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「いってきます」
棚に置いたマジックバー&バーで恋斗から貰ったトランプに向かって
いってきますを告げて家を出て会社に向かう。
「おはようございます!」
オフィスに入り、誰にとかではなく全体に挨拶をする。
「おはよー」
「おはようございます」
先輩や後輩から挨拶が返ってくる。
「お、元気だねぇ~」
夕彩(ゆあ)がオフィスチェアーを半回転させ、星夏(せいか)を見て言う。
「お、夕彩おはよー」
「おはよー。やけに元気じゃん」
「なんかね。やる気が出たのよ」
「昨日で?」
「そおぉ~」
デレェ~っとした言い方をする星夏。
「うわぁ~。リア充なりたての高校生女子って感じでムカつくぅ~」
デレェ~っとした言い方で返す夕彩。
「えへへぇ~」
「あ、千石ー」
「はい」
夕彩が先輩の青音羽(あおば)に呼ばれる。
「今週末の打ち合わせだけど」
「はい」
「資料なんだけどさ」
「はいはい」
夕彩がオフィスチェアーで移動して青音羽の元へ行く。
「あ、郷堂(きょうどう)さんもちょっといい?」
と青音羽に呼ばれて四季(しき)も青音羽の近くに立って行く。
「おっとぉ~。四季ちゃんに聞こうと思ってたことがあったんだけどぉ~…」
と呟きながら辺りを見回す。仲が良くて今いるメンバーは先輩の俊(しゅん)、後輩の怜視(さとし)。
先輩に捕まるとめんどくさいし、さっぱりしてる有恩(ありお)くんに聞こー
と思って
「有恩くん」
と怜視に話しかける星夏。俊は
今、なんかめっちゃ傷つくこと思われた気がする。
と思いながらキョロキョロしていた。
「はい。なんですか?」
「今度の企画会議のテーマってなんだっけ?」
「覚えといてくださいよ」
「いやぁ~、なんか」
採用されなさすぎて聞き流してたとは言えん
「忘れちゃって」
てへぺろ気味に言う星夏。
「…三次元だと萌えねぇ~なぁ~…」
星夏に聞こえないように呟く怜視。
「ん?テーマなに?聞こえなかった」
「紙パック飲料です。470の」
「あぁ~。そうだったそうだった。ありがとう」
「いえ」
「ちなみに有恩くんはどんな方向性で考えてるのぉ~?」
「言わないですよ」
「なんでよぉ~」
「コンセプト被ったら嫌ですし」
「コンセプト被らないために知りたいんじゃん」
「…あぁ。そーゆー考えもあるか」
と言っている有恩(ありお)怜視(さとし)。現在23歳。彼の話を少しだけ。
現在怜視は会社に同性の友達が1人もいない。その理由は入社してすぐのこと。
怜視は大学を卒業し、新卒として今の会社に入った。
新卒で入ったメンバーはそこそこいて、最初のうちは入社したてで不安ということもあり
部署など気にせず、新卒メンバーで集まってお昼ご飯を食べたり、お昼休憩の時間を過ごしていたりした。
しかし会社に慣れるにつれ、怜視以外のメンバーが愚痴をこぼし始めた。
「あれってパワハラになるんじゃね?」
とか
「気遣われすぎて嫌だぁ~」
とか。そんな冗談半分の笑い混じりに愚痴を言っていること自体そもそも怜視はあまり好きではなかったが
その日は特に気が立っていた。その理由は前日。怜視は隠しているが、鬼のような二次元ヲタクである。
毎期、原作を知らないアニメでもとりあえず1話だけ見るほどのヲタクっぷり。
もちろん原作を読んでいるアニメはいわずもがな見る。しかし“好きが故”に文句も出る。
「…はあぁ~…。原作ラノベアニメあるある。1話目に作画の力入れすぎて
2話目からの作画崩壊が激しいやつ…。原作の作画が綺麗すぎて落差がすごいんだよなぁ〜…。
あとラノベ原作あるあるだけど、ハーレムとか釣りエロとか多いんだよなぁ〜…。
これも1話目からパンツ見せたりとか…。なんなんこいつ。ギャルとか美少女じゃなくてただのビ○チじゃん。
こんな作画とか尻軽だったらメダカどころかオタマジャクシでも惚れないわ」
とか
「うわぁ~…。原作好きなだけに…。声優さんが合ってねぇってか、声優さんが下手すぎる。
誰だ?新人さんか?こんな素晴らしい原作をステップアップ枠で使わないでくれ。
顔に出る出ないじゃなくて声に表情が出てねぇよ」
とか
「うわぁ~…。ま、そっか。そうだよな?ダンス…うん。ダンスの滑らかな動きを表現するには
3DCGアニメーション使わないとだよな?ただ…3DCG気持ち悪いんだよなぁ~…。
アニメって感じがしなくてオレは好きじゃない。しょうがないんだろうけど」
とか
「これもか…。そうだよな?ドラムとギターの激しさを表現するためなら3DCG使うよな?
