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「……ショッピ、回復傾向ありだってよ」「マジぃ?よかったぁ。」
そんな会話をしながら、最低限の栄養が取れるゼリーを身体に流し込む。
戦争が終わり、数週間がたった。他の国との交流がないまま、もうそんなに経ってしまった。
ゾムは訓練に戻り、立ち直ろうと努力をしている。ショッピも、同様。精神回復が少しずつだけどされていっていると、ひとらんの報告であった。
そして、そんな日常の中、俺とトントンにグルさんからとある資料を渡され「これを”運営国”に渡しに言ってほしい」と、話があった。
正直、俺じゃなくてゾムが行けばいいと思った。
だって、あそこの幹部の金豚きょーを殺したのは俺だ。……憎まれている他ないだろうに。
「……行くぞ。」
「……わかった」
そうして、国を出た。
歩いて二時間半程度の場所に、運営国はある。俺は意を決し、運営国の国内へ足を踏み入れた。
運営は地獄と化していた。
「……なんだ、……ここ」
まるで生き地獄かのような、そんな光景が広がる。
管理が行き届いていないのか、街中は荒れて、行き交う人全員が酷くやつれているように思えた。
同盟国内でも、ダントツで民度の良かった運営国の民度は、見るに耐えないほどに劣化しているようだった。
呆然と突っ立っていた俺の目の前には一人、以前よりもだいぶやつれた顔をした運営国幹部、コンタミさんが現れた。
「……グルッペンさんからの書類ですね?渡してください。」
コンタミさんは書類を受け取ると、「ありがとうございます」とだけいい、すぐにその場をさってしまった。
「……俺の……せいかな……」
「……鬱。……そんな考えんでいい。……だめや、考えちゃ。」
確か、運営国はコンタミさんと……緑くんだったか。今の運営国の経営はどっちかというと運営よりも他幹部のおいよさん、こばこださんなどのら民が頑張っていると聞いた。
長居はしたくない。
「……帰ろか、トントン」
「……そうやな…」
そして、今。
俺は運営国から我々国に戻るため、広場の道を、草原が広がるこの道を歩いていた。
草木は揺れ、波を立てている。赤や白、黄色が引き立つ綺麗な花々は平和を象徴させる代物だった。
「……鬱さんと、トントンさん……お久しぶりです」
晴れ渡る空の下、暗く濁った赤い瞳が俺らを見た。
風に揺られる綺麗な緑は、前までのことは嘘かのように穏やかだった。本人の表情も、同じく穏やかな表情をしていた。はずだが、どことなくその表情の裏には言い表せないような感情が潜んでいる気がした。
「……久しぶりやね。……ぐちつぼ」
あの時、”らっだぁの最期”を目にした、限界国総統ぐちつぼがそこにはいた。
「……あの日以来っすか。……もうあれから五週間……約一ヶ月っすね」
そんなに、経っていたのか。
トントンはぐちつぼを警戒しているようだった。それは、わからなくもない。実際俺も警戒はしている。
只、今のぐちつぼの瞳は濁った色をしているがあの時のような目はしていない。吹っ切れた、穏やかな目をして笑っている。
「……俺、やりたくてやったわけじゃないんすよ。……あんな役目、俺がやるべきじゃなかった。」
草の擦れる音だけが鳴っていた空間、ぐちつぼは静かに話した。
「……役目って…”アレ”が?」
そう聞けば、ぐちつぼはその場に座り込み、綺麗な緑の上に仰向けとなった。
「……少し、話がしたい。……時間はありますか?」
「……わかった。…とんちは先いってグルさんに報告してくれん?俺も後で行くわ」
そういい、トントンを自国に変えるよう言い、俺は煙草に火をつけぐちつぼの隣に座った。
吸って、……肺に煙を入れれば、少しは楽になれる気がした。
「……まだ煙草吸ってたんすね。もう辞めてると思ってた」
「やめんわ。……まぁ、一緒にサボる仲間はおらんくなったけどな。」
「……で、話って?」
そう話を振ると、ぐちつぼは少し間を開け、口を開いた。
「……これは、戦争の少し前にあったことです」
「……何の用だよ、らっだぁ?」
大雨の日、俺はこの草原にわざわざ雷雨の中、らっだぁによばれた。
レインコートを着て、傘を差し呼ばれた場所まで行けば、そこには傘も何も差さず只々突っ立っていたらっだぁがいた。
「………ぐちつぼ、……俺らってさ、友達?」
何の用かと思えば、いきなりそう聞かれた。
ただのかまってちゃんか。そう呆れたのを覚えている。
「はぁ?……そんなことのために呼んだのかよ」
「……正確には、これを前提とした話をする。だから答えてよ。」
大粒の雨が打ちつける中、真っ青な瞳が真っ直ぐと俺を見ていた。
妖のように、まるで魔術でもかかっているのだろうか。そんなことを思わせるほど、この時のらっだぁは有無を言わさない圧を含んでいた。
「……ああ、友達、だろ。」
ぎこちなくそう答えると、さらにらっだぁは質問を進めた。
