布団の隙間を縫って入り込む強烈な冷気に、微睡みの中にいた意識は半強制的に覚醒する。昨日まで隣にあった人肌は抜け殻を残して姿を消していた。
全く、こんな朝っぱらからどこに行ったんだ。
生憎テレパシーやら超能力は持ち合わせていない。だが、彼の行きそうな所なら容易に想像がつく。伊達に右腕をしている訳じゃないのだから。
布団から這い出て、改めて感じる寒さに二の腕を擦りながら、薄く光を差し込ませているカーテンを左右に引く。一瞬視界が白く眩み、それが全て雪であることに気づいた時は幼い頃の興奮を思い出した。
まだ誰にも荒らされた様子のない新雪はまるで彼の内面のようではないか、なんて朝のたった一コマさえにも彼の存在を感じてしまう。これも“忠誠を誓った”の一言で済んでしまうのだとしたら、忠誠とは本当に人を変えるのだと心底驚かされる。
さて、自分が目覚めてからはや15分程が経っただろうか。そろそろ迎えに行ってやらねば風邪だけでは済まなくなってしまいそうだ。やれやれと首を振りながらも満更ではないあたり、重症なのだろう。
ベランダに適当に放られたサンダルにも雪が薄く積もっていた。
「やっぱりサンダルはあかんなぁ、」
ぎし、と足の裏に伝わる特有の音と感触に改めて冬という季節を感じさせられる。
通気性を追求し、より涼しく、と作られたサンダルは簡単に雪の侵入を許してしまう。じわりと溶けて広がる水は足の裏全体を濡らし、冷えを促しているようだ。
足の感覚が薄れていくのも構わず歩けば、横たわる人物が目視できる位置まで近づいて一言。
「死ねたん?」
顔を真上から覗き込むと、閉ざされていた瞼がゆっくりと開かれる。真紅に染まる瞳は、雪の白もあって血液のようだった。
「嫌、駄目だった。」
残念だ。
目は口ほどに物を言うとは言うが、こんなにあからさまなのも珍しい。彼の指先は痛々しいほど赤くなり、服はジワジワと濡れている。
彼が風邪をひいたら面倒を見るのは確実に自分だ。それも悪くないと思う自分もいるが、やはり面倒なことに変わりはない。
「そんなら、はよ中に戻りましょ」
「風邪なんて引かれたら堪りませんわ」
怠そうに手をこちらへ伸ばしているのは、恐らく起こせ、という解釈で間違いはないはずだ。
仕方なしと引き起こすと背中はびちょ濡れ、髪の先は僅かに凍っていた。
「…普通こんなんなるまで寝転がってるとか有り得ませんからね?」
「ほんまに、俺が気付かんかったらどうするつもりやってん…」
「……?」
「お前が気付かないハズがないだろ」
無意識、なんだろうな。多分。
些細な言葉の端々に、自分への信頼とか、そうゆうものを感じるだけで十分な位に満たされてしまう自分は案外単純だ。
まぁ……今はそんな事、どうでも良い。
この時間を
彼と過ごせるなら……
あぁ
なんて
シアワセな
「ッは………………ゆ、め…?」
【¿?国抗争 死亡者名簿】
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総統 グルッペン・フューラー
以上.
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