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◆甘やかしてもいいですか?
「もふく~ん、お風呂空いたよ~」
仕事が終わりふうと一息。
この後の時間をどう過ごしてやろうかといくつかの趣味を頭に浮かべたその時、軽いノックの後ひょこっと控えめにどぬが顔を出した。
「え、もうそんな時間?」
凝り固まった腕や肩をほぐすように腕を伸ばした姿勢のまま視線を向けると、ドアから顔だけ出していたどぬとぱちりと目が合う。
「そうだよ、良い子はお風呂に入って寝る時間だよ~」
今日は何か良いことがあったのか、左右で色彩の異なる瞳はキラキラしていてやけに上機嫌だ。
「悪い子だからまだ遊んでようかな」
「ええっ!わるい子だ、わるいこがいるぅっ」
たまに出てくる俺のひねくれにもちゃんと乗っかってくれるし。
どぬちゃんのニコニコは伝染するんだよなあ。
「もふくん、なんかたくらんでるでしょ?」
「してないって!」
ニヤニヤしてるって言われて思わず反論する。ニヤニヤじゃなくてニコニコだっつーの、ほんと人聞きの悪い。
「ほんとにー?」
むぅ、と思わず表現したくなるような口の形で疑わしげにじーっと見つめてくるのにどうしたものか、と逡巡する。
「ほんとほんと、どぬちゃんがパジャマのパンツ履き忘れてるのどうやって伝えようかなあなんて思ってないから」
「うそっ!」
ニヤニヤと評されてしまった笑顔のまま返すと面白いくらいに慌てたどぬが扉から一瞬消え、顔を真っ赤にして戻ってきた。
「履いてるじゃん!!💢」
「あっはっは、ごめんごめん」
決して嗜虐趣味があるわけではないんだけど、ニコニコふわふわどぬちゃんはついついいじりたくなってしまう。
「わるい子にはサンタさんも来ないし七夕のおねがいもかなわないんだよ?」
ぶくっとわずかに膨らませた頬に反して、声には刺が全くない。それどころかどこか楽しそうなその様子は、およそ成人男性とは思えない愛嬌たっぷり甘えモードな時のものだ。
「悪い悪い、最近ハマってるヤツのログインボーナスだけ受け取ったら入ろっかな」
俺が「うん」と言うまで出ていかなさそうな気がしたので少し折れてみるも、こっちをじーっと見つめたまま動かない。
今日は人恋しいモードなのかな?
いつまでも扉の前で立ちぼうけさせるのもどうかと思いちょいちょいと手招きしたら、これまた上機嫌でピョコピョコと部屋に入ってきた。
湯上がりらしくまだしっとりと濡れている長い銀髪が動きに合わせてふわりと揺れ、無機質な男部屋に清潔感のある心地いい香りが漂いだす。
「なんか、いい匂いするんですけど」
「なにが?」
「これ」
髪を一房すくい上げて近くで嗅いでみると、より濃密な香りが鼻を擽る。
「あ、シャンプー?この前ね~買ったの」
めっちゃいい匂いなんだあと、どぬが嬉しそうににへらと笑う。
「もふくんも使ってみる?」
「ええ💦、俺はいいよ」
俺が使ってもこの香りにはならない気がする。
どこか優しげで甘い香りは柔らかな雰囲気をまとうどぬによく合っている。
「この香りが恋しくなったらこうやって嗅がしてもらうから大丈夫」
目の前にあるふぁさふぁさの耳に鼻を寄せ、すんと匂いを嗅ぐ。
当たり前のようにここもフローラル笑
「もふくん、なんか変態っぽいんだけど、、、笑」
くすぐったそうに身を捩りながら失礼なことをぶっこんでくるから、意趣返しにフッて目の前にある耳毛に息を吹きかけてやった。
「っぁ!!、、、も゛ふ゛く゛ん゛っ!!!!」
「ごめん、ごめんって笑」
手に持っていたタオルを頭から被って小さくうずくまってしまった姿に、申し訳なくなる。そこまでするつもりでは無かったんだけど。
ってか、ここ、どぬちゃんの弱点なんだ。
思いがけず発掘してしまったそれは今後何かの時に使えるかもしれない。
「お詫びに髪の毛拭いてあげるから」
「耳は拭かなくていいからね!」
「おーけーおーけー笑」
頭巾のように頭をすっぽり覆ったタオルに手をかけ、髪がほつれないように丁寧にタオルドライしていく。良かった、抵抗されなくて。
後でブラッシングもしてやろうかな。
特に長い後ろ髪を優しくタオルでポンポンと挟んでいく。
すっかり大人しくなって気持ち良さそうに座っている様子は控えめに言って可愛い。
どぬのこうやってふわりと他人の懐に入ってくるあざとさが大好きで、そして少し心配だ。
他の奴にもやってないよね?
ん、そう言えば─?
「あれ?俺、どぬの次にお風呂入るって言ってたっけ?」
仕事がちょうど終わった絶妙なタイミングだったこともあり、何も疑問に思わなかったがよくよく思い返すと計ったようなタイミングだと感心する。
「ん~ん、言ってないよ~。なんとなく、そろそろかな~って思ったから」
相変わらずご機嫌などぬからのんびりとした声が返ってくる。
「あ、そうだ。早く行かないと、もうちょっとしたらたっつんとかゆあんくんが入っちゃうよ。そろそろ」
「ふーん」
へー、あの二人のタイミングも把握してるんだ。
相変わらず懐に入るのがお得意な事で。
浮気とかそう言うのを心配してるわけじゃないけど、面白くないと言えば実に面白くない。
早く行けと言うわりには、猫だったらゴロゴロと喉を鳴らしてそうなくらい溶けてくつろいでるし、
油断しかないじゃないか。
他のメンバーといる時もこうなんだろうか。
ペットみたいだと俺以外の奴にヨシヨシされてる場面に遭遇したのは一度や二度ではない。
ひょっとして、俺、甘やかし過ぎたかも!?
「はい、終わり。じゃ、お風呂入ってくるわ」
ブラッシングまで一通り終え、
よし、これからは甘やかさないからな!
と、決意新たに立ち上がる。
ちょっと可愛からって、愛嬌があるからって─。
うん、俺は、厳しく行くぞ!!!
「もふく~ん、甚平の内紐が外れちゃった~。お願い、結って~」
「はいはいー」
──厳しくできるのは当分先のようだ、、、、。
終わり