『最強呪術師の五条悟は奥さんを溺愛している』
釘崎野薔薇と虎杖悠仁、伏黒恵の三人は飲み物を買いに行こうと自動販売機のある場所へと高専の敷地内を歩いていた。
その途中、虎杖は人の話し声が聞こえた気がして、思わず『ん?』と声がこぼれ、歩みをとめてしまった。
小さく声をこぼし、歩みを止めた彼に気づいた釘崎と伏黒の二人は同じように足を止め、不思議そうな表情を浮かべながら少し後ろにいる虎杖を振り返った。
「どうしたのよ?」
「財布でも忘れたのか」
「いや、財布は忘れてねぇよ。う~ん、どこからか分かんないけど、話し声?が聞こえた気がしてさ」
「話し声?そんなの聞こえた?」
「俺には聞こえなかったが」
二人からそう言われた虎杖は、じゃあ自分の気のせいかと思い、『そっか!なら俺の気のせいっぽい』と言いながら歩き出した。
けれど目的の場所へと歩みを進めていくにつれて、気の所為ではないというように途切れ途切れにだが声が聞こえてきた。
今度は釘崎と伏黒にも聞こえたようで、三人は自然と視線を合わせ、同時に頷くと人の声がする方へと向かうことにした。
誰かがいるであろう場所へ近づいて行くと、そこには二年の先輩三人がこちらに背を向けている五条悟に対し、呆れたような表情を浮かべながら言葉を交わしていた。
一体彼らは何を話し合っているのかと疑問に思いながらしっかりと会話のやり取りが聞こえる距離まで近づいていく。
すると、二年の先輩の一人である禪院真希の『いい加減にしろ!』という声がはっきりと聞こえ、足早に彼らに近づいていく。
彼らの傍に来て虎杖と釘崎は目を見開き驚愕の表情を浮かべた。
なぜなら近づくまで二年の先輩三人と五条悟の四人だけだと思っていたのだ。
それがなんともう一人、人がいたのだ。
百九十越えの体格のいい五条悟の腕の中に小柄な女性が。
え?どういう状況?なんでこの女性は五条悟に抱き締められているんだ?セクハラか?というかどちら様?と混乱する虎杖と釘崎をよそに、何度か顔を合わせたことのある伏黒は『またか』と呆れたようにため息をこぼした。
そんな彼らを気にもせず五条悟が声を上げた。
「ヤダヤダッ!ぜっっったいダメッ!他の奴に行かせて!」
「いや、それはちょっと………。」
「ちょっと!?ちょっとってなにどういう事!?嫌なの!?」
「いい加減、駄々をこねるな28歳児!」
「悟、仕方ないだろ〜?任務なんだから」
「シャケ」
なにやら駄々をこねる28歳のいい大人で仮にも教師であるこの男を二年の先輩達は叱っている。
それに抱き締められている女性も困ったように眉を下げている。
「だって!一週間だよ!?他の男と九州に行くんだよ!?一週間も会えないし触れないし抱きしめられないし手作りのご飯も食べられないんだよ!?もしナンパされたらどうすんの!?誘拐されたら!?だめだ心配すぎて死にそうだから一緒に行くしかないよね!?そうと決まれば学長に話つけてくるね!」
そう一息に言い切り、学長の元へ突撃する為に駆け出そうとする五条を禪院が引き止める。
引き止められた事に対し、五条はなぜ止めるのやら自分も一緒の方がいいだのとまた駄々をこねる。
まったく状況を理解出来ないでいる釘崎と虎杖は呆れた顔をしているパンダに見たことの無い女性についてとこのような状況になった事情を聞いた。
すると驚いたことに、五条に抱き締められていた女性は五条の奥さんだったのだ。
まるで小学生のクソガキみたいな行動や言動、思考回路をしているが、見た目だけは良い五条悟に奥さんがいたという事実。
というかあの男が結婚出来た事に、今まで生きてきた中で一番驚いたかもしれないと内心思う虎杖と釘崎。
「てゆうか、束縛激しくて無理だわ普通に引く」
「束縛つーか、悟は奥さんの事溺愛してるぞ。この間なんか奥さん本人は自覚してなかったらしいが、風邪を引いてるのにいち早く気づいて奥さん抱き抱えてさっさと帰ったぜ」
それから1ヶ月前にはと五条の奥さん溺愛エピソードを次々と口にするパンダに釘崎は普段の五条と奥さんに接している時の五条があまりにも衝撃的で脳内で宇宙猫を浮かべた。
対する虎杖は驚きで何度も伏黒に問いかけていた。
「ねぇ伏黒。あれホントーに五条せんせー??マジで??」
「マジだ」
「マジか……。」
そうぽつりとこぼし、未だに学長の元へ行こうとしている五条と、それを止めている禪院の攻防戦を困った表情で止めようとしている奥さんに視線を向け、虎杖はもう一度『マジか……。』と呟いた。