テラーノベル
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「おはよう、僕のちゅーや。」朝の光で目が覚めたと思えば、目の前にいたのは昨日散々自らを乱した男だった。
「おはようもクソもあるかよ…腰いてぇ。」
「そうだねぇ、声も枯れてて色っぽいねぇ、可愛いねぇ。」
昨日のことを思い出すとまた頰が赤く染まる。そして中也は布団に潜った。
「ちょっと〜新婚の夫婦といえば朝の定番の儀式があるじゃない‼︎ほら!早く‼︎」
「知らねぇし。勝手にやってろ。…つーか新婚じゃねぇだろ。」
そして夫婦でもない。が、それを付け足す気配は全くもってない。
「飼い主に歯向かう狗にわざわざ私が教えてあげよう。優しいこの私が!」
まだ夢見心地なのか、中也はポヤポヤとした目で太宰を見つめる。
そして…
“チュッ”
「???????…ふぁ?」
「どう?“おはようのキス”は?」
太宰は中也の鼻に花弁が落ちるかのようなキスをそっと落とした。
「わるか…ねぇ…」
口元に布団を寄せながら、目線を逸らして顔を赤らめる中也。つまり、最高に可愛い。
「グッッッハ!!!!」
エアーで吐血する太宰。
「くっ…流石にそれはないよ中也。朝一番からSSRなんて…!録音しておいてよかった。」
「は⁈何言いやがる太宰‼︎貸せ!今すぐ消してやる‼︎」
手を伸ばすも太宰の長い腕の先にあるレコーダーには届かない。
「そろそろ朝食の時間なんじゃないかい?中也」
「……。」
中也はレコーダーを睨んだまま動かない。
「返せ。」
「やだ。」
「返せ。」
「やだ。」
「……三。」
「?」
「二。」
「え?」
「一。」
「――《汚れつちまつた悲しみに》」
ゴンッ。
「いったぁ!!」
太宰の額へ軽い拳骨が落ちた。
「朝っぱらから異能使うな!」
「使ってねぇよ。ただ殴っただけだ。」
「もっと酷いじゃないか!」
中也はふん、と鼻を鳴らす。
「録音はあとで消す。」
「残念でした〜もうこれはデータ化して異能特務課レベルの管理システムの方に保存されてまーす。」
「あ゛⁈」
「まあ諦めなよ。昨日の君の食堂での言葉を録音できなかったことに死ぬほど後悔した僕には勝てないよ。」
言いながらも太宰は嬉しそうだった。
そんな様子を見て、中也は小さくため息を吐く。
「…わかったよ…だからその…ほら。」
「?」
「飯。腹減ったんだろ。」
「中也が作ってくれるの?」
「今日は違ぇ。」
中也はベッドからゆっくり起き上がる。
「昨日言っただろ。本館で食うって。」
「あー……。」
太宰は少しだけ肩を落とした。
「残念。」
「何がだ。」
「初めての朝ごはん。」
「別に今日じゃなくても、そのうち作る。」
「!」
ぴたり…太宰の動きが止まる。
「今なんて?」
「だから。」
中也は髪をかき上げながら何でもないように言う。
「そのうちな。」
「……。」
数秒。
「中也。」
「なんだ。」
「それって毎日?」
「毎日とは言ってねぇ。」
「でも否定もしなかった。ってことは一緒に暮らすんだから、そういう日もあるってことだよね?」
「……まぁ。」
「…………。」
太宰がまた固まった。
「またかよ。」
「うふふふ。」
「気色悪りぃ。」
「なんとでもいい給え。」
「そりゃよかったな」
中也は呆れながらベッドを降りる。
まだ腰が痛い。ただ、異能力を使えば生活面で問題はなさそうだ。
窓のカーテンを開けると、柔らかな朝日が部屋いっぱいに差し込んだ。
庭では数人の構成員が既に仕事を始めている。
離れの窓からは本館へ続く石畳の道も見えた。
「今日は休みじゃねぇからな。朝飯食ったら学校。わかってんだろうな?」
「知ってる。」
「遅刻すんなよ。」
「知ってる。」
「……。」
「だからもう少しここにいよう。」
「却下。」
「十分だけ。」
「却下。」
「五分。」
「却下。」
「三分。」
「……二分。」
「やった!」
「その代わり。」
中也は指を一本立てる。
「本館じゃ変なことすんな。」
「変なことって?」
