テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
水無月の頻繁的に雨が降る時期。もうすぐ夏だと言うのに気温が一段と下がってしまう時期。
こういう日にはしっかりと整えられた寝床を体を温めたいですが、こういう時に限って憩いの場がないのであう。
「はぁ……またオフィスが……」
「これはまた……派手にやっちゃったね?」
土砂降りの宵の口。雨宿りとして、一時的に立ち止まっているバス停にいる私達が遠く眺めていた場所は、かつて便利屋68の拠点があったはずのオフィスビル。しかし頑丈に作られたコンクリートの建物の姿はありません。代わりにあったのは、二階から上が黒焦げとなった醜い建物だけです。
「あわわ……またやらかしてしまい、すいません……!」
「はぁ……今回は流石に、ハルカだけの責任って訳じゃないけどね」
こんなことになってしまったのは、数時間前。便利屋のオフィスに敵組織が襲撃にかかり爆発物を使用、その衝撃で私が事前に仕掛けてあった対侵入者用の爆弾が連鎖爆発を引き起こしてしまうという惨劇が繰り広げられたからです。
「まあ、まさかあの時逃した敵組織が急にカチコミ来ることは夢にも思ってなかったからね〜」
「うぅ……逃してしまった敵に、綺麗に返り討ちを喰らってしまうとは……アウトロー名が廃れるわ……」
ベンチに座り頭を抱えながら呻くアル様を一瞥して、また胸から罪悪感が込み上がりそうになりました。
風邪をひかぬよう環境の良いホテルなどに泊まりたかったのですが、生憎手元にこれといったお金がなく利用できず、野外で野宿せざるを得ない状況です。普段なら4人用テントを立てて過ごしていましたが、唐突の襲撃によりそのような持ち物もなし……兎に角危機的状況なのです。
「カヨコォ……近くにキャンプ用品を販売している店舗はないかしら……?」
「うーん……駄目だね。どこも豪雨の影響で閉まってる」
「じゃ、じゃあ近くの公園に行きましょ!そこの遊具とかに……!」
「アルちゃーん、普通に水浸しになって泊まれるような所になってないんじゃいの?」
「ざ、残念ですが……ここで泊まるしかないみたいです……」
「そ、そんなぁ……!?」
結局今日は雨風にさらされる中、野宿する他ありませんでした。
空が黒くなるにつれ、比例するかのように雨もしきりに強くなっていく深夜。テレビでこの時間帯から雨が非常に強くなると聞きました。
この時間は、雨が地面に打たれる音以外が静まり返っていました。傘をさして歩行する人の足音と呟きは勿論、車の勢いよく水溜りに入る音も聞ませんでした。
便利屋の皆さんも眠ってしまっているそんな中、私は目を閉じずただ虚空を見つめていました。
あの時の爆破事件を思い返していると、罪悪感で胸がいっぱいになってしまって、不安で眠れなかったからです。
「……よくよく考えてみたら、私が仕掛けた爆弾のせいで……」
私がたくさんの爆弾を仕掛けなかったらこうはならなかったのに。そのような自責が頭をよぎってしまいます。そのような負の感情と向き合いながら暫く考えた結果、私はこう決心しました。
「今まで迷惑をかけたのですから……何か助けになるようなことをしたいです」
しかし、決心の言葉を口にしても具体的にどのような方法で行うか、まだ頭で整理できませんでした。
これまたうんと考えて、どうにか良い方法を考えてみました。シャーレのオフィスを借りましょうか。それともあの襲撃しにきた敵組織を炙り出して……。どれもあまり良いとはいえず思い悩んでいた時、ふと手元を見てみると、いつの間にか自分の携帯が握られていて、携帯の着信画面にはとある電話番号が既に入力されているのです。
「こ、この番号……私の家の……?」
それは私の実家の電話番号でした。いつの間にか入力していたものですから、きっとこれが方法なのでしょう。ということで早速ボタンを押そうとしました……。
ですが、ここで指が止まってしまいます。
「いいのでしょうか……やっぱりアル様から何かご指摘を……」
いえ、そんなことはどうでも良かったです。私はただ便利屋の皆さんの助けになりたい、そういう一心でやっていますから。
そうして私は躊躇わず指を下ろし、電話をかけました。
「……ん……うんぎゅぅ……」
次の日の早朝。相変わらず雨はまだしきりに降っていました。アル様の朝一番の声に、私は重い瞼を開けました。深夜まで起きていたのですから、少し寝不足気味でした。半目の状態で目を動かしてみると、カヨコ課長もムツキ室長もどうやら今起きたばっかりのようです。
「おはよう……みんな。それで……まだ雨降ってるのね」
「いや〜、寒すぎてあんまりいい心地で眠れなかったけど、それなりには疲れ取れたかな?」
各々背を伸ばしたり、欠伸をして今日という1日に備えて体をほぐしている中。
「……あれ?何か近づいている音しないかしら?
