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街中とは対照的に、しんと静まり返るサーキット場周辺。橋本は宮本のデコトラの隣に沿うように、黒塗りのハイヤーを停めた。エンジンを切って運転席から降りたつと、ゴーカートを走らせる音が耳に聞こえる。
「数台走ってるんじゃないな、一台のみか……」
その場で目を閉じ、ゴーカートのエンジン音を改めて確かめてみた。アクセルのオンオフのタイミングや癖などを、そこから探してみる。
(たぶん、雅輝が走ってる感じじゃない。アクセルをオンにしたときの加減に、荒々しさがある)
橋本は目を開けながらゴーカートが走行しているサーキット場に、颯爽と足を進ませた。煌々と灯りの点る場所に導かれるように近づくと、見慣れた横顔が目に留まる。
タブレットを片手に、真剣なまなざしでそれを見つめる恋人の姿を目の当たりにして、どっと安堵した。宮本が襲われてなくて、本当に良かったと思わずにはいられない。
靴音をたてないように背後から宮本に近づき、右腕を大きく振りかぶって、後頭部を思いっきり叩いてやった。
バコンっ!(☆_@;)☆ \(`-´メ)
「いった~……」
宮本はタブレットを持っていない手で、橋本に叩かれたところを撫で擦りながら、怖々と振り返った。自分の背後に立ちつくす橋本の存在を認識した途端に、目を見開いて息を飲み、肩を竦めながら強ばる。
「雅輝、こんなところで、なにやってんだよ?」
「…………よよよよよ陽さんっ!?」
「とっとと答えろ。なにしてるのか聞いてんだぞ、このクソガキ!」
わざと怒ったふうを装った橋本の演技に、まんまと騙された宮本は震えあがり、タブレットを胸に抱きしめたまま、じりじり後退りした。
「あ、あわわわっ!」
「狼狽えるようなことを、ここでしていたのかよ?」
「してないしてない! いたって真面目に、佐々木くんの走りをここで見てただけ!」
橋本が一歩近づくと宮本が三歩退るので、当然距離は縮まらない。どんどん開いていくばかりだった。
「雅輝が言ったとおりに、真面目に走りを見ていただけなら、どうして俺から逃げるんだ? やましいことをしていないっていうのに!」
「だって陽さんの顔が怖くて…むぅ」
退いていた宮本の足が、不意に止まった。橋本としては近づきたかったが、宮本の動きに合わせて進んでいた足を止める。この微妙な距離感こそが、不器用なふたりの間柄を示しているように、橋本は感じてしまった。
「雅輝さん!」
橋本の後方から、宮本の名前を呼んだ佐々木が、息を切らしながら走ってやって来た。
(雅輝さん、だと!? なんで親しげに、下の名前で呼んでるんだ?)
自分に近寄った佐々木を、橋本は思わずまじまじと見つめてしまった。
「橋本さん、こんばんは」
「こんばんは……いきなり来てしまって、驚かせたみたいで、その――」
「雅輝さんを責めないでください。僕が頼んだんです。ここに来てることを橋本さんが知ったら、ヤキモチを妬くだろうからって。すみませんでした!」
「ぶっ!」
橋本に頭を下げながら説明した佐々木に、吹き出さずにはいられなかった。