仕方ない仕方ない。ただなぁ~…。やっぱキモいんだよなぁ~…。
あんなのをアニメーションで描くとしたら頭おかしくなる枚数必要だから
アニメーターの方のことを思えば、3DCGなんだろうけど…。顔の立体感もキモいし
あとこの作品の特徴でもあるお嬢様の特徴的なツインテ(ツインテール)とか
ストレートのロングヘアーが塊で動いてるのも無理」
とか。もちろん文句だけではなく、良い方もある。
「うちの会社でこんな金髪インナーカラーしてたら怒られるわ。
いや、他のキャラもインナーカラーのキャラばっか。普通に怒られるわ。作者様インナーカラーフェチか?
あと「だっちゃ」「だっちゃ」うるせぇ。ラ○様か。
原作者様ラ○ちゃん好きなんだろうなぁ~…。でもなんかうぜぇ。
男からは好かれるタイプかもだけど、女子からは嫌われるタイプだよな。…知らんけど。
会社では「怖そう」とかで距離置かれてる設定だけど
単純に同性からは嫌われるタイプだろ。…いや、知らないけど。
ただぁ~…釣りエロもしてないし、話的には素晴らしくおもしろいんだよなぁ~…。
原作の絵も綺麗だし、アニメの作画も割と安定してるし
声優さんも、豪華ってほどではないけど皆さん素晴らしい演技されてるし。
…髪色のリアリティーのなさくらいは…目を瞑るか…。
いや、でも広報部だからといって髪色白はないだろぉ~…。
あとこれはアニメ1クール12、3話だと仕方ないことだけど、話の展開が鋭角すぎる。急ハンドルすぎる。
…でもこればっかりは原作者様は悪くないんだよなぁ~…。難しい…」
とか
「…最高か?おい。なんでオレはこんな素晴らしい作品を知らなかったんだ?
animania(アニマニア)に置いてありました?太陽くらい眩しくって見られなかっただけなのか?
…はっ!アニメ放映で原作に何かしら特典がついているのでは?会社終わったら原作全部買お」
とか
「なになにっ!?ハンパねぇ!!原作好きで読ませてもらってましたけど
まさかアニメが原作の神作画のままとは!!再現率ハンパねぇ!!
おい嘘だろ…。アニメーターさん、いや、アニメーター様神かよ。声優さんもガッチリハマってやがる!
おかしいって。もうここまで最高だと逆におかしいって。
珍しいんだよねぇ~、メインヒロインが異常に可愛い作品って。
だいたいはサブキャラのほうが可愛かったりするんだけど、メインの吉田さんが可愛いのなんのって。
泉さんがマドンナ的キャラとして描かれてるけど、吉田さんのほうが可愛いのよ。
まあ、柚川さんも別ベクトルで可愛いんだけどね?
吉田さんは美人50の可愛い50、柚川さんは美人10可愛い90みたいな?
で、矢野くんは角度によって顔の印象変わるけど、横顔がとんでもなく美しいんだよね…。あぁ…尊い…」
と自然と「尊い」が漏れ出たり
「はいぃ~!声優様ドンピシャ!合ってる!合ってるよ!こう…田舎から出てきました。
自分ではいいこと言ってるとは思ってないけど、田舎で育って純粋だからこその意見が刺さる感じね!