「ホントだね〜?車の音かな?」
「ただの通過じゃ……」
ゴロゴロと聞こえる地響き。車の走行音のような甲高い音。二つの音がどうやら接近しているようです。その音をただ車走っている音だと皆さんが納得してると、突然目の前に黒い物体が横から現れてきました。
「わっ!?びっくりした……」
「リムジンじゃーん。珍しいね」
黒塗りのリムジン。高級感のある車が、突然バス停の前に現れたのですから驚いてしまうのも当然でしょう。しかしもっと驚くべき事象が立て続けに起きたのです。
「待って?あのリムジン、だんだんスピード落ちてない?」
「え?待ってちょうだい……ああ、やっぱり!?ここで停まったわよ!?」
「えー?なんで?」
(ガチャッ)
「お待たせしてすいません。お迎えにあがりました」
「「「……え?」」」
急にリムジンがバス停に停まったかと思うと、ドアが開き召使いらしきロボットが出てきてそう言ってきたのです。これには便利屋の皆さんも困惑する他ありませんでした。
「……社長、もしかて夜中こっそりそういうサービス呼んじゃったの?」
「いやいやいやいや!!やりたいけどそんなことできる訳無いでしょ!?お金が無いんだし……!」
「じゃあ……なんで来てるの?もしかして……敵組織のスパイ……だったり?」
「え、えっと……この方を呼んだのは私……です」
「「「???」」」
「申し訳ありません、お嬢様。こちらの方で仕事が立て込んでおりまして……」
「いえ、寧ろこの時間で丁度良かったです。……出来るだけ寝かせて欲しかったので」
「まままっ!?待ってちょうだい、ハルカ!」
あまりにも自然に会話がなされてしまったことに流石に黙って見ていられなかったか、アル様がここで割って入ってきました。
「ハルカが『お嬢様』!?私、そんな事一度も聞いたことが無いわよ!?」
「ちょっと社長!無闇に割って入らないの!」
「あ……えっと、話すと長く長くなってしまうので……」
「便利屋の皆様方。いつもお嬢様がお世話になっております。こちらの事情は……お嬢様の仰る通り話すと長くなってしまうので、続きはあちらの席でしましょうか」
「くふふ〜?何だか面白くなってきたじゃーん?」
「それではこちらへ」
「あ……あわわわっ!?」
「はぁ……社長が気絶しかけてる」
「そのうち復活するよ〜。じゃあ、お言葉に甘えて〜」
まだ幾つかある疑問を胸に秘めながら、次々と乗る便利屋の皆さんを見送った後、私は最後に乗車して、車は発進しました。
1話完結が良かった。けどやる気が……やっぱ分けます。
コメント
8件
そもそもサムネのハルカが可愛いのは勿論だけど、お嬢様かぁ……便利屋に来たのは立場に縛られてたけど自由に生きるアル様に憧れたのか、家が嫌になって来たのか…妄想が広がりますね…前編でこの満足感はすごいなぁ
新しい概念の発掘...いいねこれ
お嬢様ハルカ概念ってやつ?()