テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「今日遅延しててさー」
「な〜、行く気なくして
俺は寝なかったけど!!なつが寝てた」
いるまが笑いながら話すと、
「うるせぇ、お前も寝てただろ!!」
と、なつが肩をすくめて返す。
LANもその会話にくすっと笑って、
「でも電車で寝るの分かる、」
なんて、少しだけ柔らかい声で呟いた。
「も〜みんな寝すぎでしょ!」
こさめもその輪の中で笑顔を作る。
ちゃんと、笑ってる。
声も明るい。
……でも。
ふと、すちとみことの笑い声が聞こえた。
「それめっちゃ面白いやつ!」
「みこちゃんも見てるの!?
俺、昨日動画見ながら吹いたもん!」
すちが、柔らかく笑っていた。
昨日は自分に見せなかったような、
素直な笑顔。
こさめの指先が、机の端をそっと撫でた。
ほんの少しだけ、
笑顔が弱まる。
「――あ、こさめ ?」
LANが横から声をかける。
「え? あ、ごめん!
ちょっとボーッ としてた!」
こさめは慌てて笑顔を戻した。
その瞬間、
LANの笑い声と教室のざわめきにかき
消されるように、
こさめの心の奥から小さく“トクン”と
音が した。
――届かない笑顔がある。
そんな現実を、
少しだけ痛感した朝だった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
チャイムが鳴り終わる少し前。
教室のざわめきがまだ続いている。
LANといるまがふざけ合い、
なつは相変わらず窓の外を眺めている。
こさめは無理に笑顔を保ちながら、
すちとみことの声が
聞こえないふりをしていた。
そのとき――
ガラッ。
教室のドアが勢いよく開く音が響く。
「はい、そこまで〜。席ついて〜!」
低めの、けれどどこか明るい声。
斎藤先生が腕にファイルを抱えながら
入ってきた。
「おはようございます!」
教室中に一斉に挨拶の声が響く。
「おはよ。……お、ちゃんと元気だねぇ。
初日の疲れも出てるかと思ったけど、
意外とみんなタフじゃん。」
斎藤先生は軽く笑いながら出席簿を
机に置き、
「じゃ、早速ホームルーム始めようか」
と言った。
「早いと思うけど今日から本格的に
授業も 動くし、部活の見学も順に
あるから、 興味ある人は放課後見に
行くように」
その言葉に、教室のあちこちから
小さな声が上がる。
「部活か〜」
「どこ入ろうかな〜」
LANがすぐに手を上げて、
「先生、ボーカル部ってまだ
募集してます?」
と質問する。
「お、らん もちろん募集中だ
声出るもんな〜。」
クラスに笑いが起こる。
LANは照れたように笑いながら、
「頑張ります」と返した。
その隣で、こさめはペンをくるくる
回していた。
斎藤先生の声が遠くに聞こえる。
その指先は少し震えているのに、
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
ホームルームが終わると同時に、
教室の中が一気にざわついた。
斎藤先生が職員室に戻ると、
自然と六人は集まった。
「ここの学校、調べた感じ結構部活
ありそうだな」
と、いるまが腕を組みながら言う。
少し体育会系な声のトーンに、
みんなが顔を向けた。
「へぇ〜、どんなのあるの?」とLAN。
「バト、バスケ、サッカー、バレーとか
軽音、演劇、美術、剣道、家庭
あと最近はeスポーツ部もあるらしい」
「まじで!?ゲームの部活とかあるん?」
なつが少し目を輝かせた。
「うん、機材も新しいって書いてた」
「今の時代すごいな〜」とLANが
