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名無しのヒーロー

5 - 第5話 完璧ではない70点の私でも上出来の結果

2024年02月26日

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朝倉先生を前にして、私は緊張MAXだ。

ガタッ椅子から立ち上がり、馬鹿の一つ覚えのセリフを口にしながら名刺を差し出す。


「谷野夏希と申します。この度は、お声掛け頂きありがとうございました」


「谷野さん? あ、お疲れ様です。だいぶ注文をつけて大変だったと思うけど、おかげで素敵な表紙になったよ。期待に応えてくれたね。ありがとう」


朝倉翔也の意外なセリフに私は驚いた。


てっきり仕事が遅いだの、何回言ってもわからないヤツだの、嫌味をタラタラ言われるものだと思って、今日は覚悟をしてきたのだ。

まさかお礼を言われるなんて、鬼だの悪魔だの言って恨んでいたが、良い仕事をするためのリテイクだった。自分の仕事の甘さを全部、朝倉翔也先生のせいにして恨んでいたなんて、私はとんだ甘ちゃんだったのだ。



「こちらこそ今回のお仕事は勉強になりました。ありがとうございました」


ぺこりと下げた顔を起こすと朝倉翔也先生と視線が合った。


あれ? なんだか、懐かしい感覚。


「谷野さん、また、次作もお願いしようと思っているんだ」


「えっ!?」


「いろいろ要求しても、頑張って応えようと努力してくれているのが伝わって来て、谷野さんの真摯な仕事ぶりは凄く評価している。これからも、安心して仕事を頼めるよ」


「あ、ありがとうございます」


再び、平身低頭で感謝の気持ちを表す。


「これからもよろしく」


そう言って、朝倉先生はふわりと微笑む。


えっ?電話と印象が違う。本当は、優しい人だったの?


やっぱり、私の仕事が甘かったからリテイクに繋がったとのだと、思い当たり深く反省した。


目の前にいる、朝倉翔也先生は家にあった本の小さな全身写真では良く分からなかったが、俳優でもやっていけそうなイケメン、180センチはあろうかという高身長、シンプルな白のカットソーに紺のチノパンが、スタイルの良い躯体に似合っている。切れ長の優し気な瞳、高い鼻梁。そして、声も低ボイスで色気があるイケボ。イケボ好きの私的には、尊い。


こんなイケメン一度見たら忘れられないってぐらいのレベル。



眺めすぎていたのか、朝倉先生と視線が合ってしまった。

あれ? やっぱり、何か前に会った事があるようなデジャブを感じる。


「先生と私、何処かでお会いしたことありましたか?」


「えっ、ナンパですか?」


朝倉先生は、はははっと照れたように笑う。


ナンパなんてそんなつもりの無かったのに……。仕事のつながりで、ナンパとかの誤解は困る。咄嗟に話題を変える。


「なんで、無名の自分に人気作家の朝倉先生の表紙のお仕事が舞い込んだのか、不思議だったんです」


「うちの姪っ子が、谷野さんにイラストを描いてもらったことがあるんだ」


自分で振った話題から意外な話が出てビックリした。


「えっ? 誰だろう?」


「ペンネームがアルファベットの小文字でmayuyuって、覚えてる?」


「mayuyuさん、ですか!? はい、覚えています。ファンタジー小説の表紙を頼まれて、鳩が飛び立つ背景に女の子を書いたのを覚えています」


「そう、その表紙を見て、いいなって思ったんだ」


今まで、無名の自分がどうして人気作家の表紙に指名されたのか、不思議で仕方が無かったが、やっと納得がいった。そして、地道な活動が拾われて実を結んだことがとても嬉しかった。


感激のあまり思わず涙腺が緩んでしまい、涙で視界が歪む。


「あー、先生。谷野さんを泣かしてダメじゃないですか」


「いや、今? 泣かすような事言った?」


焦る朝倉先生の言葉に、私は首を横に振った。その様子を見ていた編集さんが、ホッとしたように話し出した。


「谷野さんは貴重な人材なの、先生の鬼リテイクを文句言わずに直してイメージ通りにしてくれる人は、なかなかいないんだから! 最近の人はすぐにキレるからね。貴重な人材を虐めないでくださいよ。これからは、先生以外の仕事もお願いすることになるんですからね」


「発掘した人に優先権があるんだよ」


「先生の仕事もしてもらいますが、他の仕事もお願いしますね、谷野さん」


なんだか夢みたいな話で感激して涙が止まらない。精一杯の気持ちを込めて返事をした。


「はい、ありがとうございます。頑張ります」


ハンカチで涙を抑え、俯いていると朝倉先生がポソリと呟いた。


「あれ?どこかで会ったような……」


その言葉を聞いて、思わずプッと吹き出してしまった。


「もしかして、私、ナンパされてますか?」


と、意趣返しをして笑った。



「いや、あれ? なんだろう?」


朝倉先生は顎に手を当て考え込んでいる。


「朝倉先生、そこはウソでもいいから何か言ってくださらないと、私がフラれたみたいになるじゃないですか」


「あ、ごめん。ごめん」


と、朝倉先生も笑い出した。


「あー、フラれちゃいました」


「ごめん」


「いや、そんなに謝られると、ホントにフラれたみたいだから止めてくださいよー」


先生も編集の人も私もドッと笑った。



感激して涙を流したり、可笑しくてお腹を抱えて笑ったり、朝倉先生が良い人で良かった。


今日は、緊張してこの打ち上げに参加したけれど、次の仕事にも繋がり、朝倉先生とも打ち解けて話せるようになった。女としては、完璧ではない70点の私でも上出来の結果だと思う。

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