テラーノベル
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「チッ……騒がしいと思ったら、呼んでやがったか」
倉庫の外から、大勢の足音が響く。
笑い声、怒号、鉄パイプを打ち鳴らす音。
その数、30人。
「第二ラウンドってわけかよ。上等だ、ぶっ潰す」
いるまが血まみれの拳をぐっと握りしめる。
「……さっきの奴らより、数は多いな」
らんの目が細められた瞬間、戦闘が再開された。
敵は一斉に突っ込んでくる。
だが、らんといるまにとって、数は関係なかった。
「うちの大事な奴に手ぇ出したやつは……全員、骨の一本残さねぇ!!」
叫ぶらん。
彼の背後では、全身傷だらけのこさめが、小さく彼の名前を呼ぶ。
その一方、すちの前にも数人の不良が突っ込んできた。
みこと、こさめ、ひまなつを守るように前に立つ。
「……手ぇ出すなって言ったよな」
怒りを押し殺した声。
それでも、語尾がわずかに震えていた。
──怖かった。
自分が止めなければ、あの3人はまた傷つく。
特に、みことだけは……もう、これ以上壊れさせたくなかった。
「3人とも、下がってろ」
複数相手でも容易に倒していく。が、
敵の一人がすちの隙を突いてすり抜けた。
「やめろ……ッ!」
叫びも間に合わず、こさめに振り下ろされるパイプ──
それを受け止めたのは、みことだった。
「……触らないで」
無感情に、淡々と。
痛みに鈍い体が血を流しながらも、みことは無言で敵を殴りつけ、倒す。
「ダメだ……もう、立つな! お前の体は──!」
すちの叫びは届かなかった。
「……すち、ありがとう。でも、おれ──もう少し、やらなきゃ」
そう言い残し、みことは敵の渦の中へ走り出した。
無表情のまま、血を滴らせながら、みことは敵を一人、また一人と倒していく。
骨が鳴る音、悲鳴、鉄が落ちる音。
彼の動きはまるで“人間”のものではなかった。
──だが、その背中を見たとき、すちは確信した。
「……壊れちまう」
怒鳴った。
「らん! こさめを守れ!! いるま! ひまなつを頼む!!」
仲間を信じて、すちは叫び、全速力でみことの元へ向かった。
すちが到着したとき、すでに周囲の敵は全滅していた。
静まり返る倉庫の中、立ち尽くすみことの姿があった。
右腕から血が滴り、左足は引きずっている。
息も荒い。だが、表情は変わらない。
「……どうして、1人で戦うの」
すちの怒りが、震える声になってこぼれた。
「守るって、言っただろ……!」
みことがゆっくりと振り返る。
その目は、どこまでも虚ろだった。
「……怒ってるの?」
「そうだよ……怒ってるに決まってんだろ……!!」
すちは叫びながら、みことに近づき、彼の肩を掴んだ。
「お前が……お前が痛がらないの、平気そうにしてるの……それが一番、怖いんだよ……!!」
「……でも、すちが撫でてくれたとこ、痛くなかったよ……」
「バカか、お前は……っ」
みことがふらりと体勢を崩す。
止血していた場所が再び裂け、血がにじんでいる。
「みこと!」
そのまま、すちの胸に倒れ込んだ。
「──っ!!」
すちは抱きとめ、震える手でみことの背を撫でた。
冷たい体温が、自分の服を赤く染めていく。
「……頼むから、もう無理すんなよ……」
すちの声に、みことは微かに目を閉じた。
その唇から漏れた言葉は、あまりにも無防備で、痛々しくて。
「……すち、あったかいなぁ……」
そのまま、みことの意識は、闇に沈んでいった。
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