感心したように言う。
その横で、こさめが机の上にちょこんと
置いた小袋を開けて、
ポイっとクッキーを口に入れながら
呟いた。
「今の時代スマホで調べられるのほんと
便利だよね〜」
「そこから話はいるん??!」
みことがすかさず突っ込む。
「え、いや〜、便利だな〜って思って……」
こさめが照れ笑いして肩をすくめる。
LANが笑いながら
「こさめって話の入り方
独特だよね〜」とからかい、
なつは「まぁ、らしいっちゃらしい」
と笑う。
「で、いるまはバスケ部入るんだろ?」
とLANが振る。
「まぁな。小中ずっとやってたし、
もう体が動きたがってる。」
いるまが自信ありげに言う。
「かっけぇ〜」とLANが拍手しながら
言うと、「らん、軽音とか似合いそうやん」となつが返す。
「ふふ、分かる!LANくん
絶対ボーカル!」
LANは嬉しそうに 「え〜?そう〜?」と
少し照れる。
「すっちーは何入る?」とLANが聞くと
「俺は……絵とか作るの好きだから、
美術部とかかな」
静かに話すすちの声に、こさめの手が
一瞬止まった。
「……へぇ、そんなに絵好きなんだね!」
こさめはクッキーの袋を持ったまま、
何気ないふうを装って笑顔を作った。
「うん。時間忘れて描いてるときが
一番落ち着くから。」
「いいね、それ。」
LANが明るく返し、
みことも「すっちーの描く絵見てみたい!」と無邪気に言う。
こさめは笑いながら頷いた。
けれど、胸の奥がまた少しだけ、痛む
それともう一つ引っかかるのは
LANが『すっちー』呼びしてること。
「こさめ野球部とか気になるな〜」
「え、お前その感じで結構運動するんだ」
「いやいやなつくん
こさだっけしますよ」
「じゃあこさめは野球部?」
「いや、野球やってる人って
かっこよくない?って話」
「まぁ…?そうか?サッカーの方が」
「え〜、そうかな〜」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
もやもやが残りつつ昼休みが終わり、
放課後のチャイムが鳴った。
廊下にはあちこちから部活勧誘の声が
響いている。
ポスターが貼られた掲示板の前で、
みんなが集まっていた。
LANが「俺、軽音見てみよっかな〜」
と笑って言うと、
みことが「じゃ、俺は演劇部かな!
楽しそう!」と元気に続いた。
なつは腕を組みながら
「んー、 まだ決めてないけど、
ちょっとだけ eスポーツ部覗いてみるわ」と言い、
「なつ、途中まで一緒にいかん?」
「行こうぜ〜」
すちは掲示板を見つめたまま、
少し考えるように眉を寄せていた。
その横顔を、こさめはずっと見ていた。
心臓の音が、自分の中だけやけに
大きく響く。
(……今、言わなきゃ。どうせまた、
距離ができちゃう。)
ぎゅっとスマホを握りしめて、
一歩踏み出す。
「すちくん!」
呼んだ瞬間、周りの音が
ふっと遠のいた気がした。
すちが少し驚いたように振り向く。
「……ん?」
「えっと〜……」
喉が詰まる。息がうまく吸えない。
でも、逃げたくなかった。
「もしよければ、一緒に部活まわりたい
なって思って……いいかな?」
最後の言葉は少し震えていた。
けれど、ちゃんと届くように、
目を見て言った。
一瞬、沈黙。
教室の外からは部活勧誘の声と、
ボールの跳ねる音。
すちは視線を少し落とし、口を開いた。
「……ごめん。俺、今日は一人で
回りたいんだ。」
その言葉は優しくて、でも少し遠かった。
こさめは笑顔を作ろうとして――
頬が引きつるのが自分でも分かった。
「そっか、……うん! 全然、いいよ!
