テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
─堕とさないと出られない館に閉じ込められました─
注意喚起
・御本人様とは一切関係ありません
・BL(R18にはならないはず)
・zmさん総受け
・現mzybのメンバーが登場します
閲覧はあくまで自己責任でお願いします。
◇
小さな頃から、感情を表すのが苦手だった。
楽しいとか、嬉しいとか、悲しいとか、苦しいとか。
それを自分の中で押し殺して、その場でいいように人を騙して、なんとか一握りのパンを得る。
物心のつく頃から親がいない自分には、そうすることでしか生きることができなかった。
いつも貧困街の隅で、フードを深く被り、膝を抱えて蹲る。独りで持て余した時間をただただ咀嚼する。
偶に、子供はよく売れるからとか、元から見目が綺麗だとか、そんな理由で大人たちがやってくる。
誰も信じられなかった。
富に釣られて呆気なく子供を売る親。金で手に入れた子供を私利私欲で殴る大人。あちこちを徘徊するしか無かった自分を嘲笑う周囲。
気づけば、全員殺していた。その辺にあったガラスの破片でも人間は息絶える。
人間なんて所詮すぐ死ぬ、そう思うと、余計に何も考えられなくなった。
その日もいつも通り、通りすがったそいつを殺して、金目のものを奪おうとした。
此方に見向きもしないそいつの足を払い、体制を崩したところを後ろから刺す。いつものやり口だった。
のに。
「うぉ・・・っと、あぶね〜!なるほど、君が噂の脅威クンね」
躱された。いつも通り、確実に首を狙ったのに。なぜ?
初めての失敗を目にして、焦っていたのもあるのだろう。気づいたら自分は、もう一度そいつに振りかぶっていた。
「その体でよくそんなに動けるね・・・感心。気に入った」
「ぐッ・・・ぁ、・・・?」
とん。後ろに回られ、首筋を軽く叩かれる。
急速に回る視界と落ちる瞼に混乱しつつ、なんとか足掻こうと伸ばした手を、誰かが握った。
「今日から君は、・・・・・うーん、そうだ。俺の希、ってことで、ゾムね!」
暗転。
それが、らっだぁとの出会いだった。
巷では一介の暗殺者としてそれなりに有名だったらしい自分は、その力を買われ、青鬼の後継者となったのだ。
◇
一面目を見開くような雪景色。
白い粒が吸い込まれていく。
はぁ、と冷たい手を温めるように息を吐いた。
「ゾム、寒いでしょ」
ふいに、声と共に後ろから包み込むように抱きつかれる。
触れた体が暖かくて、すり寄るように身を寄せた。
「ふふ。そろそろご飯にしよ」
「・・・らっだぁ」
白い息がふわりと舞い上がる。
仰ぐように振り返れば、赤いマフラーをなびかせた人影が映る。
青いニットに分厚いコート。名前を呼ぶと嬉しそうにはにかんだ。
差し出された手は雪で冷たいはずなのに、触れると不思議と安心した。
森の奥、誰にも見つからないような場所に佇む館。
雪に紛れてぼおっと光る灯りが、どこか非現実的だなと思わせる。
「らっだぁ、今日な、二匹も仕留めてん」
「え、すごいじゃん!まあ、まだまだ俺には敵わないけどね」
「いつか絶対殺してやる」
聞き慣れた笑い声が耳に馴染む。わしゃ、と大きな手のひらで頭を撫でられた。
ちらりと見上げたその横顔は、藍色の瞳と相まって、どこか虚しいような面持ちに見えた。
らっだぁは色々なことを教えてくれた。
弱肉強食のこの世界で生き残る方法。生き物を利用する方法。その日の食事にありつく方法。
「が、はッ・・・・・・!」
「うーん、太刀筋は良くなったね。でも軌道が丸見えだな」
自分の首筋に思いっきり叩きつけられ、からんと地面を転がる木刀を横目に見ながら、その苦しさに喘ぐ。
思い出す。初めて真っ向から戦った時も、圧倒的な力を目前に、絶望を通り越して驚愕した。
後から人間の体を手放したことを知りようやく納得できるその強さを、自分にも与えようとしている。
「ゾムは、刀よりナイフの方が合う気がするな。今度から模擬戦はゴムナイフね」
口角を持ち上げてそう言うらっだぁの目は、笑っていない。
なぜただの拾い子である自分にここまで訓練を施すのか疑問に思い、いつの日かに尋ねたことがあった。
「初めて会った時にも言ったけど、ゾムには、自分を継いで欲しいなって。」
薪に火をくべながら、らっだぁはそう言った。
幼いながらに意味を考えたけど、よく分からなくて。頭を傾げる自分を見て、くすくすとらっだぁは笑った。
「─────俺はもう、鬼じゃなくていいからさ」
そう言ったらっだぁの表情は、儚げながら、どこか諦めたような顔をしていて。思わず言葉が口から飛び出した。
