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世界は、音を失っていた。
灰色の空間に、ひとり立っている。
星条旗の瞳をした彼は、自分の呼吸だけを聞いていた。
🇺🇸「俺が、本物だ」
呟きは、壁もない場所に吸い込まれて消える。
その背後で、影が揺れた。
振り返らなくても分かる。
そこにいる。
赤と青と白を宿した、もうひとつの存在。
🇷🇺「お前は作られた理想だろ」
低い声が、静かに刺さる。
彼は振り返る。
そこに立っていたのは、自分と同じ高さ、同じ輪郭、同じ空虚を抱えた存在。
違うのは、目の奥。
片方は光を宿し、
片方は光を拒んでいる。
🇺🇸「偽物が、何を言う」
言い返す声は、思ったよりも掠れていた。
空間が歪む。
足元に落ちる影が、二つではなく――ひとつだけ重なっていることに、まだ気づかないふりをする。
🇺🇸「お前がいなければ、俺は完璧だった。お前がいるから、俺は壊れた」
言葉を投げるたび、胸にひびが入る。
否定は、刃物のようだった。
相手に向けたはずの刃は、同じ角度で自分を裂いている。
距離を詰める。
掴みかかる。
――触れられない。
拳は、空を切る。
指先は、すり抜ける。
まるで煙を殴っているようだ。
🇺🇸「消えろ」
叫んだ瞬間、視界が白く弾けた。
目の前の存在が、粒子になって崩れていく。
赤と青がほどける。
形が失われる。
勝ったのか。
やっと、排除できたのか。
そう思った瞬間。
自分の腕も、透けていることに気づく。
心臓の音が、二重に鳴る。
いや、最初からひとつだった。
崩れ落ちていく相手が、最後に微笑う。
🇷🇺「お前も、俺だ」
理解が、遅れてやってくる。
否定し続けた存在は、分裂した自分自身。
理想と現実。
光と影。
強さと弱さ。
片方だけで立てるはずがなかった。
互いを消そうとした瞬間、
支えも同時に壊していた。
輪郭が溶ける。
視界が暗くなる。
最後に見えたのは、床に落ちた二つの欠片。
どちらもひび割れ、原形を失っている。
音が、途切れる。
空間に残ったのは、何もない静寂だけだった。
本物は、どこにもいなかった。
最初から、存在していなかったのだから。
――終。