彼女と結婚して一ヶ月。つまり新婚ほやほやだ。そんな幸せ絶頂な僕には彼女と婚約しているときからずっと気になっていたことがある。結婚した後は大丈夫だろうと勝手に思っていたけどその兆しが見えない。
そう、僕はずっと気になってた。彼女の左手薬指にあるべきものが存在しないことを。
「・・・何?」
「ねえ、前から思ってたんだけどなんで指輪してくれないの?」
彼女の左腕を掴んで、じっと見ていると彼女が首を傾げる。
「え?」
「結婚して数十年ならまだしも、僕ら新婚だよ?婚約指輪も一回もしてくれたことないよね?別にそれはいいんだよ、別に。けど、結婚指輪はするべきじゃない??」
「・・・そんなに指輪って大事?」
僕の言葉を最後まで聞いて、彼女は少し考えた後言った言葉に盛大につっこみたくなった。
「!そりゃあ大事だよ!!!めちゃくちゃ大事!!」
がしっと彼女の両肩を掴むと彼女がきょとんとした目で僕を見つめている。
「指輪しててもしてなくても悟と結婚して、私が悟のお嫁さんだって事実は変わらないのに?」
「なのに!!そういうことじゃないんだよ!!」
「なんで??」
「なんでって・・そりゃあ、君にはすでに僕っていう旦那様がいて、君は僕のものだって主張して欲しいからだよ!!僕だってほら!ほら!!僕には可愛い君っていう奥さんがいるって主張してるでしょ!」
彼女に見せ付けるように自分の薬指の指輪を見せ付けると彼女が肩をすくめた。
「私はものじゃないよ」
「そこ!?いや、わかってるけどね!屁理屈言わないで!」
「悟」
「な、なに?」
「こんなことで私は悟と喧嘩したくないよ?」
「こんなことじゃないだろ!?大事なことだし!」
「だって指輪嵌めると手洗ったところが水滴残ったり、ふやけたりするのが嫌だから」
「そんなどうでもいいことで?!」
「どうでもよくない。気持ち悪いし」
「気持ち悪い!?」
「指がふやけるのがね」
「そこまで断固として指輪したくないの・・・?」
そりゃあ元々さっぱりしてる性格だってことは知ってるけど、せっかく新婚なのに結婚指輪してくれないってそんなに僕はとんでもない我侭言ってる?というかこれが普通なら逆じゃないの?と思っちゃうのは僕だけ??
「逆に悟がそこまで指輪にこだわる理由がわからない」
「べ、別にこだわってるわけじゃないよ・・でもさ、僕だって四六時中君の傍にいれるわけじゃないし、呪術師として圧倒的に男が多いわけでしょ。そんな野郎の中に君が身をおくのが心配なんだよ」
「だったら大丈夫。私を女としてみるのなんて悟くらいだから」
「それ全然説得力ないからね!!」
僕が彼女と結婚するまでどんだけ牽制してきたか全然わかってないんだから!!
さっぱりしてる割にどっか鈍いし、天然だし・・僕が苦労してるの判って欲しいんだけどね。そう言ってもきっと僕の気のせいだと済まされるに違いない。
「そんなこと言われても・・・」
「君の傍にずっといられるのならこんな物に頼ったりしないよ?!けど、そうじゃないでしょ!」
「でも、私は悟のことしか男として見てないし」
「えっ!」
どきっ!い、いや、何今更どきどきしてんの!すっごい嬉しいけど!
「それに、私が悟と結婚してるのは結構有名だし、主張しなくても大体知ってるよ。だって五条悟と結婚してるんだもん」
「そ、それはそうだけど・・・」
もちろんそれはわかってるよ。けど、僕は気が気じゃない。僕が任務とか出張中に、他の男が彼女に言い寄るなんて絶対に嫌だ。
「じゃ、じゃあ!!もし!もし僕が指輪してなくて、フリーだと思われて他の女に言い寄られたらどうすんの!?嫌じゃない?!」
もちろんそんなことは万に一も、億に一もないけど彼女にも僕の気持ちをわかって欲しい。
「悟が?・・んー、うん、気にしない」
「えっ!?」
いや、それも困るんだけど!?