「……じゃあ、約束……してほしいことがあんだよね」
「…………約束?」
らっだぁにしては珍しい。そう考えながら、俺はその約束事を聞いた。
「……俺が、もし正気でいられなくなったり、……生きて行けないような状況になったら、ぐちつぼに殺してほしい。」
耳を疑った。
殺してほしい?それは比喩的な何かなのか、それともその言葉通りのことか?俺の頭は”?”で埋め尽くされた。
「……どーいうことだよ、それ」
らっだぁは気味悪く笑い、言った。
「……そのまんまの意味」
「……だから、俺はらっだぁを殺した。」
なるほどね。
らっだぁならやらなくもなさそうだし、ぐちつぼがこう言う話題で嘘をつく奴でもないのは分かる。
「……でも、殺さんくてもよかったやん。…お仲間さん、生きとんのやから」
「…
「……ああ、そーやな?」
「らっだぁにとって、あの人はそこら辺の友達とか、……ら運の中でも群を抜くほど大切な人だと、俺は聞いていたんだ。……生きていけない状況……らっだぁにとっては、きょーさんが死んだことは自分の命がなくなったのと同じくらいの重さだと、俺は受け取った。だから、らっだぁを殺した」
この話を聞いて、正直な感想は「知らなかった」
初耳だ。我々国はそれほどら運とはあまり交流がなかったのだろうか。
否、ぐちつぼはらっだぁが国、運営を作る前から知り合いだったと知っている。……同じく、ぺいんとさんもそうだったと。
「……本音は?ぐちつぼの本音は、それとはちゃうやろ?」
「…………なんで…?」
ふいをつかれたように、ぐちつぼは固まってしまった。失言だったかとも思ったが、すぐにぐちつぼは答えた。
「……俺は、らっだぁに生きててほしかったよ。……そりゃそうだろ、友達に死んでほしいって思うやつなんか、友達でもなんでもない。……殺したくなかった。……だけど、あそこで殺さなかったら、らっだぁは今後どうなっちゃうんだろうって……だから、……これでイイんだよ。」
「……その、大事な時間とってまでこんなこと話してすんません、」
「え?あ、いや俺が聞いたんやし、謝らんでええんよ?」
その後、ぐちつぼは何度か「すんませんした」と言い、自国へ戻っていった。
俺も立ち上がり、我々国に戻ろうと歩き始めた。
――――――――――――
「大先生〜!!」
戻って早々、勢いよく抱きついてきたのは、戦闘訓練から戻ってきたゾムだった。
「どしたんやゾムぅ、……苦しいんやけど」
「ああ、す、すまん……、戻ってきたら誰もおらんかったから寂しくて」
俺はゾムをソファに座らせ、タバコを持った。
きっと、こんなこと戦争前のゾムでは考えられなかっただろう。
ゾムは……分離不安症とでも言うか、精神こそ安定しているものの人がいない孤独な空間に一人でいるとその精神が不安定になってしまう、そんな症状が見受けられた。
「……ゾム、俺書類仕事行くんやけど…」
「え、……あ、そ、そうやんな!すまんすまん、……俺もも少ししたら訓練場行かなあかんから、……じ、じゃあな!」
ゾムはそう言って笑い、近くにあった雑誌を手に取った。
いつも通りにも見えるが、ペ神が言うには無理をしているだけ、とのこと。もし、ゾムをこのまま放っておいたらどうなってしまうのだろう。
俺は煙草を灰皿に押し付け、震えるゾムの手を取り、抱き寄せる。
「無理すんな、……わかっとんねん。少しぐらい我儘言ったってええんよ?ゾムぅ」
少しは、らしいことを言えただろうか。
少しの間の後、ゾムは物凄い力で抱き返して、しばらく泣き続けた。
何もできない、だから、せめて励ます事はしたい。……そう思ってやった。少しぐらいは、支えられたのではないだろうか。
「……すまんなぁ、大先生。……書類仕事あるんやろ…?」
「ん?……ああ、そんなん別にええんよ。ゾムが満足する前までそばにいてやっから」
前までの自分では考えられない言動だと、我ながら少し笑ってしまう。
ただ、今のゾムを放っておいてしまったら、……嫌な予感がした。まぁ、仕事をサボる理由にもなるので一石二鳥だと考えよう。
「……大丈夫か?……ゾムと、大先生……どしたんや」
いつの間にか部屋に入ってきたのか、書類を持ったトントンが困惑の表情でこちらを見ていた。
「一緒に休憩してたんよ。……も少ししたら仕事するからそこに置いとっていいよ、トントン」
「そ、そう?……おけ。んじゃ置いとくわ」
やはり、幹部が減って忙しいのか、トントンは足早にこの部屋をさっていった。
「……仕事、戻ってええよ」
「いいん?我慢せんくてもええんよ?」
「また、後で来てくれや。……俺今日はもう仕事ないから、ずっとここにおるからさ!」
前と同じような、笑顔をしたゾムは眩しさをも感じる明るい笑顔だった。
俺はその言葉に従い、「仕事終わったらまた来るわ。……呼ばれたらいつでも行くで」といい、部屋を後にした。
そして俺は今、精神病棟にいる。