楽屋に差し込む夕暮れの光。
レコーディングを終えて、スタッフたちが退出したあと、部屋には若井と藤澤だけが残っていた。
「なぁ、若井」
藤澤が小さく笑みを浮かべながら言う。
「ピアス穴、もっと開けてみる?」
唐突すぎる提案に、若井は一瞬耳を疑った。
「……は?お前、何言ってんだよ」
「俺、ついこないだ軟骨に何個か開けたんだよ。若井も欲しかっただろ?お揃いにしようよ」
軽い調子で言うその目は、でもどこか本気だった。
胸の奥で、何かが小さくはじけた気がする。
(お揃い……か。)
⸻
アルコール消毒とピアッサーを準備する。
彼の真剣な眼差しに、若井は思わず背筋を伸ばす。
「……ほんとに、やるんだな」
「怖い?大丈夫だよ、俺が開けてやるから」
少し震える手を見透かすように、藤澤はふっと笑った。
「緊張してる?……かわいいな」
「……うるせぇ」
口では強がりながらも、胸は早鐘を打っている。
位置を確認しようと顔を近づけた藤澤は、不意に若井の耳へ舌を這わせた。
「っ、お前……!何して……!」
「ふふ、だって……ここ、触れたくなったから」
ゾクリと背筋に電流が走る。
ピアス穴を開ける前の、無防備な耳。
舌の温もりに、若井は喉の奥から熱い息を吐き出す。
「はぁ、っ……やめろ、そんなことしたら……止まんなくなる」
「止まらなくてもいいよ?」
囁くような声に、心臓が跳ね上がる。
若井は必死に理性を繋ぎ止め、藤澤の肩を押した。
「……今は駄目だ。先に、開けてくれ」
「わかった」
アルコールを染み込ませた綿で、藤澤が若井の軟骨部分を丁寧に拭う。
消毒液の冷たさに、若井は思わず肩をすくめた。
「ひゃあっ!つめてぇっ!」
「ビビってんの?」
「いや、ほんとに氷水みたいなんだって!」
「ふふ……じゃあさ、もし痛かったら、俺の手握ってていいよ」
「バカ言え、余計恥ずかしいだろ」
藤澤はクスクス笑いながら、耳を軽くつまんで角度を見ている。
「ここらへんかな……。あれ、ちょっと待って。若井の耳たぶ、ぷにぷにで気持ちいいな」
「な、何してんだよ!」
「ぷにぷに~。あはは、柔らかい」
「……人の耳たぶで遊ぶな!」
藤澤はおどけた顔をしてから、急に真剣な声を出し、 ピアッサーを構える。
「よし、じゃあ本当に開けるよ。……痛かったら可愛く『痛い』って言って?」
「絶対言わねぇ!」
カチリ、と音が響いた瞬間——
「うぐっ……!いってぇぇぇ!」
「言ってんじゃん!」
藤澤が声を出して爆笑する。
「ち、違ぇよ!思ったより……その……響いたんだよ!」
「いやぁ、若井がそんな声出すとか……貴重だわ」
若井は真っ赤になって側にあったクッションに顔を突っ込むように耳を隠した。
「笑うな!マジで……かっこ悪ぃじゃんか」
「かっこ悪くなんかないよ。……むしろ、そういう若井が可愛い」
そう言ってにやりと笑い、出来立ての穴に小さなファーストピアスを通す藤澤。
「ほら、俺とお揃い」
鏡を差し出すと、そこにはきらりと光る同じピアス。
「……似合ってる?」
「うん、俺と同じでかっこいい」
「お前……。からかわれてる気しかしねぇ」
「じゃあさ、さっきの続き、しよ?」
いたずらっぽい藤澤の目。
若井が反論しようとした瞬間、唇を重ねられて、全部奪われてしまった。
「お前……ほんと、ずるいわ」
最初は触れるだけのキス。
けれどすぐに深く、甘く、熱を帯びていく。
ピアスの痛みと、触れ合う柔らかさ。
相反する感覚が、余計にお互いを求めさせた。
――理性なんて、もうどうでもいい。
若井の手が藤澤の首筋に回り、2人は溶けるようにキスを続けた。
静まり返った楽屋で、2人の吐息だけが熱を帯びて響く。
⸻
数ヶ月後。
2人の耳には、新しい輝きが並んでいた。
お揃いのピアスと、交わした秘密のキス。
それはただのアクセサリーではなく、互いを繋ぐ誓いの証のように光っていた。
END
コメント
2件
1話で終わるの久しぶりですね!! 最近はリクエストに応えて物語ばかり作っていましたからね〜 ピヤスいいな〜僕がピヤス開けるとしたら上手い人に開けて欲しい!! って頼むかな〜涼ちゃんピヤス開けるの上手そうだな〜若井が羨ましい(´。✪ω✪。 ` )