビと古血の匂いが入り混じったような空気が漂っている。
誰が言い出したのか分からない。
けれど、明確だった。
「第六の影探しの舞台は……ここ」
「対象は――一ノ瀬美緒」
「……嫌だ、入りたくない。絶対、ここだけは……!」
美緒はかぶりを振って泣きそうになった。
「美緒……!」
紗季が手を伸ばそうとしたが、美緒はそれを払いのけるようにして、一人で建物の中に駆け込んだ。
「……誰かに頼ってばかりじゃ、いけないのよ……」
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ホラーハウスの中は、まるで時間が止まっていた。
昭和の人形、ぼろぼろのベッド、吊るされたマネキンの手足。
けれど、恐怖よりも奇妙な安心感があった。
「懐かしい……なんで?」
美緒の足が自然に奥へと向かっていた。
階段を降りると、小さな和室。
その真ん中に――天音が座っていた。
「……天音?」
だがその天音は、見るからに“異質”だった。
どこか透けていて、微笑みの奥に哀しみを閉じ込めているような表情。
「やっぱり、美緒ちゃんだね。ここまで来たんだ」
「……会いたかった……ずっと……」
美緒は駆け寄り、天音に抱きつこうとする――だが、腕はすり抜けた。
「これは記憶。わたしの“影”が見せてるだけなの」
「記憶……?」
「うん。――わたしが死んだ日の、前日の記憶」
美緒の顔が青ざめる。
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「“あの日”、美緒ちゃんは気づいてたんだよね?」
「わたしが“何かに巻き込まれてる”って」
「でも、怖くて……何も言わなかった」
「それが、“選ばれし者”の条件なんだよ」
「やめて……やめて……!」
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床が抜け落ち、世界が反転する。
一ノ瀬美緒は、薄暗い牢屋のような空間に閉じ込められた。
無数の**「自分」**が、鉄格子の向こうに並んでいる。
笑う美緒、叫ぶ美緒、泣き崩れる美緒――
どれも“選ばれなかった未来”。
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そして、壁に3つの問いが浮かび上がった。
【問い:一ノ瀬美緒が本当に望んでいたことは?】
A:天音を助けたかった
B:天音の代わりに消えたかった
C:本当は、天音が羨ましかった
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(……私、ずっとわかってた。天音は、何かに巻き込まれていた。でも……)
(でも……助けたら、私が“消される”気がした。だから……)
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涙を流しながら、美緒は答えた。
「C……本当は、羨ましかった。
強くて、綺麗で、みんなに好かれて……。
私は、私自身すら……嫌いだった」
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鏡が砕ける音。
影がねじれて現れ、美緒の前に“赤い人”が現れる。
だがその姿は、少し変わっていた。
顔の一部が、美緒と“似ていた”。
(……これって……)
「影は、自分の心の裏返し」
「だからあなたの影は、あなた自身の一部」
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美緒は震えながら手を伸ばす。
影に触れた瞬間、光が弾けて――
気がつくと、外に立っていた。
彼女の手には、第六の影の欠片。
それと引き換えに、“天音の記憶”がまた一つよみがえる。
天音のノート。そこには、こう書かれていた。
『私が“最後の影”になれば、みんなを救える』
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「美緒……!」
秋冬たちが駆け寄るが、美緒はしばらく何も言えず、ただノートを見つめていた。
「これが……天音の、“最後の選択”だったの……?」