「・・・・・・でも、鬼はおれのこと守ってくれるねんで」
ぱち、と目を見開いて瞬きをするらっだぁ。そんな顔初めて見たかもしれない。
「そっかぁ。・・・・・じゃあ、もうちょっとだけ頑張ろうな」
そのときの言葉が、顔が、景色が、脳裏にこびりついている。
◇
ゆっくりと意識が浮上していく。
この感覚は二度目だ。初めては、この館に連れてこられた時。
重い瞼をゆっくりと開ける。見慣れた天井が目に飛び込んだ。
「ッ、ゾムさん!」
「だ、いせんせ、・・・?」
寝起きで掠れた声に眉を顰めながら、隣の聞きなれた声に体を起こした。
どうやら自室で寝かされていたらしい。
「・・・・・らっだぁは?」
「・・・え、あ、あぁ・・・別の部屋におるけど・・・」
ありがとう、とひとつ返事でベットから降りる。
引き留めようとする大先生の目を無視して、一緒に部屋を出た。
部屋の空気が、じわりと重くなる。
らっだぁの蒼い瞳が、苛烈な光を含みながらも、どこか切なげに揺れていた。
「・・・・・・ゾム」
その声は、嬉しさと痛みを同時に含んでいた。
俺はゆっくり、足を進める。
胸の中で何かがひび割れて、何度も違う景色がちらつく。
「らっだぁ・・・、」
声は震えていた。どうしても、幼い頃の安心が先に出てしまう。
らっだぁは、その呼びかけに、驚きとも喜びともつかない表情を見せた。ひとつ息をつくように、静かに近づいてくる。
「全部、思い出せた?」
らっだぁの口元がわずかに歪む。それは昔、こちらが見慣れた笑顔が滲んでいる。
「おん。拾ってくれたことも、育ててくれたことも、・・・俺が青鬼の継承者だったってことも。ぜんぶ、思い出した」
言葉が零れた瞬間、胸の奥の何かがじわっと疼く。
怒りでもなく、嫌悪でもなく。切なさのようなものがが波のように押し寄せる。
「そっか・・・。おかえり、ゾム」
らっだぁの声は柔らかくて、昔のようで。けれど、その言葉の後ろには重みがある。
「なんで・・・・・なあ、お前の目的は、なんやねん・・・?」
思考が追いつかない。記憶にくっついていた破片が、真っ直ぐに現実に合わさると、矛盾で胸が裂けそうになる。
らっだぁはゆっくりと目を伏せた。
「・・・・・言ってなかったっけ。俺は、不死と自縛の呪いにかかってるんだよね。自分が望んだことだし、今更後悔はしてないよ。・・・でも・・・・・・、」
その声が掠れる。らっだぁの横顔に、孤独と疲労が刻まれているのがわかった。
「でも、唯一この呪いを解く方法、・・・誰かを本気で好きになるか、『青鬼』に殺してもらうか、この二択が残ってたんだ」
その言葉が、優しさの皮を被った刃のように刺さる。
「青鬼の力」を継がせることで、自分を終わらせる方法を、らっだぁは見出していた。
ただそこには、らっだぁ自身の本心も混ざっていた─────自分を解放してほしい、でも同時にずっと傍にいてほしい、という歪んだ願い。
「お前を鬼の後継者として育てて、互いに殺し合って二人一緒に死ぬ。それが俺の望み。お前を拾った理由。」
ぐわん、と視界が揺れる。
らっだぁのその言葉が、顔が、景色が、昔と重なる。
「・・・・・俺も、一緒に死ぬん?」
「・・・・だって、俺だけ死んだらお前を殺せる奴が居なくなるじゃん。鬼を殺せるのは鬼だけ。人間よりも丈夫で、長寿で、死ににくい鬼は、鬼に殺してもらえなきゃ死ねないも同然。・・・お前を鬼の後継者にした責任を取らないと。独りが嫌いなお前を、独りにはしないよ。」
らっだぁはぽつりと言った。吐き捨てるように、自分に対して言っているように聞こえるそれが、ずしりと気を重くする。
「だから、ゾム。お前に継いでほしかった。俺を終わらせる役目を。そうすれば、俺は楽になれるし、ゾムはもう一度普通の人生を歩める。」
どうしてそんな自分勝手な優しさが憎めないのだろう。
思考は歪んでいるけれど、目の前のらっだぁは、確かに俺の大切な人で。
「・・・・・一緒に死ななくても、よかったんちゃう?」
叫びにも似た言葉が出る。らっだぁの頬がほんの少し強張った。
「もうひとつ、呪いを解く方法・・・誰かを本気で好きになる、やったっけ。それやればええやん」
「・・・・ぇ、でも、誰を・・・?」
困惑したような表情を浮かべてそう問うらっだぁ。
「え、誰って・・・お、俺・・・とか・・・・・?」
ぱち、と目を見開いて瞬きをするらっだぁ。
なんちゃって、的な冗談で言ったつもりだったのだけど、どうやら間に受けてしまったらしい。
「た、確かに・・・・・?」
「・・・はぁ!?」
