智也との関係が日に日に深まっていく中で、美咲の心には幸福な気持ちと同時に、少しの不安が芽生えていた。それは、春菜の表情がだんだんと暗くなっていったからだった。いつも明るく元気な春菜が、最近は美咲と智也のことに対して無意識に距離を取るように見える。
放課後、二人で帰る前に美咲は春菜に声をかけた。「春菜、最近元気ないね。なんだか、少し心配だよ。」
春菜は少し驚いたように美咲を見つめ、笑顔を作ろうとしたが、どこかぎこちなく感じた。「大丈夫だよ、みさきちゃん。そんな気にしなくても。」
でも、美咲はその微妙な違和感を感じ取っていた。春菜は昔から自分の一番の親友であり、どんな小さなことでも気づいてくれる存在だったからこそ、その変化に気づかなかった自分が少し情けなく思えた。
「春菜、本当に大丈夫?」美咲はさらに踏み込んだ。心配そうに春菜の顔を覗き込みながら、優しく問いかけた。
春菜は一瞬、目を伏せた。そして、少しだけ息を呑んだ。「うん、ほんとに、大丈夫。」
でもその言葉に、どこか無理があったことは美咲にもわかった。それでも、春菜がそんな風に言うなら、無理に聞くこともできなかった。美咲はそのまま話題を変え、智也とのことについて少し話した。
「最近、智也くんとの関係が少し進展したんだ。」美咲は少し照れながら、春菜に話す。
春菜は微笑んで「それはよかったね」と言ったが、その笑顔はどこか作り笑いのように見えた。美咲はまた、その微妙な違和感に気づく。
帰り道、二人で並んで歩いていたとき、美咲はふと春菜に向かって言った。「春菜、無理しないでね。もし何かあったら、私に言ってほしい。」
春菜はしばらく黙っていたが、やがて小さな声で答えた。「ありがとう。みさきちゃん。」
その瞬間、美咲は春菜の目の奥に、何かを隠し持っているような気配を感じた。それは、これまで見たことのない感情だった。美咲はそのことに気づいているのに、どうしてもそれを言葉にすることができなかった。
その後、智也と一緒に帰ることになり、春菜は一人で帰ることになった。その日の夜、美咲はふと春菜のことを考えながら、自分の部屋に座っていた。春菜が隠しているものは何なのだろう? 自分と智也のことに対して、あんなにも悲しそうな顔をしている理由が、どうしてもわからなかった。
そのとき、美咲は気づいた。春菜が本当はどれほど自分の気持ちを隠しているのか。それが自分には理解できないほど深いことなのだと。そして、そのことが、春菜にとってどれだけつらいことなのかも、感じ取ることができた。
「春菜、ごめんね。」美咲は静かに呟いた。自分が智也と近づくことで、春菜を傷つけてしまっていることに気づき、心が痛んだ。けれど、それでも智也への気持ちは止められなかった。
その日、美咲は春菜に何も言えなかった。彼女が抱えている心の葛藤に、自分がどう向き合うべきか、それすらもわからなかった。美咲の中で、智也への気持ちが強くなっていく一方で、春菜への思いやりも深まっていく。二人の間に挟まれた美咲の心は、どんどん複雑になっていった。
一方、春菜はその日、美咲と智也の関係を見守りながらも、自分の中に秘めた感情がどんどん膨らんでいくのを感じていた。智也に対する気持ちが、いつからか友情を超えて、恋愛感情へと変わっていたのだ。しかし、その想いは美咲との友情を壊すことになるのではないかという恐れに繋がっていた。
春菜はもう、自分の気持ちを隠しておくことができなくなる日が近づいていることを感じていた。
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