美咲と智也が手をつないで帰るようになってから、毎日のように二人は一緒に過ごす時間が増えた。しかし、美咲の心の中には、智也が本当に自分をどう思っているのか、まだ確信が持てていなかった。彼が微笑んでくれるたびに、自分の心が温かくなる一方で、その裏に隠された気持ちに対する不安がどこかに残っていた。
そんなある日の放課後、いつも通りの帰り道を歩いていると、予想もしない出来事が起こった。智也が突然、歩くペースを緩め、真剣な表情で美咲を見つめてきたのだ。
「美咲、ちょっと待って。」
美咲はその瞬間、何かを感じ取った。智也の表情がいつもと違う。普段の軽い感じではなく、どこか緊張した雰囲気をまとっているのがわかった。
「どうしたの?」美咲は不安そうに問いかけた。
智也は深呼吸をして、少し間を置いた後、ゆっくりと口を開いた。「実は、俺、ずっとお前に言いたかったことがあるんだ。」
美咲の心臓がドキドキと速くなる。智也がこんな真剣な顔で何かを話すなんて、予想だにしていなかったから、心の中で少し焦りを感じた。
「え、なに?」
智也は少し黙って考え込んでから、ようやく言葉を発した。「俺、美咲のことが好きだ。ずっと前から、お前が気になって仕方なかった。でも、どうしても告白できなくて…だから、今、こうして言わせてもらっている。」
美咲は驚きすぎて、しばらくその場に立ちすくんでしまった。智也が自分に告白してきたことに、心の準備ができていなかったからだ。彼が好きだと言ってくれることはずっと期待していたけれど、実際にその言葉を耳にした瞬間、実感が湧かず、目の前がぼやけてきた。
「智也くん…」美咲は驚きと戸惑いの入り混じった声で名前を呼ぶ。
智也は少し顔を赤らめながら、再度美咲を見つめた。「本当に、俺はお前のことが好きだ。けど、もしかしたら、俺の気持ちを受け入れてもらえないかもしれないって思うと、怖くて言えなかったんだ。」
美咲はその言葉に胸がいっぱいになり、どこかで涙がこぼれそうになった。でも、その涙をどうしても出すことができず、震える手で何度も顔を拭った。
智也がこんなにも自分に真剣に想いを寄せてくれているなんて、思ってもみなかった。だが、その気持ちを受け入れることができるのか、まだ自分の気持ちが整理できていないことも確かだった。
「智也くん、私も…」美咲はその後の言葉をつなげられなかった。
智也は少し戸惑いながらも、美咲をじっと見つめた。「俺、待つから。お前がどう思うかを、ちゃんと考えてほしい。急がないから、時間をかけて考えてくれ。」
美咲はその優しさに胸が締めつけられる思いだった。智也は自分がどう答えるかを急かすことなく、ただ静かに待っていてくれる。美咲は少しずつ自分の心に問いかけながら、彼の気持ちを受け入れる準備をし始めた。
その後、二人はしばらく歩きながら、沈黙が続いた。美咲は自分の中で答えを出さなければならないと感じていた。智也が自分をどう思っているのか、彼の告白を受け入れるのが怖くても、同時に心の中には温かい気持ちも広がっていた。
「智也くん、ありがとう。」美咲はようやく口を開いた。「私、ちょっと時間をもらってもいいかな?」
智也は驚いた表情を浮かべたが、すぐに優しく頷いた。「もちろん、焦らなくていいよ。お前のペースで考えてくれ。」
美咲はその答えをもらって、心の中で少しほっとした。彼が自分の気持ちに理解を示してくれることが、どれだけ嬉しいことか、それを感じると同時に、もっと彼に対する想いが深まった。
二人はそのまま歩き続け、静かな夕暮れの中で新たな一歩を踏み出す準備をしていた。しかし、これから先、彼らがどのような関係を築いていくのか、その道のりは決して平坦ではないことを、美咲はすでに感じ始めていた。
それでも、今はただ、この瞬間を大切にしたいと思った。
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