あぁ~。オレもローファーでスキップしたくなってきた」
とか
「意外と5分枠って良作多いんだよなぁ~。美術と武術間違えて、最強になった妹に
曲げちゃいけない方向に曲げられる兄とその周囲の日常の話とか
ヤッピーなホストの話とか、キャラ多すぎなピアスのアニメとか」
とかを暗くした部屋でリビングのテレビで見ながら1人で静かに大騒ぎしていた。
そんな感情がグチャグチャの状態で出社して、いつも通り新卒のメンバーと一緒にお昼を食べ
お昼休憩の時間も共に過ごしていた怜視。そしていつも通り愚痴が始まった。
「いやっ、マジでさ。あれやってこれやってって、割とガチでパワハラくせぇんだけど」
「私は逆に仕事なさすぎて無理。気遣われすぎて居心地悪い」
とか。それを聞いていた気が立っていた怜視は
あぁ~…うるせぇ~…。作画の悪さとかリアリティーの無さとか
演技力ない声優さんとか3DCGアニメーションのキモさとかでイライラしてるし
神作品を知らなかった自分にもムカついてるし
神作品の原作を買いにanimania行きたいから早く会社終わって欲しいし…
あとなに?この会社でハラスメントとか騒いでんの?
桃瀬くんは黒田さんに死ぬくらいパワハラされてたんだからな。お前らの比じゃねぇっての。
ま、そのお陰で素晴らしい上司に巡り会えたわけだから、ある意味では黒田さんには感謝だけど…
などと考えており
…あ。もういいや
と思った。
「ハラスメントハラスメントうるせぇな」
呟くように言う。いつも自発的には話すことなく、話を振られても二、三言しか発さない怜視が
自発的に口をひらいたということで全員の視線が怜視に集まる。
「んなんならさっさと辞めろよめんどくせぇ。辞めるつもりないならそれ直接本人に言えよ。
自分でやってくださいとかもっと仕事くださいとか。
それ言えないくせにハラスメントで全部片付けようとしてんんじゃねぇよ。
ハラスメント側もこんだけ乱用されてハラスメントだろ。
あと周囲にも気遣えよ。くだらねぇ話してるのも充分にハラスメントだってこと。
マジくだらねぇ。一緒にされたくないからもう誘わないで」
と言ってその場をあとにした。プツンとなにかが切れたように楽になった気がした。
そして自分のデスクでワイヤレスイヤホンをして
アニソン(アニメソング。キャラクターソングや主題歌など)を聴いて自分の時間を楽しんでいた。
そしてこれは怜視と同じく友達のいない郷堂(きょうどう)四季(しき)の話にも繋がる。
あるとき怜視は1人で社員食堂に足を運んだ。生姜焼き定食を頼んで受け取って席に座る。
ワイヤレスイヤホンをしてアニソンを聴きながら食べる。
「っつ(訳:熱っ)」
味噌汁を啜るが怜視は猫舌なため、飲めなかった。だんだんと社員食堂が混み合ってきた。
怜視と同じ新卒組も来るが、もちろん怜視の近くには行こうとしない。
四季も仕事を一区切りさせ、社員食堂に行ったが
新卒組の近くには空きがなく、トレーにお昼ご飯を乗せたまま彷徨う。
すると怜視の向かいが空いていることに気づいた。
どうしよう…あの人こないだいろいろ言ってた恐い人だよね…
でも私もちょっと思ってたことだったからスッキリはしたけど…
なんて思っていると怜視が四季を見る。目が合う。怜視は右耳のワイヤレスイヤホンを外し
「座ります?」
と四季に言う。
「あ…」
ここで断ったら
「あ?せっかく誘ってやったのに断る?は?」
とか言われるかな…
と勝手にガタガタと頭の中の四季が怯えていた。
「すいません。じゃあ、失礼します」
と言って座る四季。怜視はワイヤレスイヤホンを付け直す。
「…。…あ。社食、よ、よく来るんですか?」
「ん?あぁ。まあ、はい」
「お、美味しいですもんね。あと、や、安いし」
「はあ。そうですね」
話おもしろくないって思われたぁ~!
