涼ちゃん視点
r「わぁ…!」
ビルのエントランスから一歩外に出ると、ふと一つの光が目に止まる。
きれいな満月だった。
今日は、夕方から今度ソロで出ることになった朝の情報番組の打ち合わせがあった。
打ち合わせは思ったより長引いて、すっかり夜になってしまった。
きっと外は寒いんだろうなぁ、と少しこれから帰るのが億劫になっていたけれど、きれいな満月に心が踊る。
どの月も綺麗だけれど、やっぱり満月は一際目を引くなぁ、と一人で感心する。
少しの間、その鮮烈な光に見惚れていると、ポケットからバイブ音がした。
r「あ、」
若井からだった。
ちょうどあっちも仕事が終わったらしい。
今から、一緒にご飯を食べに行かないかというお誘いとともに、ご飯屋さんの位置情報が送られてきた。
r「ふふ、」
まるで行くことが決定しているかのようなラインの内容に思わず笑みが溢れる。
まあ結局、若井の予想通り行くのだけれど。
二つ返事でラインを返すと、僕は足早に送られてきた目的地へと向かった。
w「あ、おつかれ〜!」
目的地の場所に着くと、そのすぐそばでぶんぶんと元気に手を振っている若井の姿が見えた。
もう夜だというのに、それを感じさせない動作に少しびっくりしてしまう。
r「わかいもおつかれさまぁ〜」
外は何せ寒いので、早く中に入ろうと駆け寄ると、ふっと若井が微笑む。
あ、かっこいいな。
ふいにそう思ってしまう。
僕は慌てて照れを隠すように、足早にお店の中へ入って行った。
w「おれ、ビールにしよ。りょーちゃんは?」
席についたら、早速メニューに目を通す。
今日はバタバタとしていて、お昼を食べる時間もなかったからとてもお腹が空いている。
r「ぼくもおなじのぉ〜」
w「おっけー」
w「あっおれ、これとこれとぉ、あ、これも!」
r「ふふ、めっちゃ食べるね笑」
若井も忙しくてお昼を抜いてしまったらしく、お腹が空いてるらしい。
僕たちは今日あったことを話しながら、次々とご飯を食べていった。
r「あ、そういえばさ。今日、満月なの。見た?」
ふいに思い出して聞いてみる。
w「あ、ほんと?意識してなかったや」
r「みてみて、あとで。きれいだから」
僕は、人匙の好意を混ぜるようにそう言う。
w「うん。…なんか、涼ちゃんって時々ちょっと文学チックになる時あるよね笑」
けらけらと笑いながら、少しおかしそうにする。
いっそのこと、僕の”すき”もちょっとは伝わっていたらいいのに。
r「そーお?なんでだろぉ」
w「あ、それで言うとさ。一月の満月ってなんて言うか知ってる?」
r「ううん。なんていうの?」
w「ウルフムーン。真冬にお腹空かせた狼が、遠吠えするからそう言うんだって〜」
そして、少しおちょくるような声のトーンで言う。
w「おれもお腹ぺこぺこだから、りょーちゃんのこと食べちゃうかもよ?笑」
吠える狼の真似をしながら僕をからかう。
r「えー笑やだぁ笑食べてもおいしくないよ?」
w「いや、そこ?笑食べられるのはいいんだ笑」
r「…右腕くらいなら?左利きだしね笑」
若井に合わせるように僕も冗談めかして言う。
食べて欲しいのは、ほんとうだけどね。
r「ほら、わかい。そろそろお店出よ?」
w「んぅ、んん…」
なんとなく分かってはいたが、案の定お酒の弱い若井はビール一杯ですっかり酔っ払ってしまった。
まだ足元の覚束ない若井の体を支えながらお店を後にする。
外に出ると、より一層冷え込んだ空気が頬を撫でて、僕は身震いをする。
若井も寒いのか無意識にすりすりと体を寄せてくる。
少しくすぐったくなりながら、空を見上げる。
空気が澄んでいるからか、やっぱり満月がより一層綺麗に見える。
何度見ても良いものは良い。
w「月、きれぇー」
冷え込んだ外気に晒されて目が覚めたのか呂律の回り切らない声で言う。
r「でしょ。」
僕は、少し得意げに言う。
w「あ、りょーちゃんりょーちゃん。」
しばらく歩いていると、若井が何か思い出したような仕草をする。
w「がおぉー!笑」
