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魅了の魔女と皆の王子様

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魅了の魔女と皆の王子様

10 - 王子様はいい性格

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2025年02月19日

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「…事情はわかりました」

声に釣られて顔を上げるとフランチェスカは一瞬迷う様に視線を彷徨わせたが、やがて一呼吸置いてから更に言葉を続けた。

「けれど私も王族の一人、そう容易く力を貸す訳にはいきません。…例え私がどれ程力になりたいと願っていようと、です」

その言葉に、その表情に、張り詰めていた緊張の糸がふつりと切れ、代わりに心臓が嫌な音を立て脈動を始める。浅い呼吸を繰り返しながら、脳裏に貼り付く自分の酷い驕りに顔に熱が集まっていくのを感じた。

だって、こいつなら、きっと助けてくれると_

「ですので」

凛と響いたその声に、止め処なく廻り続ける思考が断ち切られた。

「ですので、私が介入しを得ない様な事情を教えてください」

なければ、今ここで作ってください。

意地の悪い笑みを浮かべたフランチェスカは、鋭利な輝きを秘めた宝石のように美しかった。対して俺は、それはまぁ随分な間抜け面を晒していたものだと思う。

「…あんた、存外いい性格してるな」

「ありがとうございます」

やはり貴族とは相容れない。

視線は外さぬまま、指先で古びた机をカリカリ引っ掻く。引く様子のない強い眼差しに負け、重たい口の隙間からため息が一つ溢れた。

「聞いてて気分のいい話じゃねぇぞ」

「…百も承知です」

これから話すのは、その場しのぎのためのでっち上げなんかじゃない。本当で本物、だからこそ言いづらい。…それでも。

「よく聞けよ。これは俺なりの誠意だ」


北の国、アダマス。こんこんと降り注ぐ雪と、繊細な銀細工が特徴的な国。

一面に広がる銀景色…といえば聞こえはいいが、貧しい者達にとってあの降り積もる白雪は悪魔以外の何物でもなかった。耐え難い程の寒さと飢えは、時に人々から人間らしさをも奪う。

俺は五つの時に捨てられた。

それも教会の前でも何でもない、ただの広い広い森の中に。普通ならばそのまま息絶える運命だったのだろうが、そこで俺は不運にも幸運にも、一人の男に拾われた。

その男の名はレオンス=オブシウス。

黒い森…オブシウスの魔術師。それが男の呼び名だった。

あいつは名前もなかった俺に”オルタ”という名前をつけ、師匠気取りで俺をまるで弟子の様に扱った。…この胸の刻印も、拾われてすぐにつけられた。

「これはオルタのためのお守りだよ」

なんて、よくもまぁ白々しく抜かせたもんだ。

これはババアが教えてくれて後で分かったことなのだが、この頃には既に魔力器官や簡易結界の魔法陣が組み込まれていた。にも関わらず、どうも術式は理路整然としていたらしい。それが崩れてここまで式がこんがらがったのは、滅茶苦茶で支離滅裂な上書きのせいだという。

何故だったか…ある日あいつがひどく怒って、無理矢理式を書き加えられたことがある。随分ぼやけた記憶ではあるが、おそらくそれのせいだろう。この日のことを思い出せたら、 何かしら解呪の鍵になるかもしれないんだが…そこまでして忘れたことを思い出すというのも正直怖い。

話が逸れたな。

愚かしくもあいつを師と仰いでいた俺は、しかしその一件から猜疑心を持つようになった。それも強く。それで、密かにこの術式を解こうと動き出した訳だ。まぁ、ズブの素人には位置探知の式を解くのでいっぱいいっぱいだったがな。

あいつが気付いていたかは分からない。けれど、事態は流れるままに悪化した。

………その、すごく言いづらいんだが…

初めて吐精した時に、襲われかけた。

大人の男ってのは力が強い。そんな当たり前のことが、その時初めて分かった。…情けない話、今でも男に触れるとフラッシュバックする。抵抗もできない、気持ち悪くて仕方がないあの瞬間。

初めて出た俺の魔法は、ナイフの形もとれていない様な歪な鉄の塊だった。あいつの左目を深く深く切り裂いて、どろりと溶けて消えた。それきり俺の魔法を見たことはない。

傷に手を当てて崩れ落ちる男を見て、俺は慌てて一つの薬を掴んでそこから逃げ出した。だって、あいつはそんなことぐらいで死ぬ奴なんかじゃないと分かっていたから。ある種信頼じみたその確信に理由なんてものはない。忌々しくも八年近くを共に過ごした故の勘だ。

雪に囲まれた森を一心不乱に走り回り、空色の薬を飲み干して、やがて力尽きて倒れ込んだ。言ってしまえば、この薬というのは瞬間移動薬のことであり、気を失った俺が飛んだ先というのがアメシスの森だったという訳だ。


「そこからは先はババアに拾われ、刻印を解析してもらい、魔呪術のあれこれを教わり…ババアが死んだ今は、森の呪術師を継承しながら解呪研究を行っているって所だ。ほい、事情終わり」

思いの外長くなったために無理矢理話を締めくくると、それまで静かに耳を傾け続けていたフランチェスカがおもむろに口を開いた。

「お話していただいた手前大変申し訳ございませんが、禁呪の使用は世界の禁忌。五国が内の一国を治める一族として、元々無視することはできません。ですので、解呪には全面的に協力させていただきます」

時間が止まった。

声が出ない俺に対し、困ったような笑顔を浮かべて彼女は言葉を重ねた。

「こうでもしないと、事情を話していただけないかな…と思いまして」

様々な感情が一気に氾濫して体の中を暴れ回る。溢れ出る言いたいこと達を宥めすかして、震える声でなんとか一言振り絞った。

「…あんた、本当にいい性格してるぜ」

「ありがとうございます」

手が出なかっただけ褒めてほしい。

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