と勝手に思う四季。
「あの」
「はっ、はい!」
「別に無理して話そうとしなくていいですよ
「え?」
「自分無言でも全然いいし。てかなんなら自分と話してたら自分みたいにハブられますよ。
…あぁ、オレの場合はハブられたっていうより自分からハブられにいったようなもんか」
と言いながらお昼ご飯を食べる怜視。
私のことを思ってくれてる?優しい人なのかも?
そんな怜視に居心地の良さを覚えた四季。
「だ、大丈夫です。私も無言苦手ではないので」
食べながら四季を不思議そうに見る怜視。
「そう、ですか」
「あの、こ、これからも、お昼。ご一緒しても、よ、ろしいでしょうか」
意を決して言った四季。
「はあ…。自分で良ければ」
やっ…たぁ~!!
頭の中の四季はガッツポーズをして飛び跳ねていた。
それがお互い会社での唯一の友達となった怜視と四季の出会いである。
まあ、正確にいえば出会いは同じ部署での自己紹介だったのだが…。
「で?有恩(ありお)くんはどんなコンセプトにする予定?」
「…ま、おおまかにですけど、季節限定商品として新学期とか春っぽい、爽やかな感じにしようと思ってます」
「おぉ~…なるほどねぇ~」
「教えたんですから、塩地先輩は別の方向性にしてくださいよ」
「へえぇ~い」
とパソコンの前で悩む星夏。いろいろ検索してみたり、アイデアを書き出してみたり。
怜視もある程度コンセプトは固まっていたので
そのコンセプトになるように、要素などを検索して書き出していく。
「星夏ーお昼行こーぞー」
夕彩が星夏の両肩に手をポンッっと乗っける。
「おっ。もうそげな時間か」
「集中してたねぇ~」
「次回こそは私の企画通すんだぁ~」
「御守りももらったしね?」
「御守り?」
「トランプ。あれでやる気出たんでしょ?」
「夕彩にはお見通しってことか」
夕彩は両手を筒状にして双眼鏡のように目にあてる。
「そうよ。私は星夏のことならなんでもお見通しなのよ」
「じゃあ今私はなにを食べたいでしょうか」
夕彩が手で作った双眼鏡で星夏の頭の中を見るようにする。
「んん~…豚骨ラーメン」
「ブッブー。…オムのライスでしたぁ~」
「ニアピンか」
「どこが。…あぁ。豚骨ラーメンも食べたくなってきた」
「お。正解じゃん」
「言われて食べたくなったわぁ~」
「あるある」
「でも昼はなぁ~…。まだ午後仕事あるし」
「夜食べればいい」
「太るて」
怜視が立ち上がる。
「昼行ってきます」
と言う。
「おぉ、いってらっしゃーい」
「いてらー」
怜視の後を追うように四季も
「あっ…私もお昼いってきます…」
と呟くように、でも極力みんなに聞こえるように大声で言おうとする言い方で言う四季。
「郷堂(きょうどう)さんもいってらっしゃい」
「いてらー」
四季はペコペコしながら怜視の後をついて行った。
「仲良いなぁ~あの2人」
「ね。ほい。お昼行くよっ」
「社食?外出る?」
「外でしょふつーに」
「よーし。行こう」
と言って2人でエレベーターに乗り込んだ。
「あっ、すいません!乗りまーす!」
と駆け込んできた男性。
「お、浮秋(ふあき)先輩」
星夏がPR、宣伝部にいた頃の先輩、浮秋福だった。
「おぉ、塩地。昼?」
「はい。浮秋先輩も?」
「そ。コンビニでなんか買ってオフィスで」
「あぁ~。浮秋さん前からそうでしたもんね」
「そうそう。この後も打ち合わせあるからさ?リモートだけど」
「もしかして事務所の人とかですか?」
「そうそう。スケジュールとか衣装、プランとかコンセプトとかね」
「懐かしいぃ~」
なんて懐かしさに浸っているとエレベーターが1階についてみんなが降りる。福は開くボタンを押している。
「あ、すいません、ありがとうございます」
頭を下げながらエレベーターを出る2人。
「ん。またなー塩地」
「はい!私が企画した商品の宣伝、お願いします」
「うん。気長に待ってるわ」
「どーゆーことっすかー」
「早く行け」
と笑いながら「シッシッ」とする福。
