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翌朝、公園であかりは日向を遊ばせていた。
やっぱり、ここはいいや。
なんかのびのびできて。
早朝の人気のない公園で、あかりは何度も滑り台を滑ってくる日向を眺めていた。
来斗が呪文を発動して、どうなることかと思ってたけど。
今のところ、まったり時間が流れてるな。
青葉さんが側にいないこと以外は――。
ああ、でも、あの店がないと、子どもたちが宿題教えてーとか、呪文教えてーって来たとき、誰もいないし。
穂月さんが愚痴を言いに来たときも、誰もいないし。
窓から大吾さんが覗いてきたときも……。
いや、それは別にいいか。
あかりは風に音を立てて揺れる公園を囲む木々を眺めながら、その向こうから青葉がやってくる幻を見た。
そして、滑り台を滑ってくる日向を抱き上げ、一緒に滑ったりするのだ。
そんな妄想をしていたとき、太陽を背に受け、背の高い人影がこちらに向かいやってきた。
えっ?
と思い、見たが、それは青葉ではなかった。
「この公園に現れると思っていたのよ」
ひっ、とあかりは身構える。
「気づくべきだったわ、嶺太郎さんとあの臭いお茶っ」
と寿々花はあかりに詰め寄る。
「あなた、店であのお茶をもてあましていたそうね。
それが私のところに流れてきて、また、あなたのところに帰っていった。
あなた、あのお茶、最初に誰に渡したの?」
「……え?
親戚の人に」
「語るに落ちたわね、あかりさんっ」
なんなんですか。
何故、私は追い詰められているのですかっ。
私、なにかの犯人ですかっ?
と探偵、寿々花の前で、あかりは震える。
「あのお茶、私のお友だちのところに何処から来たのか訊いてみたの。
嶺太郎さんの親戚から流れ着いたものだったらしいわ」
なんか遥か遠い南の島からやってきた椰子の実みたいですね……。
「でも、嶺太郎さんは最近、その親戚とは会っていない。
あなたは直接、その親戚とやらに渡したのよ。
あなた、嶺太郎さんとは、おばあさまがお茶を教えていた関係で知り合いなんだと言っていたけど、ほんとうに?」
――あなた、何者なの?
自分を見据えて訊く寿々花にあかりは言った。
「何者かであるのは、私ではないですよ」
「え?」
「私の母、鞠宮真希絵です」
甘味処の相席に気をつけて、と祖母は言っていた。
人気の甘味処で見知らぬ青年と相席になった若き日の祖母は、その青年を身なりのいい端正な顔をした人だな、とは思ったが。
自分とは違う世界の人っぽいな、と思い。
特に気にせず、手にしていた本をまた読みはじめた。
その青年も持ってきていた本を読み始め、二人は同時に笑った。
違う本を読んでいたのに、違う内容で、たまたま同時に。
その偶然に二人は目を見合わせて笑い――
「そして、私の母、真希絵が産まれたのです」
「いや、話飛びすぎでしょっ」
と寿々花が叫んでいた。