「人前で抱きつくな。」
「うん。」
「手ぇ繋ぐな。」
「うん。」
「”ハニー”とか”ダーリン”とか大声で呼ぶな。」
「うん。」
「俺を膝に乗せるな。」
「うん。」
「俺の隣を他の奴に譲れ。」
「それは無理。」
「即答かよ!」
「中也の隣は僕の指定席だから。」
「そんな席ねぇ。」
「ある。」
「ねぇ。」
「ある。」
二人がいつもの調子で言い合っていると、
コンコン。
離れの玄関から控えめなノックが響いた。
「中也さん、太宰さん。」
聞き慣れた落ち着いた声。
「朝食の準備が整いました。皆さんお待ちです。」
安吾だった。
「ああ、今行く。」
中也が返事をすると、扉の向こうから少し間を置いて、
「あと太宰さん。」
「ん?」
「森さんが『早くしないと強制的に僕の隣の席にするから』…と言ってました。」
「それは大変だ!」
太宰は飛び起きた。
「行こう中也!」
「さっきまで二分粘るとか言ってた奴が。」
「森さんと隣なんて絶対に嫌!!」
「首領が聞いたら悲しむぞ。」
苦笑しながら、中也も部屋の扉へ向かう。
新しい一日が始まる。
つい先日まで「帰る場所」を失っていた男と、その帰る場所になった相棒。
「おはよう、太宰。」
その言葉は決して相手には聞こえない。恥ずかしがり屋の彼女の精一杯。
そんな二人を待つ賑やかな朝が、本館ではもう始まっていた。
ーーーーー
賑やかな朝食を終え、登校の支度をする二人。
「ねえ中也〜」
ノックもなく扉が開き、ひょこっと太宰が顔を覗かせた。
「勝手に部屋入ってくんじゃねえよ糞太宰」
制服のシャツを着替えていた中也は、鏡越しにじろりと睨む。
「やだなぁ、中也。僕は駄犬にお仕事を与えにきたのだよ?いや〜ほんっと僕っていい飼い主だよね〜。」
「俺は犬じゃねえっつってんだろ‼︎」
「そうだね、犬じゃない。狗だ。」
「あんっ??お前何言ってんだ?」
ちなみに犬は成犬やイヌ全般を指し、狗は子犬や小型犬を指す。
「まぁ、その小さい脳でよーく考えるんだね。」
「小さい脳じゃねえ!!」
これ以上言ってもまた嫌味がくるだけ…どうにかイライラを抑えようとする。
「で?何しに来た。」
「だから言ったじゃない。お・し・ご・と♡」
そう言って差し出してきたのはネクタイだった。
「……はぁ、貸せ。」
中也は深いため息をつき、太宰からネクタイをひったくる。
「わーい、中也だぁいすき。」
「うるせぇ…じっとしてろ。」
「はーい。」
(なんだかんだ毎回結んでくれるんだよねぇ)
前世からそうなのだ。あーだこーだ文句は言うものの、必ず結んでくれる。
「ちょっ、手前もう少し屈めや…!」
背伸びして頑張ってネクタイを巻こうとする中也。
(えっ、待って可愛い可愛い可愛い可愛い…以下省略)
「おい聞いてんのか⁈社会の屑が。」
「うん待って。思ったよりも酷い悪口が聞こえたよ?」
「気のせいだ。」
「気のせいじゃないよね?」
「ほら、黙って屈め。」
太宰は素直に少しだけ腰を落とす。
それでも中也より頭一つ分高い。
「……もうちょい。」
「はいはい。」
さらに少しだけ身を屈める太宰。
「それでよし。」
中也は器用な手つきでネクタイを首へ回す。
「ったく、自分で結べるくせに。」
「わざわざ君にお仕事を与えているんだよ。むしろ感謝の言葉が欲しいくらいだ。」
とか言っているが、この男、目の前の中也を抱きしめたくてたまらない気持ちを理性と素直になれない気持ちで抑えている。
「黙っとけ…手前その服似合わねえな。」
とか言っているが、この女、雄英高校の制服を着ている太宰にちょっと見惚れている。
「言わないでよ。確かにこの制服派手な色してるもんね。」
「そんな無駄話する暇はねえぞ。ほら、早く鞄持てや。」
「ちょっと待ってよ。大事なダーリンにしなきゃいけないことがあるでしょ?」
「はぁ?」
「も〜う忘れちゃったわけ?チューだよ。行ってきますのチュー。」
沈黙。そして、
「ばっ、バッカじゃねえの⁈」
ポシュッと、顔が一気に赤くなる。
「ほら早く。はーやーくー。」
