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私、西村なきめは今、秘密機械戦闘部隊という謎の組織のアジトへと案内されている。こうなるに至った原因は、この世界に隠された『秘密』を知ってしまったからだ。


「疲れたあ」

株式会社『ラボラボ』のシステム管理部に今年入社した私は、日々の忙しい業務に追われていた。

「西村さん、この資料もお願いしますね」

彼女は相沢機七子(あいざわきなこ)。同じシステム管理部の頼もしい先輩。黒髪ショートに眼鏡、リクルートスーツに薄化粧、鋭い目つきが特徴的。必ず定時には仕事を終え、新入社員への指導も完璧だ。

「分かりました」

この株式会社『ラボラボ』は生活を支えるロボット作りをスローガンとし、企業向けから一般向けまで様々な形のロボットを開発している。介護ロボ、配達ロボ、お掃除ロボ、家電製品も取り扱っていて、この業界では長年トップに君臨する、歴史の長い会社なのだ。

「では、私はお先に失礼します。残業はほどほどにしてくださいね」

私はまだ仕事が慣れないせいか、最近は残業ばかりだ。相沢先輩はいつも通り定時に帰ってしまった。

「はあ、このままだと今日も残業、急がなきゃ」

トイレの鏡をのぞき込む。茶髪のハーフアップは乱れ、たれ目の下にはクマができていた。大量の資料制作、整理、会社で使われているシステムのメンテナンス……。こんなの新人一人がやる仕事量ではない。この会社は、システム管理部、開発部、経理部、総務部、営業部、人事部の六つの部署に分かられていて、特に私が配属されたシステム管理部は人手が少ない。開発部と営業部には新入社員が多く配属されるのに対し、他の部署は世代交代も虚しいくらいだ。

「結局今日もこんな時間だ……早く帰らないと」


家と会社は歩いていける距離、街灯は少ないが特に困ったことはない。そんないつもの帰り道、カタカタと夜道を動く何かに遭遇した。

「え、何あれ、ロボット……?」

その物体の目、いや、レンズがこちらに向く。きらりと光り、ものすごいスピードで私に突撃してきた。

「きゃあ!」

間一髪で避け、来た道を引き返す。あんな硬いボディにぶつかればひとたまりもない。私は必死に逃げるが、なぜか相手は追ってくる。

「もうなんなの!? って行き止まり?」

やみくもに走った結果、たどり着いたのは壁で塞がれた道。赤い光を放ちながら私ににじり寄ってくるロボットは、アームを大きく振り上げた。

「誰か、助けて……!」

目をつむり覚悟を決めたが、体には何の衝撃もこない。

「え?」

恐る恐る目を開けると、私とロボットの間に、別のロボットが入り込んで攻撃を防いでいた。人型のロボット同士の戦闘が始まり、私を襲ったロボットが吹っ飛ばされてショートした。

「あ、あなたは……」

「ついてきなさい」

助けてくれたロボットが急に喋った。それは聞き覚えのある声だった。

「その声……」

「いいからついてきなさい」

私は言われるがまま謎のロボットについていくことに。たどり着いたのは会社の玄関。『ラボラボ』にはIDカードを機械にかざすか、暗証番号を入力しないと入れない仕組みになっている。ロボットは立ち止まり、暗証番号らしきものを入力している。ただ、明らかにその動きが会社の暗証番号をではないのだ。そう思ったのも束の間、床が下へと動き始めた。

「な、何これ……!」

こんなもの知らない。床はどんどん下へ移動していく。止まった時、もう目の前には知らない景色が広がっていた。


「ここは秘密機械戦闘部隊のアジトです。プレイヤー室に案内します」

聞いたことのない組織だ。そもそもロボットに襲われ、助けられるなんてニュースですら見たことない。扉の前に着くと、ロボットがアームをかざす。

「認証、個体番号K75、確認完了しました」

音声が流れ、扉が開く。部屋には沢山のロボット、沢山の椅子と机、沢山のパソコン、その中の一つの椅子に誰かが座っていた。

「西村なきめさん、災難でしたね。ようこそ、秘密機械戦闘部隊へ」

椅子に座っていたのは相沢先輩だった。いつもとは違う服装で、ぴたっとした革製のスーツに、ヘッドフォンをしている。

「せ、先輩? ここは何ですか。秘密機械戦闘部隊っていったい……」

「今から説明するわ。あなたを襲った正体も、これからお願いすることも、全て話してあげるから」

相沢先輩は丁寧に、一つずつ説明してくれた。


秘密機械戦闘部隊とは、政府公式の秘密部隊で、一般には公開されていない組織だ。世間には存在を隠されている、夜間徘徊する制御不能のロボットの始末を請け負っている。ニュースにはならないものの、被害者は年々増加している。相沢先輩はボスに命令され、私をここまで案内したらしい。

