のあるな
かわいい。
「のあさんっ」
「わわっ…と」
後ろから抱きつかれて少しよろめく。首をひねって背後を見ると、背中にぐっと顔を押し付けている水色の頭が見えた。
「るなさん。どうしたんですか?」
ぎゅっと腕に力を入れるるなさんに微笑ましく思う。手を伸ばして頭を撫でるとくすぐったそうにるなさんが笑った。
数十秒の間を経て。離れたるなさんが満たされたような顔で言う。
「急にすみません。ちょっと甘えたくなったの」
「あら」
かわいい。心臓がドキッと大きな音を立てて動揺しているのは悟られていないだろうか。
言葉に出すのは少し恥ずかしいのかほんのり頬を染めて微笑むるなさんに庇護欲がぐっと出てきた。もう18歳とはいえまだまだ可愛らしい末っ子ですね。甘えたい相手に私を選んでくれたことに嬉しさを覚える。
「わざわざここまで探しに来てくれたんですか?」
ここ、というのは厨房のことだ。普段は料理人のシヴァさん、調達係のどぬくさんが主に出入りしている。
「はい。どぬくさんに、お菓子作ってるって聞いたので」
えへへ、と屈託のない笑みにふわりと空気が暖かくなる。可愛い。ついさっき生地を絞り出したプレートを指さす。首を傾げながら近づくるなさん。プレートを覗き込んで、こっちを振り返った顔はキラキラと輝いていた。
「これってマカロンですか!?」
めっちゃきれいな色!と明らかにテンションが上がった声ではしゃぐ彼女にかわいいという思いが募る。この子と居ると常にかわいいが更新されていく。からぴちの数少ない癒やし枠の力は凄い。普段ふざけてばっかりの一部男子を思い浮かべて苦笑する。
「そうですよ。焼く前に少し置いておくんです」
「へえ、そうなんだ。めっちゃすごい…。お菓子はのあさんが一番です」
とくんと胸が鳴る。一番だなんて。
「嬉しいこと言いますね。…あ、そうだ」
「ん?」
少し微笑んでエプロンのポケットを探る。お気に入りのクッキーを取り出すと、驚いたような表情になった。
「え、これ…」
「あげます」
ええ!?とびっくりした声をあげるるなさん。私が私のために買ってきたお菓子を分けることはほぼ無く、私のお菓子を取る、ましてや勝手に食べるなどこのシェアハウスでは禁忌行為なのだ。
「いいんですよ。るなさんだし」
袋の中から1枚取り出しるなさんの顔の近くに持っていく。そうすると、意図を察したるなさんが口を開けてクッキーを咥えた。
もぐもぐと噛んでふむふむと頷いているるなさん。しっかり飲み込んでから、彼女は美味しいです、と言った。
「珍しいですね。お菓子くれるなんて」
「褒めてくれたので。特別ですよ?」
いたずらっぽく微笑むと、るなさんも歯を見せてにっと笑った。ああ、可愛い。本当に。湧き上がって溢れてしまいそうな思いをぎゅっと奥に放って仕舞う。
るなさんは可愛い。私を一言で、一行動で振り回す。
私が抱くこの``特別``の意味も知らずに。