「私は、悟のこと信じてるから気にしないよ」
「え・・・」
ど、どんだけ男前なんだよ、この子!!めちゃくちゃ圧倒的な信頼と信用を得てるんですけど!いやまあ夫婦だから当たり前だけど!
「悟は?私のこと信じてないの?」
「はっ!?」
「私は、もし他の異性に言い寄られても、全部断る以外の選択肢ないけど、悟は違うの?」
「そ、そんなわけないだろ!?」
「だったら別に指輪つける必要ないよ。はい、終わり」
「ちょちょちょちょ!ちょっと待ってよ!?」
彼女はパンと手を叩いて、勝手に話を終わらせようとするから慌てて彼女の腕を掴んで立ち上がる彼女を引きとめる
「まだあるの・・??」
「もちろん!僕は君のこと信用してるし、君が僕に絶対的な信用をおいてることもわかってる!けど、実際は何が起こるかわからないわけだから、そういう不安要素を少しでも減らそうとしてんだってば!」
「だったらそれは指輪があろうとなかろうと同じだと思う」
「あーー!もう!ああいえばこういう!!」
結婚指輪嵌めてくれればいいだけじゃんか!!なんかお互い意固地になっていることには気づいていたけど、もう後には引けない。ここで引いたら多分、指輪絶対してくれない!!
「なんでそんなに指輪したくないんだよ?!」
「悟は逆になんでそこまでして欲しいのかわからない」
「さっき散々言ってきたけど!?今度は君の番!もう指が濡れるとかそういうなしだからね!」
彼女の頬を摘むと彼女が少し拗ねたような顔をして僕をじとりと睨みつける。
「・・・しい」
「え?」
「・・・恥ずか、しい」
「・・・え?恥ずかしい?」
「・・・ただでさえ五条悟の嫁だって知られてるのに、それを知らない人にも行く先々で指輪見て結婚してるんですか、って聞かれるのが・・恥ずかしい」
そう言って僕から顔を逸らして頬を赤める彼女を見て、僕の思考回路が止まった。
その瞬間、僕の頭に雷が落ちた。それくらい衝撃的だった。
な、なんでそんな可愛い理由なんだよ。いや、僕の嫁可愛すぎるんだけど!どうにかして!!
「悟?」
「いや、もう・・わかった。うん、わかった。理由は十分わかったからちょっと待って」
「なんで悟が照れてるのかわからないんだけど・・・」
「だって嬉しすぎるんだから仕方ないじゃん!!」
「?そっか」
僕がどんだけ君にべた惚れなのか自他ともに認めるのに君だけがわかってないんだよね!まあそういうところも好きだけど!
「指輪をしなくても、もう苗字変えるだけで十分じゃないかなって思ってる」
だから指輪はしない。そう言った彼女を僕はぎゅっと抱きしめた。
「うんうん、わかった。わかったけど、せめて僕が一緒にいないときだけでもして?それ以外はしなくていいから」
「・・・それって悟の譲歩?」
「え?うん、まあ、そうかな。だって傍にいるときは僕のお嫁さんだって一発でわかるからね。しなくてOK」
「・・・」
めちゃくちゃ悩んでる嫁の顔を見て、僕はニヤニヤしてしまう。でも、普通ここまで悩むか??そんなに嫌??まあ、理由がめちゃくちゃ可愛いから許すけど。
「・・・わかった」
「マジ?!やっぱ今のなし!とかなしだからね!!」
「わかったよ。約束ね。はい」
「!う、うん」
そう言って僕に小指を出してくる彼女の可愛さに悶えながら、僕は彼女の小さな小指に自分の小指を絡める。
(それから彼女は約束通り僕がいない時に結婚指輪をしてくれたけどその指輪のことを聞かれて恥ずかしがる彼女を他の男に見られるのが嫌になって約束を僕から破棄させることになるまで後、数日)
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