ほのぼの一松愛されほんわか噺です。
全話との温度差にご注意下さい
木枯らしが頬を撫でて過ぎ去る季節。
一松は路地裏でいつものように猫に餌をあげていた。
路地裏なこともあり、狭い空間に跳ね返った風が鋭い針のように一松と猫の間を走り去り、一松は猫に話し掛けた。
「…ん、寒い…?大丈夫?」
煮干しをカリカリと食べ進める三匹の子猫たちを撫でてやれば成猫よりも高く細い声で泣き、一松の心は更に癒される。
「…っ…可愛いなぁ…」
周りに誰も居ないことをいいことに一松のピンと張り詰めている表情筋は緩まり、へにゃりと大変可愛らしい笑顔を浮かべさせた。
実際には居ないのではなく、隠れていただけなのだが。
(わはー!!!一松兄さんかっわいい!!!)
口をパッカリと開けて微笑み見守る十四松は1時間ほど前から待機しており、一松の一挙一動を見逃さないよう目を見開いていた。
(うううもう耐えられないっす!!!)
「一松兄さぁぁぁん!!!」
ゴミ箱の影から飛び出し、しゃがんでいる自分より幾らか細い兄の背中へ飛び込む。
「うわっ?!…十四松か…脅かすなよ」
驚き、咄嗟にでた猫耳と尻尾をしまい咎めるように半目を更に細めて十四松を見るが、すぐに可愛い弟を撫でる為に微笑む。
「はぁ…お前も猫、撫でる?」
既に満面の笑みだった顔はみるみる口角をあげ、一松に恐怖心を植え付けるのには充分だった。
「え、お前どこまで口角あがんの…」
「わかんない!!!」
そういうと一松は口元に手を持っていき、愛おしいものを見るように笑った。
「ふはっ。」
途端十四松の目はキラキラと輝き、猫を無視して一松へ抱き着いた。
「っちょ、あ、危な…」
「一松兄さんかぁわいい!!!」
本心を伝えるとシャイな一松はみるみる顔を赤く染める。
「っは、?いや、お前の方が可愛いし…俺なんか可愛くないから辞めろ…」
顔を手で覆ってしまったが、耳まで赤いので十四松の気分は下がることを知らず、一松の手の甲や耳にキスを落とす始末。
耐えられなくなったのか一松が十四松の肩を掴み、拒絶する様に引き離した。
「…っもう帰るから!」
耳が弱い一松は涙目になり、十四松を置いて路地裏から出ていってしまった。
「あはー!!照れてる!兄さん照れてる?!かわいい!!待ってくだせぇ!!」
早足で路地裏から出るも、体力と足の速さの差によりあっという間に追いつかれてしまった。
「一松兄さんかわいい!」
全く息を荒げず隣でニコニコと向日葵のように笑う弟が可愛く、咎める気すら心の奥底へ引っ込んでしまった。
「…はぁ。寒いから早く帰ろ」
一松も荒い息を整え、ポケットの中の手を取り出し隣の綺麗に整えられた頭をわしゃわしゃと撫でる。
嬉しそうにしている弟の頭から手を除け、ん。と言いながら手を差し出せば意を汲み取る事が出来たのか笑顔を絶やすことなく手を繋ぎ2人で商店街を歩く。
周りから見れば成人男性2人が笑顔で手を繋ぎながら歩いている。
酷い光景だ。
それから他愛も無い話をすればあっという間に家に着く。
玄関のドアを開ければ外よりも幾らか暖かい空気が2人を迎え、気付かぬ内に安堵の溜め息が漏れる。
「ただいまーーーっする!!!!」
大人しく手を引かれていた弟がいきなりすぐ隣で大声をあげるものだから、今日二度目の猫耳と尻尾が勢いよく身体から飛び出した。
「あっ、一松兄さんごめんなさいっ…」
しゅん、と無いはずの犬耳がしゅんと垂れるイメージを考え、一松は微笑みながら頭を撫で1人で家へと入っていった。
「おー?おかえりー」
卓袱台に顎を預け、炬燵でぬくぬくとTVを見ている兄を一瞥し、一松は手を洗う為に洗面所へと向かった。
手を拭きながら居間へ戻れば十四松が蜜柑を有り得ない速度で咀嚼しており、一松はギョッとしながらも手を洗う事を促した。
「十四松…手、洗った?」
そう言えば十四松は「あっ!」と立ち上がり、ドタドタと走っていった。
一松は十四松を横目に見ながらおそ松の向かいに座り、いつの間にか部屋の中にいた猫を呼び撫で始めた。
膝の上でゴロゴロと喉を鳴らす猫を見ながらおそ松は一松に構え構えと抗議していた。
「ねぇいちまっちゃぁーん…?お兄ちゃんも構ってよぉ」
「やだ」
即答で出される拒絶の言葉に驚きもせず、おそ松はただ悶えていた。
(え?!?!やだって可愛すぎるだろ?!?!やだ?!幼稚園児じゃん!ショタいちまっちゃん?!好き!あーーー!抱きたい!タッティだよ!タッティ!!!)
表情に出さず無言で暴れ回るおそ松を怪訝な表情で見ながら、一松はいつの間にか戻ってきていた十四松に手招きをした。
「何してるの。そんなとこ居たら寒いでしょ。おいで」
おいでと呼ばれた十四松は猫がいるにもかかわらず一松の膝へダイブした。
それに驚き猫は逃げてしまった。
「…あ…」
少し寂しそうな顔をする一松の頬に手を当て、十四松は自分へ向けた。
「む…一松兄さん!僕が猫だよ!はやく撫でて!にゃあ!!!」
一松は目を丸くした後、後光が差すかのような笑顔で十四松の頭を撫で始めた。
その笑顔にダメージを受けたのは十四松だけではなく、知らぬ間に復活していたおそ松、隠れてみていたその他兄弟だった。
カラ松、チョロ松、トド松は余りの尊さに倒れ、襖を倒して居間へ雪崩込んだ。
「え…大丈夫…?」
何をしているんだと言っているような顔で心配する一松に各々が返し、先程の光景へ戻る。
暫くそうしていれば、石油ストーブの灯油が切れたことを知らせる機械音が居間へ響いた。
以前ならばお前が行け。いや、お前が行け。と擦り合いをしていたが、今一松の気分は珍しく高揚していた為、灯油補給してくる。と一言いって先程直された居間の襖へ手を掛けた。
途端、皆が立ち上がり一松を狂気すら感じる笑顔で見た。
「え、なに…」
「「「「「一松(兄さん)!!!」」」」」
「?」
「「「「「俺と(僕と)一緒に行こう!」」」」」
何故こうなったのか。今松野家の六つ子は四男を中心に灯油入れを持って道の真ん中を歩いていた。
(6人で行く必要なんてないのに。…でも、なんか新鮮で楽しい。冬ならではだなぁ…)
ぼうっと考え込むとあっという間に置いていかれ、誰かが一松の名前を呼んだ。
「一松〜」
「まって、今行く。」
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ぐっ かわわいー!