「誰?」
夕彩が星夏に聞く。
「あぁ、浮秋先輩?宣伝部にいたときの先輩」
「あ、なるほどね」
と話していると
「あ!星夏に夕彩ぁ~!」
「わ、マジだ」
と女子2人組がレジ袋片手に星夏と夕彩を見つけて手を振りながら近づいてくる。
「あぁ~!文糸(ふみ)ぃ~!」
「愛光流(あひる)だ。ぐわっぐわっ」
星夏と夕彩と同期入社でPR、宣伝部の千城田(ちしろだ)文糸(ふみ)と芦条(ろじょう)愛光流(あひる)だった。
「グワグワ鳴くのやめて」
「アヒルなんだから」
「2人はお昼コンビニで買って?」
「ううん。うちらはもう済ましてきた」
「あ、そうなんだ?」
「そ。この後打ち合わせでさ?先輩が早めに行ってこいって」
「あぁ、浮秋先輩にさっき会ったよ。これからお昼だって」
「あぁ。浮秋先輩に言われたんよ。オレはコンビニで買ってくるからーって」
「浮秋先輩優しいからね」
「優しいー」
「んじゃまた。都合合えばご飯行こうよ」
「行こ行こ。昼でも夜でも」
「んじゃまたねぇ~」
「またぁ~」
と言って文糸と愛光流と分かれた。
「いやぁ~今日は宣伝部のみんなと会う日だわ」
「戻ってこいってことなんじゃね?」
「嫌ですー。せめて自分の企画を1回通すまではいますー」
なんて話しながらお店に向かい、注文を終えて、飲み物が先に届いて
料理が届くまで飲み物を飲みながら話す。
「てかさ、オフィスでは言えんかったけど」
「ん?」
「四季ちゃんってさ、たぶん有恩くんのこと好きだよね」
「あぁ~。たぶんね」
「応援はしたいけどさ、オフィス恋愛ってさ」
「言いたいことわかりまっせ親方。付き合えても付き合えなくても。でしょ?」
「それ。フラれたら気まずいのは言わずもがな。付き合えても…なんかね?やりづらいっしょ」
「で、付き合えたら付き合えたで、別れたときヤバくない?」
「マジそれ。だから両手放しで応援できないんだよねぇ~」
「かと言って「やめときなぁ~?」とは言えないしねぇ~」
「言えないねぇ~」
なんて話していると料理が届いて2人で雑談をしながら食べ進める。
「ご馳走様でしたっと。さてっ。戻って仕事の続きだっ」
「今回こそ私の企画通してRENさんにお礼するんだぁ~」
「お、デートですか」
「違うわい!今度の企画、紙パックの飲み物だから、それをプレゼントしようと。
私が企画開発に携わった商品なんですって」
「お礼じゃなくて自慢じゃん」
「え、自慢になる?」
「わからんけど。ま、今回は私は企画会議に参加するだけでプレゼンはしないから安心したまへ」
「あ、そうなの?」
「私はこないだ通った商品の打ち合わせとかで自分の企画を考える時間ないし」
「あ、そっか」
「強力なライバルはいないから企画通りやすいんじゃね?」
「嬉しいような悔しいような…」
なんて話してお会計を済ませ、会社へ戻った。
社員食堂では怜視と四季が向かい合って座り、お昼ご飯を食べていた。
「…もしオレたちがさぁ~」
と怜視が急に言い「もしオレたちが」という始まりから、謎に緊張し
「へあ(へとはの間の音)いっ!」
変な返事になった。
「もしオレたちが…」
ドキドキしながら固唾を飲んで怜視の次の言葉を待つ四季。
「アニメになったらおもしろいと思う?」
「…はい?」
「いや、たとえばだけど、郷堂がヒロインのアニメとか」
「わっ、私?」
「うん」
「そこは、あ、有恩くんが、主役、とかじゃない、の?」
「いや、オレが主役ってのは烏滸がましい。オレは名前ない役でいい。
その世界に入れるだけで、二次元の世界にいれるだけでありがたいので。
だからオレは端役で主要キャラたちの物語を見守っていたい」
変態的なまでなヲタク発言をする怜視。
ちなみに四季は怜視がマンガやアニメ、二次元が大好きというのは知っている。
「そ、そうなんだ」
「で?おもしろいと思う?」
「…私がヒロインだったら、おもしろくは、ないと思う、よ?」
「そうかなぁ~。なんかMyPiperが好きなのを隠してる感じ?