ごめんね!急に」
声が少し明るすぎた。
すちが「また今度ね」と言って歩き去る
背中を、
こさめはただ見送ることしか
できなかった。
そして、静かに息を吐いた。
「……俺、何してんだろ……」
手の中のスマホが少し震えていた。
スマホを握ったままゆっくり歩いていた。
部活の勧誘ポスターの文字が
滲んで見える。
(……やっぱ、避けられてんじゃん、俺……)
心の中で苦笑しながら、視線を下げる。
口元は笑っているのに、胸のあたりが
ずっと重かった。
「お、こさめじゃん」
不意に後ろから軽い声がして、
こさめが振り返る。
そこにいたのは、手にイヤホンを
持ったまま、ラフに歩くなつだった。
「……なつくん」
「何してんの?部活見に行かんの?」
いつもと変わらない、柔らかいトーン。
「ううん、ちょっと…気分転換。」
こさめは笑ってみせたけど、
その目の奥は どこか疲れていた。
なつは数秒、彼女の表情を黙って
見つめた。
そして、ふっと笑って肩を軽くすくめる。
「そっか。……でもさ、」
「ん?」
「さっきの、聞こえたよ。
すちに声かけてたろ?」
一瞬、空気が止まる。
こさめの指先がぴくりと動いた。
「……聞いてたんだ、」
「まぁ、偶然な。 勇気出したじゃん。
偉いと思うけど。」
なつは優しく言うけど、
その目は真剣だった。
「……で、すちのこと、気になるん?」
その一言に、こさめは俯いて笑った。
「ふふ、やっぱバレるか。」
「そりゃな。こさめ、分かりやすすぎ。」
「……気になるっていうか……。なんか、
気づいたら目で追っちゃうっていうか。」
なつは頷いて、
ポケットに手を突っ込みながら言う。
「でもさ、焦んなくていいと思う。
すちってたぶん、人を信用するまで
時間かかるタイプだし。」
「……わかってる、けど……待ってる間に、
他の誰かに取られたらって
思っちゃうんだよ。」
小さく笑って言うその声には、
少しだけ滲む本音。
なつはそれを聞いて、
苦笑しながら頭をかいた。
「……まぁ、そうなったらその時は
俺が慰めたるわ。」
「なにそれ〜、頼りない慰め方。」
「慰めるのは苦手なんだよ。
けど、隣にはいられる。」
「……ありがと、なつくん。」
ふっと笑って、少し軽くなった顔。
教室に戻るその背中に、
窓の外から柔らかな夕日が
差し込んでいた。
「俺そろそろ帰るわ、こさめも帰るか?」
「こさ実はまだ全然回れてないんだよね」
「あ、そうなん? じゃあな」
「じゃあね!なつくん」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
なつの後ろ姿見て帰ったか確認し
チラシを見る。
(どこ見よっかな……。とりあえず
軽音とか……いや、派手すぎる?)
(すちくん、どこ行ったんだろ)
思考の端に浮かぶその名前を
振り払おうと、
こさめは小さく息を吸い、首を振った。
「――って、俺なにしてんだろ。
別に探してるわけじゃ、」
そう呟いた瞬間。
角を曲がった先から、声が聞こえた。
「すちくん!、そっちデザイン室だって」
みことの声だった。
そして、そのすぐ隣を歩いていたのは――
「……っ」
廊下の光の中、こさめの目が止まる。
白いシャツの袖をまくったすちが、
何か言い返しながらプリントを
受け取っていた。
その横顔はどこか穏やかで、
少しだけ笑っている。
(……やっぱ、すちくん……。)
胸の奥がざわつく。
気づけば足が動いていた。
「すちくん!」
振り返ったすちと、
ほんの一瞬だけ視線が合う。
その目が、わずかに見開かれた。
「……こさめちゃん。」
名前を呼ばれたことが、
心の奥をくすぐった。
でも、その声はどこか距離を感じる
冷たさを含んでいる。
「えっと……デザイン部、見に行くの?」
「うん、まぁ。興味あるし。」
「そっか……、」
少しだけ沈黙が落ちる。
こさめは笑顔を作りながら言葉を探す。
「じゃ、じゃあさ!もしよければ
それだけでも一緒に――」
「いや、俺、みこちゃんと行くから。」
その言葉に、胸の奥で小さく音がした。
「……うん、そっか。」
それでも笑顔は崩さなかった。
けど、手の中のプリントが少しだけ
湿っていく。
みことが「あとで合流しよ!」と
声をかけてくれて、
二人が去っていく後ろ姿を見送った。
(……追いかけたら、
また避けられるだけ かもな。)
自分にそう言い聞かせて、
こさめは一人別の方向へ歩き出す。
窓の外、オレンジ色の光が差し込み、
その影の中でこさめの表情は静かに
揺れていた。
「もうこんな時間か…」
(帰ろう、)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!