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「若井寝ちゃったね、僕、申し訳ないんだけどさっきマネージャーから連絡きちゃってたから急ぎ帰って連絡しなきゃで…若井のこと任せていい?」
「いーよ、適当にベッド運んだら俺も帰るから。明らかに飲みすぎね」
「まぁ楽しかったんだよ、明日遅刻してきそうなのが怖いけど…とにかくごめんねえ、ありがと!」
あ、もうタクシー家の前来ちゃったみたい、ごめんね、また明日!と言いながら玄関の扉を開ける涼ちゃんの声をぼんやりと聞きながら、自分が寝ていたことに気がつく。
猛烈に怠くて、起き上がるのも面倒だ。
部屋に目を配ると、キッチンの上の小さな光を除いて、あとはテレビのゲームのホーム画面だけが光っていて、散らかった空き缶とワインのボトルが物語っていた。
片付けなきゃいけないのはわかりつつ、怠さに負けてもう一度目を閉じる。
「ほら、若井、今起きてたでしょ、ベッドまで行くよ」
説教する母親のような声色をした元貴の声が降ってきて嫌々目を開けると、仁王立ちした元貴が立っている。
俺は、床に寝転んでいるようだ。
「ほら、貴方ね、重いのよ、自分で立って」
しゃがみ込んだ元貴が俺の腕を持ってぐぐ、と引っ張ってくる。
うざったくて、手を払う。
「ああもう!若井!」
「やだ!」
バタバタと押し問答しているうちに少し目が覚めてうっすら目を開けると元貴の顔が目の前にあることに気がつく。
少し怪訝そうな顔をした端正な顔立ち。
「….んで…したの」
「ん?なに?」
「だから、」
いいから起きろ、と言わんばかりの呆れた声の元貴になんだか猛烈に苛々する。
「んで!口にキスしたの!」
駄々を捏ねるような自分の声を遠くに聞きながら、無言の間を埋めるようにゲームのBGMが部屋を埋める。
元貴は一瞬黙って、じっと静かに俺の顔を見て、無視を選んだらしい。
ベッドに連れて行こうとする元貴の腕の力が強まるのを理解して、酔った俺の頭は更にむしゃくしゃした。
なんでむしゃくしゃするのかは、よく分からなかった。
「ちょっ、」
乱暴に元貴の体を地面に引いて、元貴の体制が崩れる。思ったよりも力が強かったのかもしれないが、そこに気をもてるほどの余裕なんかない。なんせ、俺は、酔っているのだ。
元貴の上にのしかかるように座ると、床に叩きつけられた痛みで顔を顰めた元貴が俺を睨みつける。
「ねえ、どいて、痛い」
「痛くない」
「俺が痛いって言ってんの」
「ねえ…なんでキスしたの?」
自分の声が弱々しく聞こえた。
またもや、沈黙を埋めるようにゲームの音が部屋を埋める。
元貴が逸らした目をこちらに向ける。
時間が長く感じられた。
「そんな風に簡単にキスしちゃうんだ、元貴って」
「なに怒ってんの」
俺の馬乗りの姿勢の下にも関わらず、その目は変わらず意思を持っていた。
それでいて、言葉にする以上の迫力があった。
俺は自分の気持ちなんか自分が一番分からなかったし、むしゃくしゃしていた。
なんでむしゃくしゃしていたのかはわからない。
涼ちゃんも、元貴も、ぐるぐる考えるタイプだけど、俺はそういうのはあんまり得意ではないし、やっぱり、俺は酔ってもいるのだ。
自分は酔っているのだ、という自認が俺の態度を大きくさせ、その態度の一つ一つに謎の免罪符を与えているのを、とても俯瞰的に感じる自分もまたいた。
「そういうことしちゃうんだ」
「ゲームでしょ、だから、何怒ってんの」
「口にチューしちゃうんだ?」
「ふっ、チューってなによチューって、いい歳こいて」
減らず口の元貴に、また、むしゃくしゃした。
可愛いと思った。
壊したくないと思った。
キスしたいと思った。
超えたら終わると思った。
俺のものにしたいと思った。
ダメだと思った。
生意気なツラをしたその目は懐かしいあの頃を思い出されて、普段の愛想よくキラキラした元貴よりも、うんと、元貴だった。
ふっ、と目をそらされて、元貴が体勢を変えようとする。
いつの間にか俺よりもずっと小さく感じられる体躯が、でもよく鍛えられたその体がぐぐ、と起きあがろうとしてるのを感じて、力を再度込めた。
「じゃあ、俺からも、していいよね」
元貴の目がもう一度こちらに向けられた。
さっきよりもずっと、凪いだ目をして見えた。
俺を、よく、よく、視ようとする、暴こうとする、そして同時に、俺にはその内側を見せてはくれない、あの瞳。
「….ゲーム勝ってないじゃん、若井」
どうしよう。
猛烈に抑えがたい情欲が、元貴に向いているのを感じる。
めちゃくちゃにしたい。
めちゃくちゃにしたい。
その柔い頬に噛みついてみたい。
その唇を貪りたい。
元貴は、照れたり、嫌そうにしたり、どちらでもなかった。
何を思ってるのか、俺だって、知りたい、でも、馬鹿な俺にはいつだって、わからない。
「….なんなの」
決して許可ではないはずのその言葉が、何故だか酷く弱々しく聞こえて、それを最後に、俺の理性ははち切れた。
俺は元貴の唇に噛み付くようなキスをした。
舌を入れると、んっ、と少し驚いたような声が漏れて、暫くしていたら、鼻にかかった息が鼓膜に焼きついて聞こえてきた。
どうしようもなく心がぐちゃぐちゃとして、でもあの瞬間だけは確かにどうしようもなく満たされていて、元貴、と何度も名前を呼んで、元貴の右手を握りしめた。
元貴は、どういうつもりかはわからないが、その手を握り返してきて、俺は、堪らない気持ちになった。
お酒で頭が痛かった。
ゲームの音が遠くに聞こえていた。
コメント
1件
うわ、酔った勢いでぶっちゃけちゃった系のやつだこれ…! でも「なんでキスしたの?」って詰めるとことか、理性がブチ切れる直前の緊張感がめっちゃ伝わってきたわ。「可愛いと思った」→「壊したくない」→「超えたら終わる」の流れ、めっちゃ刺さる。元貴が手を握り返してくるところ、めっちゃグッときた。酔ってるからこそ出た本音と、それを受け止める空気感、すごく良かった!