さらに、レイブル教授は続ける。
「文字は古代語で記されており、君達には到底読めないものだ。だから、紋様ごと、このまま記述して対象物を念じて魔力を流せばそれでいい」
レイブル教授はそうバッサリと雑にまとめ、黒板に式の入った魔術サークルを書き写していく。
……実に下手くそなものであった。
線もぐにゃぐにゃとよれているし、古代文字も模写しただけで書き順はめちゃくちゃときた。
一応、それでも発動するのだから魔術は偉大だ。
彼が指定したもの=教卓に置いていたチョークがかたかたと音を立てながら、浮き上がる。
だが、不完全な魔術式とサークルのせいだろう、すぐに落ちてきてしまった。
「どうだ、見たか。このように浮かせるのだ。はじめはここまで綺麗には浮かないだろうが、やって見ろ。大事なのは反復練習だ」
つたなすぎる魔術にもかかわらず、発動者本人は満足げだ。
レイブル教授は得意そうにひげをさすりながら言う。
俺が思わず口を挟みかけたところで、
「…………えー」
先に一人の女子生徒がこんな不満そうな声をあげた。
机にひじをつきながら、はっきりと大きい溜息をつく。しかも、クリーム色のショートヘアを指先で弄びながらという大胆ぶりだ。
「なんだね、ルチア・ルチアーノ。聞きたいことがあるなら、聞いてみるがよい」
レイブル教授のこの問いに、彼女は仕方なくと言った感じで続けた。
「レイブル先生の教える魔術って、ほんとに形式だけじゃないですか? もっと、本質的なことが知りたいんですけど。一つ一つにどんな意味があるんだー、とか。だいたい、浮遊したって数秒だけじゃん。浮遊ってか、揺れただけ?」
……正直、もっともな意見だった。
あんな授業であれば、魔術サークルの形さえ知っていれば、誰でもできる。
そんな生徒の指摘に対してレイブル教授がとった行動はといえば、
「ルチア・ルチアーノ。君には特別な教育が必要なようだね。ワシのなにが間違っているっていうんだ。わざわざかみ砕いて、簡単に教えてやってるのに……!」
逆ギレだった。
その恫喝するような大きな声に、教室中がぴりっとした空気に包まれる。
レイブル教授はもともと、属性魔法で名をなした人で、出身の家柄も侯爵家と高い。
そのため、生徒たちは委縮しているのだ。
そんな中でも一人、ルチアという生徒は頬杖をつき続けているから、その精神はかなり強固だ。
「だいだい、君のようなクソガキがこの学校にいること自体が――」
なんてレイブル教授はなおも、怒声をまき散らす。
……さすがに、割って入ってもよさそうだ。
副講師として、この状況を放置するのもよくないだろう。
それに、このまま間違った魔術が指導されるのも、見過ごせない。
自分の保身を考えずに、「先生」として正しい行動を考えるならば、実に明白であった。
「レイブル教授、少々お待ちを」
「な、なんだね、アデル君。君まで私に文句があるのかね」
「そんなまさか。文句ではありませんよ。ただ、一応、間違いをただしておこうかと思っただけのことです」