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「はぁ、なんかいきなり疲れたわ」
泳ぎ始めて10分もしない内に自分たちのスペースへ戻ってきた優斗と遥。
遥のせいで酷い目に遭ったと彩音に愚痴ろうとして、異変に気づく。
「またベタなお約束展開かよ」
彩音にヘラヘラと笑顔で話しかけている男2人組。
茶髪と金髪の髪に、どちらも耳にはピアスを付けている。
遊び慣れている感が出ている辺り、多分大学生くらいに見える。
男2人組に話しかけられ、困ったようにおろおろする彩音。軽く見ただけで優斗は状況を理解する。ナンパだろうな、と。
自分よりも年上で、体格も良さそうな男2人組。ここで彩音をナンパ男から助ける場面なのは分かってはいる。
分かってはいるが、怖いものは怖い。
全く今日はついてないなと、何度目かのため息を吐いた時だった。
「アンちゃん。さっき溺れた分、これでチャラな」
そう言うと、遥が「うわあああん」と泣きながら、彩音の元へと走っていく。
ナンパをしていた男たちが、唐突に乱入してきた遥に「おおう!?」と狼狽え驚きの声を上げる。
「遥ちゃん。どうしたの!?」
驚いたのはナンパ男達だけではない。泣きながら抱き着いてきた遥に、彩音も驚きの表情を浮かべる。
どうしたのか遥に聞いても、ただ泣きついて来るだけ。となると、自然と彩音は何があったのか優斗の方へと目を向ける。
優斗としても、そんな風に見られたところで、何が何だか分からない。
そして、もっと困惑しているのは、ナンパ男達である。
先ほどまでナンパしていた少女に、突然妹らしき女の子が泣きながら抱き着き、妹らしき女の子と一緒に居た弟らしき少年は、何故か顔に痣を作ってこちらを見ているのだ。
多少でも強引にナンパをしようと考えていた彼らだが、もはやこの状況ではナンパどころではない。
客観的に見て今の状況は、ナンパに失敗して弟君を殴ったようにしか見えないからだ。
「じゃ、じゃあ俺たちはここで……」
このままここに居れば、下手をすれば警察沙汰にだってなりかねない。
そう判断し、そそくさとナンパ男たちは退散していく。
なんで遥が泣いただけでナンパ男たちが逃げ出したのか分からない優斗だが、直前に遥が「これでチャラな」と言っていたので、多分計算した上でやった事だけは理解出来た。
「彩姉、大丈夫だった?」
「えっ、うん。ところで、遥ちゃん何かあったの? というか優斗君、その痣どうしたの!?」
「ん? 痣?」
泣いていたと思った遥はケロっとして「もう行った?」などと笑い、優斗は顔に痣を作って帰って来るわで、もはや彩音の頭が情報が整理する事が出来ずオーバーヒート直前である。
優斗と遥から事の顛末を聞き、「そんな事があったんだ」と笑って話を聞く彩音。流石に遥が波にさらわれて溺れかけたくだりでは顔を青くしたりしていたが。
大丈夫だったと心配するを彩音だが、優斗からすれば、男の自分でもビビるような男2人組にナンパされていた彩音の方が心配である。
「アンちゃん、彩音ちゃん。次は貝殻探ししようぜ!」
「ごめんね遥ちゃん。日焼け止め塗ってからで良いかな?」
「えー、アンちゃんは?」
「俺は疲れたから、少し休憩してからにするわ」
なので、出来る限り彩音を一人にしないように行動を心がける優斗。
(よくよく考えてみれば、彩姉がこの中で最年少なのだから、本来は一番気にしてあげないといけなかったな。普段から姉のように振る舞ってはいるから完全に頭から抜け落ちてた)
彩音が動き出すまでは、自分も絶対に動かないぞという固い意思を胸に、彩音の隣でたいそう座りをする優斗。
そんな優斗の隣で彩音がカバンから日焼け止めオイルを取り出し、腕から胸へ、お腹周り、そして足へと丹念に塗っていく。
ある程度塗り終わった彩音が、「よし」と口にしたのを見て、準備が終わったのだと思い、優斗が立ち上がろうとする。
「優斗君、お願いがあるんだけど良いかな?」
「ん? 何?」
声をかけられ、片膝立ちの状態で動きを止め、優斗は返事をした。
「お姉ちゃんの背中に、日焼け止めのオイル塗って欲しいなぁ」
うつぶせになった彩音が、そう言って優斗を見つめる。その瞳にイタズラ心を灯して。
夏の海で彼女に日焼け止めを塗るイベントといえば定番中の定番。またベタなお約束展開かよと、優斗が心の中で悪態をつく。
「背中って言うか、後ろの方全体かな」
「後ろの方全体って」
「ほら、お尻とかお姉ちゃん自分では上手く濡れないからさぁ」
そんなわけないだろと言いたいところだが、そんな事あるよと食い下がられては堂々巡りになるだけ。
かといって、やったらやったで何を言われるか分からない。まぁ悪い事態にはならないだろうが、からかわれるのは確実。
「そうか。でも男の俺が変なところ触ったら彩姉も嫌じゃないか? そうだ、遥を呼んで来るよ」
先ほど、彩音を一人にはしないと心に決めた固い意思を軽く打ち砕き、優斗が立ち上がり遥を呼びに行こうする。
「ふぅん。遥ちゃんとはお風呂で洗いっこしたのに、お姉ちゃんに日焼け止め塗るのは出来ないんだ」
が、彩音の言葉で、一瞬止まると、その場で腰を下ろす。
まさかの、ここに来てお風呂の件に追及されるとは思っておらず、反応に困る優斗。
とりあえずお風呂に一緒に入りはしたが洗いっこはしていないと言い訳をしてみるも。
「へぇ、遥ちゃんと一緒にお風呂に入ったって話、本当だったんだ」
などと墓穴を掘るばかりである。
正直、彩音は遥の一緒にお風呂に入った話はそこまで間に受けていなかった。
どうせ昔一緒に入ったとか、優斗が風呂に入ってる時にイタズラしに行ったとか、そんなレベルだろうと。
軽くからかうついでに、優斗の言い分を聞くつもりだったのが、まさかの本当に一緒にお風呂に入ってましたのカミングアウト。
想定外の反応に、実際のところ、彩音も困惑状態である。
「えっと、オイル塗りながら詳しい話聞かせて貰って良いかな?」
「……はい」
気まずい雰囲気の中、無言で優斗が日焼け止めを彩音に塗っていく。
丁度その頃。
「なぁ……お前何中?」
遥はナンパされていた。中学生に。