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「この間、四人で出かけたゴーカート場です」
「ということは、相手は佐々木さんだな」
宮本をじっと見つめた、尊敬を含む佐々木のまなざしを思い出す。サーキット場で自分よりも速く走ることのできる宮本に憧れているうちに、それが恋心に変わることは容易に想像ついた。
あの四人の中で、一番おっとりしているように見えたのに、実際は鮮やかなドライビングテクニックで他を圧倒、サーキット場にいる者すべてを魅了した宮本を橋本は思い出す。
(俺のインプを鮮やかに運転する雅輝に憧れた結果、そういう関係になった俺だから、気持ちが痛いくらいにわかっちまう)
「和臣の職場の近くに、ゴーカート場があるでしょ。先週の火曜日と金曜日にデコトラを駐車場で見かけたって、さっきもメッセージがあって」
本日は火曜日。それでわざわざ榊に、和臣がメッセージを打ち込んだのだろう。一度ならず二度三度、同じ場所でデコトラを見かけたら普通じゃないことくらい、誰にでもわかる。
「俺に黙って、アイツはなにをしてるんだろうな……」
「真面目な宮本さんは、橋本さんを裏切ることをする人じゃないですって」
「そんなの、おまえに言われなくてもわかってる!」
声を荒らげたが、運転にはそれを出さぬように、ぎゅっとハンドルを握りしめた。あと少しで、榊の住むマンションに到着する。
「和臣のヤツ、今日は残業したみたいで、さっき帰ってきたそうなんです。自分の会社よりも早く営業が終わってるのに、デコトラが駐車場に停まっていて、ゴーカートのお店はまだ電気がついていたって――」
「つっ!」
まだマンション前じゃないのに、思わずブレーキを踏んでしまった。
とっくに営業時間が終わってるサーキット場で、誰もいないことをいいことに、よからぬことをしている可能性がゼロではない。宮本が襲われているかもしれない現実に、橋本の呼吸が勝手に乱れた。
走ること以外は、からっきしダメな宮本の緊急事態に、全身から冷や汗が滲み出る。
「橋本さん、大丈夫ですか?」
「あっ、すまない。こんなところで停まっちまって」
「俺ここで降りますので、宮本さんのもとへ向かってください!」
「恭介……」
運転席から振り返ると、榊はドアを開けて外に出るところだった。素早い身のこなしに内心感謝しながら、橋本は微笑みかける。
「恭介いろいろサンキューな! いつか埋め合わせするから」
「それじゃあまた、四人でどこかに出かけましょう! 和臣が一緒に出かけたら、それぞれがカモフラージュになって、イチャイチャできるなんて言ったんです。またダブルデートしたいよねって、嬉しそうに強請られたところで」
「和臣くんが……」
「お互い仕事を抱える身ですので、なかなかスケジュールが合わないかもですけど、よろしくお願いしますね!」
珍しく念押しした榊は勢いよくドアを閉めて、走ってマンションに向かう。それはまるで、橋本の急く気持ちを表すかのような行動に見えた。
「こんなところで、恭介に感謝してる場合じゃねぇだろ。急いで雅輝のところに向かわなきゃ!」
ギアはドライブのままだったので、ぐんとアクセルを踏みしめた。らしくないアクセルワークに、黒塗りのハイヤーからスキール音が鳴る。
左右の確認を素早くし、その勢いを使って対向車線にUターンした。宮本のように綺麗な半円を描くことができなかったが、一秒でも早く駆けつけたい想いが、橋本の運転に表れる。
汗で滲んだ白手袋をそのままに、ハンドルをぎゅっと握りしめて、山奥にあるサーキット場に向かったのだった。