「ボスはあなたを新しい戦闘員として雇いたいと思っているわ。これは命令ではなくお願いよ、嫌なら断ってもいいわ」

「ど、どうして私なんかに……」

「秘密を知ってしまったっていうのもあるけど、最近人手不足なものだから、私以外にも戦闘員は何人かいるけれど、それでも駆除が間に合っていないのよ」

主な仕事内容はロボットを遠隔操作して、制御不能ロボを始末するもの。説明だけ聞けば簡単かもしれないが、操作には身体に影響が出るために、体力が必要となるらしい。

「分かりました。私やってみます。お役に立てるなら、私頑張ります!」

「それは嬉しいわ。早速ボスに報告ね」

私は先輩に連れられ、ボスが待つ部屋へと向かうことに。こんな組織を作るなんて、どんな人なのだろう。怖い人でなければいいのだが。先輩が扉の前の機会にカードをかざす。

「認証、コードネーム『アーク』、確認完了しました」

扉が開き、部屋の奥に人影が見えた。

「ボス、新しい戦闘員、西村なきめを連れてきました」

「よく来たねえ、なきめさん」

そのボスはどこか見覚えのある顔だった。

「社長?!」

「驚かせてしまったようだね。システム管理部所属の新入社員、西村なきめさん」

そう、この組織のボスは株式会社『ラボラボ』の社長、馬場聡(ばばさとし)だった。どうして社長がこんな組織を束ねているのだろうか。

「僕が先代からこの組織を継いでね、実は戦闘員のほとんどは『ラボラボ』の社員なんだ。だから君にも適任かと思って声を掛けたんだが、私の目に狂いはなかったようだ」

「あの、私、お役に立てますでしょうか……」

「大丈夫さ。君の指導は『アーク』に任せよう」

『アーク』は相沢先輩のコードネームだ。戦闘員ごとにコードネームが割り振られていて、どう決められているかはよくわからない。

「ボス、お任せください。必ず一人前の戦闘員に育て上げますので」

「期待しているよ『アーク』。では早速、なきめさんにコードネームを与えよう」

コードネームは社長、いや、ボスが決めているようだ。

「君のコードネームは今日から『ニナ』だ。これからよろしくね『ニナ』」

「は、はい!」

「これが身分証、あとこのアジトに来るための暗証番号も教えておくよ」

色々と手続きを済ませ、再びプレイヤー室へと案内された。


「ここにいる時、戦闘中はお互いコードネームで呼び合うこと、敬称は必要ありません。戦闘員の自覚を持ち、私たちは共に戦う同志であると認識してください」

「はい……!」

「あとは、これを」

アークから渡されたのは鍵だった。

「これは?」

「チャームキーと呼ばれるものです。これをロボットに差し込み、遠隔操作をします。あなたが使うロボットは『N18 』、大型のハサミを持った個体です」

戦闘員が操作するロボットは人によって異なり、アークが扱う個体はチェーンソーを持っている。

「では、指示する通りに差し込んで左に回してみてください。個体から音声が流れるはずです」

私はロボットの背中の鍵穴にチャームキーを差し込み、左に回す。すると言っていた通り、音声が流れだした。

「認証、コードネーム『ニナ』、チャームキーを認識、キーチェンジを発動します」

胴体に取り付けられた黄色いランプが点灯し、ロボットは動いて、レンズをこちらに向けた。

「わあ、本当に動いた」

「感心している場合ではありません。次にパソコンを起動、コントローラーを個体、パソコン、自身の腕の順に接続していきます」

専用のコントローラーとロボットをシンクロさせて通信、黄色いランプが点滅したら接続中の合図だ。

「認証、コントローラー接続、完了しました」

起動したパソコンでソフトウェアを開き、コードを繋いでコントローラーとパソコンを接続。画面に接続完了の文字が表示された。アークは指示を続ける。

「最後に腕にセンサーを取り付けていきます」

コントローラーから伸びた腕輪型コードを装着、これで全ての準備が整った。