二人で一緒に登校するのだからしなくてもいいのだが、ここまで強いられたら押されてしまうのが中也というもの。
「分かった。分かったから目をつぶれ。」
「はいはい。」
スタスタと、小さな足音が目の前までやってくる。そして、
フニッ
太宰の頰に感覚が降りた。
「これでいいだろ…(小さく)莫迦ダーリン」
…
「なんで頬なの!!!あとダーリンって言ったよね⁈マイハニー!!!」
「うるっせえよ!してあげただけいいと思え‼︎」
ーーーーー
賑やかなやり取りを終えた二人は、それぞれ鞄を肩に掛ける。
「ほら、行くぞ。」
玄関へ向かう中也の後ろを、太宰が機嫌よくついて歩く。
「ねぇ中也。」
「今度はなんだ。」
「ネクタイ結んでくれてありがとう。」
「……毎回言え。」
「え?」
「そういうのはちゃんと口にしろって言ってんだ。」
太宰は一瞬だけ目を丸くしたあと、小さく笑う。
「了解。」
その返事に、中也もわずかに口元を緩める。
外へ出ると、朝の空気は少しひんやりとしていた。
本館の前では黒塗りの車が待機している。
運転席には広津が立ち、二人を見ると軽く一礼した。
「おはようございます、お二人とも。」
「おはようございます、広津さん。」
「悪いな、朝から。」
「いえ。本日は雄英高校までお送りいたします。」
二人が後部座席へ乗り込むと、車は静かに森邸を後にする。
窓の外を流れる横浜の街並みを眺めながら、中也は小さく息を吐いた。
「今日も体育あるんだったな。」
「そうみたいだね。」
「……問題起こすなよ。」
「善処する。」
「その返事が一番信用できねぇ。」
「酷いなぁ。」
そんな軽口を交わしながら、車は雄英高校へ向かって走っていく。
やがて校門が見え始める。
「着きました。」
広津の声に、二人は同時にドアを開けた。
「じゃあ行くか。」
「うん。」
昨日より少しだけ自然な距離で並び、二人は朝の雄英高校へ足を踏み入れた。
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皆様こんにちは、猫の小判です。出す出す詐欺をしていましたが、9月に入ってようやく投稿できました。現実ではテスト期間なので、後で痛い目見るだろうと覚悟しています。
さて、皆様に謝らなければならないのは、朝食シーンを抜いてしまったことです。いや、最初は書いていたんですよ?でも、でもなんか違う感じがして、うまくまとまらなくて…!!
(書こうと思って書けなかった朝食の席順)
・当然のように社長と与謝野の間に座る乱歩さん。
・乱歩さんと反対側の社長の隣に鏡花ちゃんが座ってて、そこから子供組が並ぶ。(鏡花ちゃんは原作で社長と祖父と孫娘を装ったことがあるから…っていうのもあって、二人は本当にそんな関係だったら嬉しいなって思ってる)
・鏡花ちゃんの正面に紅葉の姐さんが座っててそのあたりにポートマフィア組も座ってる。
・安吾は帰った(異能特務課は社畜ですから…)
・中也は特にどこに座るとかは決めてないけど、自然と太宰の席を隣に空けておく。それに突っ込む輩はいない。だって二人だから。 (まぁ森さんは太宰を隣に座らせたいんだけど…)
次の話はもっと後になると思います…ごめんなさい。
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コメント
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第9話読み終えました!「おはようのキス」SSRとか録音するとか、もう完全に太宰のスマイル担当が止まらない(笑)。でも中也がネクタイ結んであげるところとか「そのうち作る」と言ったあとの太宰の固まり方、めちゃくちゃ良かったです。二人の距離が確実に縮まってるのが伝わってきて、朝のシーンなのに心がぽかぽかしました。朝食シーンがなかったのは確かに惜しいですが、それでも十分すぎるほど甘さが濃縮されてて満足です!テスト期間との両立、無理せず頑張ってくださいね。