隠れヲタってのは意外とストーリーあると思うけど…。えりぴよ様がちゃむ様を推してる。みたいな」
怜視がなにを言っているかさっぱりわからないが頷く四季。
「で、でも、私がヒロインだったら、あ、有恩くんは、端役には、なれないよ?
じゅ…重要な役になっちゃうと、思う…」
と少し照れながらモゴモゴ言う四季。
「あぁ~…そっか。郷堂オレしか友達いないもんな」
とクスッっと笑う怜視。いつもは「早く帰ってアニメ見たい」
「積み本(マンガ)読みたい」と思って何事にも興味がなさそうな怜視が笑顔になったことで
ドキッっとする四季。顔を隠すように下を向いてコクンと頷く四季。
「あぁ~…。でもそうだよなぁ~…。
うちの会社アニメ化しても、ビックリするほどキャラないもんなぁ~全員。
茶髪もいるけど、いて明るい茶髪だろ?男は黒髪しかいないし」
と社員食堂を見回して言う怜視。
「あぁ。宣伝部の先輩に、明るい髪の人いるよね」
「そそ。マジでキャラが薄すぎて…。
あぁ~。リアリティーあると絵がつまんなくなるのか…。アニメって難しいな…。
オレが髪ピンクとかにするか!…いや、オレが主役はない。マジない。…。うぅ~ん…」
と自分の髪を触りながら悩む怜視に
髪ピンクにしたらめちゃくちゃ怒られるか呆れられる、最悪クビもありえるからやめてね?
と心の中で思う四季だった。
一方マジックバー&バー「immature lure portion」には恋斗がいて
ソファー席に座ってスマホをいじっていた。ドアが開いて
「あ、すいません。遅れました!」
とイギリス人のマジシャン、オリビアが入ってきた。
「お、オリビアさんお疲れ様ー。全然時間前だから遅れてないよー」
「あ、はい。お疲れ様です店長」
するとオリビアの後ろにもう1人誰かがいることに気づいた。
「Huuh, Here is sis’s workplace.(はー。ここがお姉ちゃんの職場かぁ~)」
オリビアは振り返る。
「Aria!? Why are you here!? Didn’t you go to play??」(アリア!?なんでいるの!?遊びに行ったんじゃ??)」
「There was still some time before meeting my friends,
so I thought I’d like to see what kind of place sis works at.