「では、実践に移りましょう。まずは個体をアジトから外へ操作します」

感覚的にはゲームのようなものなのかもしれないが、私はあまり家庭用ゲームをしたことがない。慣れない操作のせいで壁にぶつかりまくる。

「これは感覚的な慣れが必要ですので、追々練習ですね。ひとまず外に出ることができたので、次は……」

「おい、そいつ誰だ。新人か?」

背後から声が聞こえた。赤髪のロングヘアー、ギラリと光る猫目に思わずひるんでしまう。

「あなたも出勤でしたね『レッカ』。新しい戦闘員の『ニナ』です」

「『アーク』は相変わらず堅苦しくて虫唾が走る。ウチがお手本見せてやるからついてこい」

レッカはズボンのポケットからおもむろにチャームキーを取り出し、『R08』に差し込んだ。さすがに準備が手慣れている。あっという間に外に出たレッカは、私を連れて住宅街を散策し始めた。

「いた。奴だ」


制御不能ロボットを見つけたレッカは、私をほっといて相手に殴りかかった。『R08』が持っているのはバット、相手を滅多打ちにしていく。ただ、素直にやられるほど相手も弱くはなかった。バットを受け止められ、大きく投げ飛ばされる。

「わ、私も戦わなきゃ……」

代わりにロボットが戦ってるとはいえ、相手に立ち向かうのは怖い。慣れない操作の中で、さらに恐怖が押し寄せてくる。

「お前は何もすんな。ウチの後ろでただ見てろ」

「でも……」

「役立たずに用はねえ、逆に邪魔なんだよ」

早速洗礼を受けた。動きたくても動けない現状、邪魔だと言われる現実。『K75』を操作していたアークが私の隣から動き出した。

「私もお手伝いします。まったく、最近はタフなロボットが増えて困りますね」

「ちっ、久々に本気出すか」

レッカとアークが左右から挟み撃ちで攻撃をかますが、相手は両アームでそれを同時に受け止める。攻撃を弾き返し、反撃してきた。

「そのアーム、危ないですね」

アークがチェーンソーで相手の片アームを切断。

「高性能なレンズだなあ!」

レッカがバットで相手のレンズを破壊。

「す、すごい連携……」

私は見ていることしかできなかった。プレイヤー室でも現場でも、私は指先一つも動いていない。手からにじみ出る汗、モニター越しに伝わる激戦を、息をひそめて眺めるしかなかった。

「これで終わりだ!」

レッカがとどめを刺す。相手のロボットは動かなくなった。

「お疲れ様です。これ以上の機械反応はないみたいですね」

「はあ、ちょっとずつ手ごわくなってんな」

仲良く話す二人をよそに、ボコボコに叩きのめされた制御不能ロボットが、少しずつ動き出しているのを私は見逃さなかった。

「避けてください!」

私は持っていた大型のハサミを思いきりぶん投げた。私の声で瞬時に左右に避けた二人の間を、ハサミがすれすれですり抜け、相手の胴体ど真ん中に突き刺さった。今度こそ完全に停止した。

「あっぶねー」

「咄嗟の判断、お見事ですね『ニナ』」

かろうじて何かの役には立てたみたい。私は相手の胴体からハサミを抜こうとするが、深く刺さっていて抜けない。

「あーあ、こりゃだめだな」

「そうですね、新しいハサミを用意しましょう」

「す、すみません……」

私たちは個体をアジトへと操作、無事にプレイヤー室へと戻ることができた。


「チャームキーは右に回すと解除できます。無くさないよう保管してください」

「新人教育なんて面倒だ、『アーク』頑張れよ」

「言われなくとも、ボスからの命令ですので」

私はそんな会話を聞きながらチャームキーを右に回した。

「認証、チャームキーを解除しました」

私はこれから、秘密機械戦闘部隊の戦闘員、『ニナ』として頑張らなくてはならない。制御不能となったロボットたちを始末するという使命を背負ってしまった。私は、この世界はいったいどうなってしまうのだろうか。

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