何度も何度も、羨ましいと思った。何かに縛られること無く、あの人を愛せる人が。
せめて僕が、あの人と赤の他人だったら、こんなに悩まなくていいのに。
「……はぁ…」
薄い壁を隔てた部屋で、兄さんがゲームをしているのが分かる。多分、いつものメンバーで、動画を撮ってるはずだ。
『あーっ!せんせー…何でぇー…!』
『また俺だけゲームオーバーなんだけどぉ!』
『助けてー…せんせー…』
皆には隠してるけど、僕の目は誤魔化せない。あの二人は付き合ってる。
兄さんが彼を呼ぶ声が、他の人より甘いことも、彼が兄さんに対して少しだけ優しいのも、知ってる。時々、プライベートで通話してるのも聞こえているし、ひとつ屋根の下で暮らしていれば、兄さんの変化にも気付く。
「…………」
隣の部屋の音が聞こえないようにヘッドホンをつける。僕だって兄さんが好きだ。勿論、恋愛感情の方で。でも、それを告げる事は叶わない…兄弟だから。
「…………」
押し寄せる感情の波から逃げるように、パソコンに向かう。どうしようもない感情を向けるのは、画面に表示された真っ白のページ。
『兄弟』という重たい肩書きが無ければ、この想いは告げられたのか?いや、恋人になれないならせめて『兄弟』としてそばに居たい。
「……ああ、またか」
何度も何度も、羨ましいと思った。
兄弟なんて肩書きを持たないあの人が。
僕の知らない兄さんを知っていくあの人が。
決して表に出せないドロドロした感情は、真っ白のページにぶつけて。バケツに入れた白い絵の具で隠してしまおう。
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