そう言って狼の真似をすると今度は、食べちゃうぞぉーっと僕のことを抱きしめてくる。
突然の出来事に、狼ってそんな吠え方するかな、とか考えられないくらいにはびっくりしてしまって、思わず体を硬直させる。
r「わぁー、食べられちゃったなぁって、、苦しい苦しい若井っ」
意外と力が強いから離すこともできなくて、困ってしまう。
ドキドキと鼓動が高鳴るのを感じる。
聞こえてしまってるんじゃないかとひやひやする。
いっそ、聞いてほしいようなまだバレたくないような複雑な気持ちになる。
僕は、少しの期待を混ぜるようにして言う。
r「…ほんとに食べてもいいんだよ?」
ひっそりとつぶやく。
どうせ、酔っ払ってるから。
次の日には大抵のことは忘れてしまうんだから。
これくらいは許されるだろう。
そんな言い訳を、誰に言うでもなく並べる。
凍てつくような寒さと、触れれば届きそうなほどに鮮烈な月が、心の寂しさを増幅させる。
しばらく抱き締めていた若井の動きがピタッと止まる。
r「わ、わかい?」
w「…いま、りょうちゃん。」
僕を見上げた若井とぱちっと目が合う。
急に酔いが醒めたような顔で、僕を見つめると、どこか確信したような口調で話しかけられる。
w「…ねぇ、もしかしなくても、りょうちゃん。…俺のこと好きなの?」
r「ぇ、んぇ?//ど、どうかな、、?」
r「も、もちろんすきだよ、友達としてね」
心臓がうるさい。
どうせいつもの調子で聞いてなどいないと思っていたのに。
どうにか抑えようとするけれど、頬は熱を増すばかりでちゃんと隠せている気がしない。
w「ともだちとして…、ね。」
そして再び強く抱きしめられると、僕の耳に若井の唇が触れそうなほどに近づく。
w「…りょうちゃん、嘘つき。笑」
r「っへ//いや、なにいっ、んぅ//」
ぽかんと空いた唇を塞がれる。
突然の出来事に頭が追いつかないまま、なす術なく絆されていく。
r「ん、んぁ//ん”ん、んぅ、ふぁ♡」
両耳を手で覆われているせいで、水音が頭に響く。
ぴちゃ、ぴちゃ、くちゅ
唇を食むようにして濡らされながら、ぬろっと若井の舌が隙間に入り込んでくる。
歯列をなぞられたり、上顎をすりすりとくすぐられたりしながら口内を犯されていく。
r「ん、んぅ、あッ♡ん”ん、んぁ//んぅ、」
r「んぁ、あッ、んぅ//ん”んー♡ぁ、ん//」
息を吸う間もなく、だんだんと身体が痺れるような甘さを感じる。
頭がふわふわとして、気持ちよさのあまり目からは涙が滲む。
r「ッんもぉ、//わかぃ、♡んぅ、らめぇ//」
ようやく唇を離されると、お互いを結ぶように銀の糸が引かれる。
w「…ねぇ、だめじゃないでしょ?」
おでこを突き合わせるようにして、若井が僕の目をじっと見つめる。
僕の頬を、まるで陶器でも触るみたいに優しく包んで言う。
w「おれ、…りょうちゃんのこと好きだったよ、ずっと。」
r「へ、//」
きっと、今までで一番間抜けな声が出ていたに違いない。
月の光が、優しく僕らを包む。
さっきまで鮮烈な光を放っていたそれの輪郭は、涙のせいで朧げになっていた。
w「…ねぇ、りょうちゃんは?」
急に若井の声がしおらしくなり、縋るような声で僕の名前を呼ぶ。
w「おれのこと、すき?」
僕のことを見つめる瞳に思わず心を奪われる。
こんなこと言われたら、もう誤魔化しも嘘も効かない。
r「…すきッ、わかいのこと。ずっと、まえから//」
w「今日、家きてよ。…意味ならわかるでしょ?」
僕は、少し照れを隠すように頷いて、若井の手を握る。
溺れてしまいそうなほどの高揚感が、僕の胸を再び高鳴らせた。
w「もう、離さないからね。」
…やっぱり、かっこいいな。
若井が、ついさっきまで酔っていたことなんてすっかり忘れて、気がつけば、僕は少し含みのあるその微笑みにすっかり魅了されていた。
コメント
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最高すぎます……😭 エピソードしっかりしてて尊敬…🥹