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第1話 王の薔薇、永遠を誓う夜
ドイツの夜風は冷たい。けれど、ミヒャエル・カイザーのプライベートベランダから見下ろすミュンヘンの街並みは、まるで宝石を散りばめたように輝いていた。
「カイザー、寒くありませんか? 温かい紅茶を淹れ直しましょうか」そう言って私の肩をそっと抱き寄せたのは、アレクシス・ネス。彼の穏やかな紫の瞳が、私をまっすぐに見つめている。私たちはすでに恋人同士として、同じ部屋で暮らしていた。
「いや、必要ねぇよ。お前が隣にいれば十分温かい」
「ふふ、カイザーったら。そんな甘い言葉、どこで覚えてきたんですか?」
「お前限定に決まってるだろ、アホ。……なぁ、ネス」
カイザーは私の髪を指先で弄びながら、いたずらっぽく笑った。その美しい青い瞳が、月光を反射して怪しく、そして優しく光る。彼が私を「アホ」と呼ぶのは、いつだって深い愛着の裏返しだ。
「なんですか? カイザー」
「お前さ、俺の隣にいること、もう飽きたか?」
「まさか! 飽きるわけがありません。僕は一生、あなたの心臓の音を一番近くで聞いていたいんです。世界中の誰よりも、僕があなたを理解している自信がありますから」
ネスのその言葉は、決して傲慢ではなく、ただ純粋な愛と忠誠に満ちていた。サッカーのピッチの上でも、こうして二人きりで過ごす私生活のなかでも、ネスは常にカイザーの最高のリベロであり、唯一無二の理解者だった。
カイザーはふっと満足そうに口元を歪めると、私の腰をぐっと引き寄せた。
「なら、その言葉、一生分買い取ってやる」
「え……?」
カイザーがジャケットの内ポケットから小さなベロアの箱を取り出した。パカ、と軽い音を立てて開いた箱の中には、見たこともないほど美しく輝く、ブルーダイヤモンドの指輪が収められていた。
「カイザー……これって……」「プロポーズだ、ネス。俺の『王の薔薇』として、生涯俺のものになれ。お前の戸籍も、未来も、その体に流れる血の一滴まで、全部俺が管理してやる。……お前に拒否権はねぇからな」
傲慢で、支配的で、けれどどうしようもないほどロマンチックな、カイザーらしい言葉。
ネスは目を見開き、一瞬だけ息を止めた。それから、視界が涙でじんわりと滲んでいく。
「拒否するわけ、ないじゃないですか……っ。僕をあなただけのものにしてくれるなら、そんな幸せ、他にありません……!」
「泣くな、バカ。嬉しいなら笑えよ。ほら、左手出せ」
カイザーはネスの震える左手を取り、薬指にそっと指輪を滑り込ませた。サイズは驚くほどぴったりだった。
「これからは、お前はただの相棒(パートナー)じゃねぇ。俺の『妻』だ」「はい……! はい、カイザー……。あぁ、どうしよう。胸がいっぱいで、壊れてしまいそうです」
ネスはカイザーの胸に飛び込み、その背中にぎゅっと腕を回した。カイザーもまた、愛おしそうにネスの頭を撫で、その髪に何度もキスを落とす。
「壊れるなよ。お前にはこれから、俺と一緒に世界一豪華な結婚式を挙げてもらうんだからな。世界中の奴らに、お前が俺の妃だってことを自慢してやる」
「ふふ、カイザーのそういう派手なところ、本当に大好きです。でも、僕にとっては、あなたとこうして一緒にいられるだけで、世界一の贅沢なんですよ?」
「知ってる。だからこそ、お前には誰よりも最高なドレスと、最高の舞台を用意してやりたいんだ」
二人は静かに唇を重ねた。冷たい夜風の中で、重なり合う二人の体温だけが熱く、確かな存在感を放っていた。
二人は静かに唇を重ねた。冷たい夜風の中で、重なり合う二人の体温だけが熱く、確かな存在感を放っていた。
「愛してるよ、ネス」
「僕もです、カイザー。世界が滅びても、あなただけを愛しています」
プロポーズの夜が明け、私たちは本格的に「結婚」への準備を始めることになる。しかし、世間は天才ストライカー・ミヒャエル・カイザーの突然の婚約発表に、黙っているはずがなかった。さらに、ネスの「愛の重さ」とカイザーの「独占欲」が、思わぬ方向に暴走を始め――?