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コンコンコン、コンコンコン
「――……ふみゅ」
朝、私はノックの音で目が覚めた。
部屋の時計を見てみれば、時間はまだ6時。起きるにはもう少し時間があるところだけど――
少し寝ぼけながらドアを開けると、そこにはクラリスさんが立っていた。
「……お休みのところ申し訳ございません。
お城から遣いの方が見えられまして、アイナ様に取り次ぐ様に、と……」
「え、お城から? ……もしかして調達局の人?」
こんな朝早くから、何か依頼でも持ってきたのかな?
それにしても、さすがにこの時間は非常識というか――
「いえ、それが違いまして……。
保安局のディートリヒ様……と、名乗られていました」
保安局……?
ディートリヒ……?
……申し訳ないけど、どちらも初耳だ。
「分かった、私が出るね。
……出るけど、さすがに着替える時間はくれるよね?」
私は苦笑いをしながらクラリスさんに聞いてみた。
何せ、今まで寝ていたのだ。当然のことながら私はパジャマ姿だし、これから身支度をしなくてはいけない。
「はい、30分ほどは問題ないとのことでした。
……それと、エミリアさんとルークさんにも取り次ぐ様に言われておりまして……」
「えぇ? ……何でまた?」
「申し訳ございません、私には分かりかねます……」
「そ、そうだよね。ごめん。
それじゃ準備するから、二人にも声を掛けてもらえる?」
「かしこまりました。それでは失礼いたします」
クラリスさんはお辞儀をすると、急いでエミリアさんの部屋に走っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
出来るだけの身支度を終えて1階に行くと、既に身支度を終えていたエミリアさんと、修練から戻ってきたであろうルークが階段の下で話をしていた。
「おはよー」
「アイナさん、おはようございます。……朝から突然、何でしょうね?」
「アイナ様、おはようございます。こんな時間に、失礼にも程があります……」
二人はそれぞれ、突然の取り次ぎに疑念を持っているようだ。
それはもちろん、私も例外ではない。
軽く話をしていると、クラリスさんが玄関の方から駆け寄ってきた。
「――アイナ様。保安局の方は、外でお待ちです」
「え? 客室には通さなかったの?」
「はい、外で待つと仰られまして……。
……それに、あの……連れている人数も多くて……」
クラリスさんは心配そうな顔で、少したどたどしく教えてくれた。
彼女にしては、珍しく動揺をしているようだ。
「人数が多い……?
まぁ、とりあえず出ちゃうね」
「あ、アイナ様――」
玄関の扉を開けてみると、そこには――
いかにも軍人といった、貫録のある壮年の男性を筆頭に、その後ろには兵士が10人ほど立っていた。
この集団のリーダーは、どう見ても壮年の男性だろう。
「……おはようございます。
私がこの屋敷の主、アイナ・バートランド・クリスティアです」
「貴女がアイナ殿か。お初にお目に掛かる。
私はヴェルダクレス王国軍保安局、ディートリヒ・カミル・アーレンスである」
「ご丁寧にありがとうございます。
……それで、ご用件は何でしょう?」
私がそう聞くと、ディートリヒさんは私の後ろ――ルークとエミリアさんの姿を確認してから、軽く頷いた。
そして手に持っていた立派な筒から紙を出して、それを広げながら私に突き付けてきた。
「――登城命令!!
アイナ・バートランド・クリスティア――
並びにルーク・ノヴァス・スプリングフィールド、エミリア・リデル・エインズワース!
貴殿ら三名の身柄を拘束する!!」
「は……?」
登城命令……? 身柄を拘束……?
理解が及ばず怯んだ隙に、ルークが一歩、前に歩み出た。
「こちらの命令書の、署名はどなたですか?」
「ヴェルダクレス王国、国王陛下! ハインライン17世である!
1時間以内に準備を整え、我らと共に来るように!
なお、外部との連絡はこれより不可とさせて頂く!」
ディートリヒさんの大声の中、ルークは命令書とやらをしっかりと読んでいた。
そしてしばらくすると、私のところに戻って来て――
「……アイナ様、あの命令書は本物のようです。
法的拘束力を以って、私たちは彼らに付いていかなければいけません」
「えぇ……?
来いと言われれば行くのに……。何よ、それ……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――アイナ様、いかがでしたか……?」
お屋敷の中に戻ると、クラリスさんが心配そうに声を掛けてきた。
いつの間にかメイドのみんなもいるし、警備メンバーもディアドラさんとレオボルトさんの二人がいた。
「よく分からないんだけど、私たち三人に登城命令が出たみたい……。
……そういう命令って、あるものなんだよね?」
それが一般的なものかは分からないけど、ひとまず私たちには出ているのだ。
あるかないかで言えば、しっかりあるものなのだろう。
「それにしても、何でわたしとルークさんまで……?
アイナさんだけだったら、錬金術の件かなって思うんですけど……」
「確かに……」
私と、その仲間たち――
どう考えても、その関係しか出てこない。他の繋がりなんて、特には無いのだから。
「……アイナ様、お屋敷のまわりにも兵士が散らばっているようです。
変な真似はさせない、と言うことでしょうか……」
ディアドラさんは念のため……といった感じで、彼女にしては小さい声で教えてくれた。
変な真似……。逃走とか、かな……?
「うーん……。私たち、別に悪いことはしてないよね……?」
『悪い』と言われても仕方が無いのは、グランベル公爵に『意識昏睡ポーション』を盛ったことくらいだろうか。
実際にこれがバレたら、牢屋に直行かもしれないけど――
――……え? もしかして、それ?
いやいや、ファーディナンドさんが密告するなんて考え……たくは無いし、確認しようにもジェラードは王都を離れているし――
「大丈夫です!
きっと王様が、育毛剤とかをこっそり欲しがっているんですよ!」
こんなときにも関わらず、エミリアさんはおちゃらけてそんなことを言い始めた。
……いや、こんなときだからこそ、そんなことを言ってくれたのだろう。
「アイナ様、何かあっても私がお護りしますので……」
ルークは静かに、力強く言ってくれた。
急な出来事に不安は不安だけど、この二人がいるのだから、私はきっと大丈夫だ。
となれば、私は――
「――みんな、不安にさせちゃってごめんね。
よく分からないけど、登城命令が出たので今日はお城に行ってきます。
……クラリスさんとディアドラさん、いつも通りみんなをまとめておいてね」
「はい……」
「かしこまりました」
「……あ、そうそう。誰か、テレーゼさんに伝言をお願いできる?
今日は一緒にご飯を食べられないけど、明日また行く……って」
「分かりました、それは私が……!」
そう言ってくれたのはキャスリーンさんだった。
「うん、ありがとう。よろしくお願いね」
この場に集まった中で、キャスリーンさんが一番不安そうな顔をしていた。
見ているだけで、可哀想になってしまうほどだ。……少しでも安心してもらうために、私は思いっきりの笑顔を彼女に見せてあげた。
――……心臓の鼓動がやけにうるさい。
大丈夫、大丈夫だ。
悪いことは、1つしかやっていないんだから。
……っていうか、それも自衛のためだし?
後悔することなんて、何も無い。だから私は、堂々とお城に行ってやろう。
いや、まぁ……実際のところは悪い話じゃなくて、良い話かもしれないし……ね?
……いや、そんなことは……無い、かなぁ……。