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第六章
UVレジン製の安価なオーロラバッジ。
粗悪な樹脂は、静かに変質を始めていた。透明だった輝きは、黄ばみを帯び、表面には無数の微細なひび割れが走る。そして表面には異臭を放つ粘着性の液体が付着するようになった。ゆっくりにとってこの粘着性の液体は餡子を冒す毒であった。
「おかおが……おかおがいたいよおぉ! どぼじでえええ!!」
スマートフォンの画面を、お兄さんは無感情に眺める。
届くのは、購入者からの悲痛な、あるいは怒りに満ちたクレームだ。
「届いたゆっくりの顔が真っ赤に腫れた」「今朝からずっと餡子を吐き続けている」「お肌に汚い斑点(はんてん)が……!」
お兄さんの指先が、テンプレートを機械的にフリックする。
「個体差です。甘やかしすぎです。餌を調整してください」
だが、化学反応は容赦なかった。バッジから溶け出した成分は、ゆっくりの「中枢餡」をダイレクトに蝕む。
「ゆっ……ゆげっ、ゆげぇ……」
動かなくなる四肢、抜け落ちる髪の毛、そして中身の餡子が腐敗し、ドロドロの泥水となって溢れ出す。
ネットの掲示板には、その無残な画像が次々とアップロードされた。
【悲報】〇ルカリで購入したゆっくりがヤバかった【虐待】
スレッドは一気に加速する。被害を訴える飼い主たちの悲鳴。そして、それ以上に騒ぎ立てるのは、正義の皮を被った保護団体という名のハイエナたちだ。
「販売者を特定しろ! おうち宣言を許すな!」
事態はすでに物理的な牙を剥き始めていた。
保護団体のリーダーは、ライブ配信で変色したバッジを掲げ、叫んでいる。
「私たちは戦います!許しません!!!」
「クソッ、なんで俺がこんな目に……!」
その火の手は、彼の「表の顔」――大手広告代理店のデスクにまで届いた。
昼休み、社内PCに一通のメールが着信する。件名はなし。
添付ファイルを開くと、そこには自分の顔写真、住所、そして「ゆっくり販売」の動かぬ証拠。
心臓の鼓動が、不快なリズムで餡子(脳内)を叩く。
夜、施設に戻ると、相棒のシルバーが無表情に野良たちを「査定」していた。
彼女はわずかに足を引きずり、お兄さんを見上げる。
「むきゅ……お兄さん。今日の個体は、に販売に回せそうなものはありませんでした。全て加工に回してしまって良いでしょうか?」
彼女の言葉さえ、今は雑音にしか聞こえない。
ネットの炎上はもはや消火不能。アカウントは凍結され、上司からは「例の件で話がある」と緊急の呼び出しが入っている。
施設の電話が鳴り響く。
お兄さんは、震える手でライターを握りしめた。
カチリ、と小さな音がして、火が灯る。
目の前の「在庫」たちが、「ゆんっ?」「ゆあああん!」と一斉に鳴き始めた。