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近畿地方 大阪府「ごめんっ…、ごめんな…っ!」
涙でぼやける視界に、大切な家族6人の姿がぼんやりと見えた。
泣く資格なんてあらへんのに。自分が悪いのに。
なんで…涙が溢れてくんねやろ…
「全部……俺のせいや…」
温かみを感じる玄関で泣きじゃくったまま、今夜の出来事を思い出していた…
「大阪…戦争をしよう」
そう持ちかけてきたのは東京のほうやった。
「え…東京、急に何、言ってん」
俺は聞き返した。
ほんまに理由が読めんかった。
「とぼけるな」
「は、?」
急に口調がきつくなった東京に困惑した。
困惑する俺を無視して東京は続けた。
「あの時のリーダー会議…忘れたなんて言わせないからな?」
「あ…もしかしてこないだの…?」
俺は確かめるようにゆっくりと答えたんや。
七大都市、すなわち各地方のリーダーが集まるリーダー会議で、俺と東京は意見の食い違いで激しい口論に陥ったわけや。
東京は頷いて、続けた。
「リーダーが団結できないようじゃ、東日本と西日本が団結できるわけないだろ」
俺はつい固まってしまった。しかし、俺は気を持ち直してなんとか反論した。
「そんなことないやろ!!」
東京は肩を揺らす。そして怪訝な表情をした。
「北海道と沖縄、広島と宮城、兵庫と神奈川…あいつらは、俺たちに何があろうと変わらんやろ!それに、皆はそういうやつやない!!」
一息にまくし立てて叫んだ。
東京は肩をすくめた。
「お前は分かってないな」
「え…?」
強い口調に、俺は何も言えなくなった。
「山口と福島」
え?
「あいつらはリーダー同士の対立で西日本と東日本が分裂した戊辰戦争に巻き込まれ、今もなお仲が悪い…だろ?」
…嗚呼…確かに…
…いや、何考えとるんや、俺は…!
「ほら…一瞬、納得しただろ?」
東京が不穏な笑みで尋ねた。
「い、嫌…ちゃう…ッ」
「ほら、解ったんなら武器を持てよ」
そう言う東京の表情は笑っていた。
…それなのに、氷山より冷たく凍りついているようやった。
「今日報告をして明後日にでも襲撃を始める」
そして東京は勝手に言いだした。
「な、何勝手なことを…!俺たちの問題を皆にまで」
「俺たちの問題は皆の問題、じゃないのか?」
東京は、俺の叫びを鋭い声で遮った。
「そうとは言い切れんやろ…!」
俺は東京を睨みつけて言った。
「なあ…大阪、」
今度は東京が、呆けた顔で俺の名を呼んだ。
「ん?」
俺の心臓がやな音を立てて早鐘を打った。
「やられてばかりでいいのか?大切な仲間を失いたいのか?」
東京は、冷たく言い放った。
「守りたいなら武器を取れ」
その時の俺にはもう、冷静に判断する能力などとっくに備わっていなかったんや。
それが災いしたんや…
「……わ、分かった!分かったから!!」
つい口走ってしまったんや。
「戦争に…参加、するで…」
「それでいい、じゃあ大阪…頼んだぞ」
俯く東京。しかし突然に
「もう、二度と…西日本と東日本が“ひとつ”になることはないだろうな」
と口にした。
振り向いたが遅かった。
「じゃあな、大阪」
その時、東京は表情を隠していた。が…
なぜか、暗い声ではなかったことを覚えている…
「…き、兄貴!!」
聞き覚えのある声で、現実に引き戻された。
目の前には家族6人。
兵庫、和歌山、奈良、京都、滋賀、三重。
「あ…」
なおも涙が止まらない俺に、皆が次々と声をかけた。
「どないしはったん?」
京都が尋ねる。
「な、泣かんといてや…」
奈良が心配そうな声で言った。
「なんで謝るんだよ!?」
三重が焦っているのも分かった。
…せやな、まだ言ってなかったな…
……言わへんと……
「…あのな、俺たち……」
…怖い…
これを言ったら、全て…壊れてしまうんやろか…
…でも…これは、俺の責任や…!
「東日本と、戦争することになった」
皆の様子がガラリと変わった。
「なんてこと言いはりますの!?」
京都が柄にもなく叫んだ。
「兄貴…一体どういうことですか」
それとは対照的に、兵庫は静かに尋ねた。
「…東京とな、喧嘩して…意見の食い違いが…戦争に発展したんや」
俺も冷静に言いたかったのに、声が震えてどうしょうもなかった。
「おいおい…二人の喧嘩から皆を巻き込むのはどうなんだ?」
三重の呆れ声が俺の胸を突き刺した。
しかし俺の口からは言い訳が出てしまう。
「俺も…止めようとしたけど……東京が聞く耳を持たんかった…」
本当のことだとしても…最低やな、自分。
それでも涙が止まらない。
息が思わず詰まってしまう。
「…分かったから、落ち着いて」
そう優しくなだめてくれたのは、滋賀だった。
「…うーん…喧嘩の内容次第って感じか?どっちかが悪いっていうか…」
その後に、和歌山がそう口にする。
「せやな…それに…」
俺には後悔していたことがあった。
「…もし…もし俺が素直に謝れとったら…っ!」
皆が固まった。
「戦争なんて、っ…起こらんかったかも、しれへんのに……」
そう、あのときはその状況をなんとかするのに精一杯だったのに、なぜ…謝らなかったのだろう…
「…せやけどな…兄貴、後悔先に立たず、やで!」
明るく振る舞って言ったのは奈良だった。
「…嗚呼…こうなったら、やるしかない」
滋賀は強い決意を込めるように、力強く言った。
「兄貴が全て背負い込むのは、家族のルール違反です、私たちを頼ってください」
兵庫もはっきりと、そう言った。
「……分かったわ、協力するで」
京都は少しの沈黙の後に言った。
「何かあれば俺たちに言ってくれ」
和歌山もそう言ってくれた。
「俺の頭脳に任せろ!大丈夫…俺たちが味方だ」
自信満々でそう言ってくれたのは三重だった。
皆…優しいな…
その優しさでもっと…泣きそうや…
「…すまん…おおきにな…」
俺がそう口にすれば、
「泣かない泣かない!」
と、奈良が慰めてくれた。
結局その後は、中四国と九州への報告が終わるとお開きになった。
皆が寝静まっても、俺はまだ眠れなかった。
そして、考えた。
戦争を受け入れることで皆を守ることになんて、なるはずないのに…
…分かっとったのに…
西日本大将である俺が…皆を傷つけるようなことを…嗚呼、俺は…
…俺は馬鹿で、最低や…!
関東地方 東京都
静かになったリビングを見渡し、ため息を吐く。
皆も大概だ、馬鹿だなあ…と。
家に帰って、戦争になったことを報告し、軽く計画を立てたのはいいが…
埼玉と千葉は、毎度おなじみの喧嘩。
皆はそれを見て呑気そうに笑ってた。
もちろん、その様子が空元気だってことも…気づいていた。
そんな会話も、最後になるかもしれないのに。
無駄になるかもしれないのに。
なぜ皆、真実を見て見ぬふりをするんだろう…
………いや
考える必要はないんだ
何故なら、もうきっと…私たちは
終わりなんだ。
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