(待ち合わせまでまだ時間があったから、お姉ちゃんがどんなとこで働いてるのか気になって)」
「Really is…(まったくこの子は…)」
恋斗は2人のやり取りを聞いて
うわぁ~…高校の英語のリスニング思い出すわぁ~…
と思っていた。オリビアは今一度恋斗のほうを向いて
「すいません。妹が」
と言う。
「い、もうとさん?」
妹なん?めっちゃ大人っぽい…。
と思う恋斗。
「はい。初めまして。Florence Aria Baker(フローレンス アリア ベイカー)と申します。
姉がお世話になっております」
流暢な、でもやはりまだ慣れたてのような日本語で話すアリア。
フローレンス?綺麗な名前
と思った恋斗。立ち上がり
「いえいえ。こちらこそお姉さんにはお世話になっております。
一応この店をまかされています、久慈末(くじまつ)恋斗(れんと)です」
と頭を下げる恋斗。アリアも頭を下げる。そして頭を上げると
「Well…,I’m out(さて…、行くわ)」
とオリビアに言う。
「Oh,really??(あ、そ?)」
「Yeah(うん)」
「well, so careful, okay?(そう。じゃ、気をつけてね?)」
「I know that(わかってるって)」
と言うとオリビアとアリアは軽くハグをする。そして離れて
「sis, work hard too.(お姉ちゃんも頑張って)」
と言ってから恋斗にも頭を下げて行った。恋斗も頭を下げる。
「妹さん大学何年?」
「妹ですか?今Sophomore…あ、えぇ~、高校1年生ですね」
「マジで!?」
「?はい」
「大人っぽ…」
とその年齢に驚いた。そして
「じゃ、ま、早いけど掃除始めちゃおうか」
とオリビアに言う。
「はい!」
恋斗はオリビアと2人で店の掃除、備品の確認などをして開店準備を整える。
「だいぶ早く終わっちゃったね」
「そうですね」
「開店時間30分くらい前まで自由に過ごしていいからね」
「はい!あ、じゃあ私ちょっと出てきますね」
「うん。気をつけてね」
「Yes!!」
オリビアは店から出ていった。
「さてぇ~…。オレはテレビでも見るかなぁ~」
と店に設置されているテレビをつけてスマホを接続する。
「なに見るかなぁ~…」
と言っているとお店のドアが開く。
「どうしたの?忘れ物?」
と振り返るとホストクラブ「Run’s On1y」のナンバー2である双子
蒲名(かばな)花火と蒲名ラムネが立っていた。
「あぁ、いらっしゃいませ…っていうか、まだ営業前なんですけど…」
「知ってます」
「一希(いつき)さんから」
「寛げる店があると聞いて」
「やってきました」
源氏名である「舞雪」と「真白」の名前の通り、クールな表情で交互に喋る花火とラムネ。
「あぁ…一希さんが寛げる場所…」
あの人は…
と思う恋斗。
「あぁ。いいですよ。入ってください」
「「お邪魔します」」
と声を合わせて入ってくる花火とラムネ。
オレって双子に縁でもあるんだろうか…
と思いながら
「花火くんとラムネくんはタバコは吸うんだっけ?」
と恋斗が花火とラムネに聞く。すると視線だけは恋斗に向けたまま口を手で隠し
お互いに内緒話をするように、でも恋斗に聞こえる声で
「オレたちのこと源氏名じゃなくて、本名で呼んだよ?」
「もしかしてストーカー?」
「嘘でしょ。1回も店来てないよね?」
「1回も店に来たことない男をも虜にしてしまうほど」
「オレたちってカッコいいのか」
と言う花火とラムネ。
「違うから。一希さんが2人の名前言ってて
ラムネくんの名前のインパクトが強かったから覚えてるだけだよ」
と言う恋斗。
「あぁ、一希さんが」
「ほんと余計なこと言うよね」
「で?2人はタバコは?」
「「あ、吸わないので大丈夫です」」
と2人して手を前に突き出す。
「おぉ。うん。わかった」
めっちゃシンクロした。ま、オレもたまに見るけど
「あ、2人はなんかおすすめの映画とか番組とかある?今開店まで暇だからなんか見ようかと思って」
と恋斗がスマホを操作しながら言う。
「「エッチなやつ見ましょう」」
目を輝かせて言う花火とラムネ。
「見ません」
「なんでですか」
「RENさんも男なら」
「エッチなの好きでしょ」
「すっ、好き、ではあるけど!」
「「ではでは」」
