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「矢代チーフ、すいません、気づかなくて。お呼びでしたか?」
「うん、集中していたところに悪いが、この案件の進捗状況を教えてもらえるか」
チーフは掛けているアンダーフレームのメガネのブリッジをしなやかな指先で押し上げると、手にしたファイルを開き、私の目線の高さに合わせて見せた。
「ああ、その案件でしたら、クライアントさんと、来週の頭にも再度お話を詰めることになっています」
メーカーさんから請け負っているPRグッズの構成案に、自らも目を落として、そう説明をした。
「そうか。先方との折り合いがまだ上手くついていないのか?」
「あっ、はい。先様のチェックが多くてなかなか進まずに、ちょっと停滞をしてしまっていて」
わざわざ進み具合を聞きに来られたのも、きっと完璧主義な矢代チーフのことだから、スケジュールが思うように進行していないことを気にしているからだろうと思える。
すると、「ああ」と、矢代チーフが頷いて、「あそこは、結構細かいところがあるんで、こちらで上手く波に乗せて進めて行かないと、滞りがちになるからな。僕は何度か渡り合っていて向こうの落としどころは把握しているから、よければ次回にはサポートで付いて行くが?」そう話した。
てっきりお咎めを受けるのかもしれないと思っていた私は、まさかのフォローに「ありがとうございます。よろしくお願いします!」と、喜んで頭を下げた。
「じゃあ打ち合わせの日時は、確認次第また教えてほしい」
「はい!」と、応えると、「ああ、よろしく頼む」と、肩を軽く叩かれた。
絶妙なフォローに、外見もだけれど仕事の進め方までクールで、さすがだなと感心しきりで、私もああなりたいなと矢代チーフへの憧れをより募らせたのは、言うまでもなかった。