驚いた顔でそう返事をしたらっだぁに、近くで事の一部始終を見ていたシャオロンが叫んだ。
「・・・・・俺はずっと、ただ守りたかっただけなんだよね。お前を傷つける奴らから、世界から。お前が生きて笑うことだけが、俺の救いだから。」
─────でも、もうその必要はなさそうだね。
シャオロンたちを見てそう笑うらっだぁ。
その横顔は、どこか吹っ切れたような顔で、心臓がどくんと鳴る。
「・・・じゃあさ、らっだぁ。・・・・ここで一緒に、暮らそうや?」
「え゛」
今度は大先生の潰れたような声が聞こえたがまあいいだろう。
「・・・・それで、ゾムのことを本気で好きになって、この呪いを解けばいい、ってこと?」
「・・・おん、ま、そういうことやな!」
小さく笑みを浮かべてそう尋ねてくるあたり、まだ性格は意地悪なようだ。
「・・・・・うん。じゃ、改めてそうさせてもらおうかな。・・・・・・ねえ、イフリート?」
「・・・え、イフリートのこと、知ってるん・・・?」
突如らっだぁが口にしたその名前。
確か、この館と森の守り神のはずなんだけど、知り合いなのだろうか。
「知ってるも何も、私のこと、忘れたとは言わせないわよ」
「・・・・・ぇ、あれ・・・?」
いつものように時空の裂け目のようなものから顔を出したイフリート。
でも、いつも見るような女性の姿ではなく。
「狼・・・銀狼・・・・・・?」
「ふふ、ちゃんと覚えてるじゃない」
イフリート。思い出した、そうだ、そうだった。
昔、動物が苦手ならっだぁに隠れて、森でよく遊んでいた狼。名前は通りすがりの淫魔がつけてくれたんだっけ。
「やっぱりね。黒幕はあんただったか」
「あら、あなたの願いを聞いてあげたのはこの私だけど」
「ちょ、ちょっと待って、どう言うこと?」
未だ二人の関係が見えない俺たちからすると、意味がわからない。
首を傾げる俺を見て、イフリートはくす、と上品に笑った。
「私、もといこの土地の守り神が、青鬼に呪いをかけたのよ。無論、彼自ら望んだことだったけれど」
「・・・・じゃ、じゃあ、俺が毎日一緒に遊んでいた狼は、実は神様だったってこと・・・?」
「そう言うことだね」
笑みを押し殺すような表情でらっだぁがそう言った。
何それ一ミリも知らされてなかったんだが・・・?多分二人の表情からするに、知ってて黙っていたのだろう。
「私があなたたちをこの館に連れてきたのは、このままじゃ二人が本当にいつか死んでしまうと思ったから。
ゾムに愛されることを知ってもらって、らっだぁの固定された概念をぶっ壊してもらおうと思ったのよ」
「そうなんや・・・」
この館に連れてこられた本当の意味。
それを知ってどこか安心する反面、ネタバラシされてしまったような面白くなさもどこか感じてしまった。
「さて、この館の本来の目的は言ってしまったけれど、まだ出れるわけじゃないわよ?今日から新しく、彼が参加するんだから」
「・・・あれ、もしかして俺がいなかったらみんな出れた感じ?」
「え、そうなん・・・?」
「ばっ、なんの証拠もないくせに変なこと言うんやないわ!!」
「んははw」
なんというか、あっという間に馴染んでしまった。
つい先刻まで対峙していたとは思えない笑顔に、どこか安心する。
「さて、改めて自己紹介したらいいんじゃないかしら?」
そのイフリートの提案にみんなが頷く。
「はい、じゃあ俺一番乗り!どうもインキュバスの鬱です。大先生って呼んでな!」
「龍の化身、最強なシャオロンです!よろしく!」
「ショッピっす。普通の吸血鬼でーす。血はあんま飲まんから安心してな」
「エーミールです。記憶はないですがキョンシーだそうです。よろしくお願いします!」
「人狼のトントンや。よろしく」
「改めて、青鬼のらっだぁです、どうぞよろしく」
輪になって時計回りに自己紹介が始まる。
一番最初に出会った時のことを思い出して、自然と笑いが込み上げてきた。
「青鬼の後継者、ゾムです!よろしくな!」
◇
終わった!!
え、まじで?自分でもよくわかってないんだけど大丈夫かね。
終わったよ、本編これで終了だよ、やばい。
多分エピローグとか裏話とか出すけど、お話としてはこれで終わり、多分。
急展開すぎて心配になってきたな・・・状況分かりにくかったらすいません!!
てか前の話くそ伸びててビビった。みんな過呼吸大好きなんだよね!!嬉しい
コメント
10件
完結おめでとうございますー!!!!続きが出る度にわくわくしながら開いてました!ほんとに最高の作品をありがとうございました🙇🏻♀️✨
完結きちゃぁッ”! rdぉ…(´;ω;`) 裏話かぁ…楽しみに待ってるのぜ!