「でも見ないから。なんで3人で見るのさ。2人だって
双子だからっていっても、さすがにそーゆーのは一緒には見ないでしょ?」
「「見るわけないじゃないですか。なに言ってるんですか」」
と2人して手を左右に振る。
「じゃあなんで言ったのさ…」
苦笑いしながら言う恋斗。
「2人は?これから同伴」
「「はい」」
「なんか、ここ、ホストの同伴までの待機場所みたいになってるなぁ~…」
「「そーですね」」
「なんか…某お昼の伝説的番組の観覧みたいな返答だね」
「「そーですね」」
なんて3人で雑談をして、花火とラムネは同伴ということで途中で出ていき
オリビア、美陽楼(みひろ)、翔煌(しょうき)が出勤してきてお店を開けた。
カウンターに立ち、スマホをいじりながらお客さんを待つ。
「…星夏さん今度はいつ来るかなぁ~…」
思っていたことが気づかない間に口から溢れる。
「星夏さん?誰です?」
翔煌がスマホから恋斗に視線を移して聞く。
「Oh!!もしかして、RENさんのcrushですか!?」
オリビアが目を輝かせて聞く。
「ん?あれ?声に出てた?」
「出てました」
「あの…なんて説明したらいいかわかんないわ。
でオリビアさん、そのクラッシュ?ってどーゆー意味?まあ、…なんとなく文脈からわかるけど」
「あぁ!Crushっていうのは“想い人”っていうことです!好きな人ですね!」
「やっぱり…」
「そうなんですか?」
「違うから」
「でも恋斗さんがお客さんの名前覚えてるなんて珍しくないですか?」
「失礼な。常連さんは覚えてるよ」
「いや、常連さんならオレも覚えてますよ」
「オレも覚えてるよ」
「I’m ~…Fifty-fifty…」
「覚えてるオレが名前知らないんだから常連さんじゃないですよね?たぶん」
「そうね…。たぶんまだ2、3回じゃないかな?」
「だから珍しいって言ってるんですよ」
「あぁ。…なんかね…。リアクションがよかった、んだよ」
「なんすか、今の妙な言い方」
「いや、リアクションいいお客さん他にもいたけど
なんで星夏さんだけ覚えんのかなぁ~って自分で思ってさ」
「好きなんじゃないですか!?」
オリビアが目を輝かせる。
「…うぅ~ん…。驚くだけじゃなくて心底嬉しそうだったからかなぁ~…」
「嬉しそうだった?」
「うん。なんか、…あぁ!飴あげたんだ!」
「飴?…あぁ。なんかありましたね」
「落ち込んでたから飴あげて、でまた落ち込んでたから、トランプもあげたんだ。うん。
落ち込んでて、オレのマジックで喜んでくれたから印象深かったんだ」
「なるほどですね」
そんなことを話していると最初のお客さんが来た。
「いらっしゃいませ」
「あぁ~まとまらんん~」
星夏が自分のデスクのオフィスチェアの背もたれに反るように寄りかかる。
「お疲れー」
天井が見えていた視界に夕彩の顔が入ってくる。
「夕彩」
夕彩の姿を見るともうバッグを持って帰る用意をしていた。
「え。あ、もうそんな時間?」
窓を見ると空の色がオレンジに染まっていた。
「Wow!!」
「星夏はまだ帰らん?」
「うぅ~ん。どーしよっかなぁ~」
「私はもう帰るけど。帰るなら途中まで一緒にって思ったんだけど」
「もしかして明日朝早いん?」
「そ。朝にサンプル届くらしいから、なるべく早く確認して
その日中に改善点を挙げたいって篠時(しのじ)先輩と話してて」
「あぁ~…。なるほど?うん。私はもう少し案練ってから帰るよ」
「そっか。あんま根詰めんなよぉ~」
夕彩は星夏の頭を持って軽く左右に振る。
「ありがとおだけどや~めぇ~ろぉ~」
「じゃ。また明日ー」
「ん。また明日ー。お疲れー」
「お疲れー」
と星夏に行った後
「お疲れ様でしたー。お先に失礼しまーす」
と全員に行って帰る夕彩。
「さあぁ~て。頑張りますかぁ~」
次の企画は通るように
「有恩くんには負けないからね!」
とズバッっと怜視を指指す星夏。
「いや、自分は勝負してないんで」
と星夏のほうに視線もくれず、あっさり言う怜視。
「塩地ー人のことを指指すなー」
「あ、すいません」
俊に注意される星夏。
「あと有恩だけじゃなくてオレもライバル視してくれー。先輩は寂しいぞー」
「よっし。もうちょい調べよう」
「無視かな?」
ということでパソコンと向かい合った星夏だった。