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春になった。
店内が桜の匂いに包まれる。
カランカラン
今日もいつものように眼帯をした少年は店にやってきた。
しかし、いつもと雰囲気が違う。
「三郎!いらっしゃい。」
気にせず謝怜はやさしくほほえみかける。
すると三郎は口を開いた。
「実は今日高校を卒業したよ。」
そう話す三郎の顔はなにか決意をしたように見えた。
「そうか!もうそんな時期なんだね。おめでとう!」
謝怜は心から祝福した。
しかしどこか寂しさも感じていた。
なぜなら三郎は学校帰りにいつもここに通っていただけで、学校を卒業したらもう来ないかもしれないからだ。
「哥哥、その…実は花を買いたいんだ。これ…。 」
不安そうな表情をしている。
そして三郎は謝怜にお金を渡した。
「えっ、あぁ!もちろん!どの花を買いたいんだい?」
(ずっとお金を貯めていると言っていた三郎が急に私の花を…?)
三郎は目を合わせ、言った。
「バラを99本。」
謝怜はびっくりした。
花屋なのだから当然花言葉は知っている。
誰に渡すのか気になったが、深入りするのはやめた。
「わかった!用意してくるね。」
花を包むため、三郎のもとを離れる。
1人になった瞬間ふと涙がこぼれた。
(あれ…なぜ私は泣いているんだろう。卒業だって青春だって喜ぶべきことじゃないか!なのに…どうして…)
謝怜は気づいていた、喜びよりも寂しさが勝っていることに。
けれど”行かないで”なんてそんなわがままなことは決して言えなかった。
目の赤みが引いてから謝怜は三郎のもとへ戻った。
「遅くなってしまってすまない。はい、これ。」
笑顔を忘れずに花束を三郎に差し出す。
しかし不思議なことに三郎は受け取る気配がない。
少々戸惑っていると三郎は花束ではなく、花束を持っている謝怜の手を握った。
「哥哥にこの花束をあげる。」
「えっ。」
しばらく沈黙が続いた。
時が止まったようだった。
目と目が合い、徐々に謝怜の頬が赤くなっていく。
それから涙が流れた。
「あれっすまない…。嬉しいのに…泣くつもりじゃ…。」
恥ずかしくて顔を下に向けた。
するとさっきまで涙を拭いてくれていた手が謝怜の顎を持ち上げた。
唇と唇が触れ合う。
目が離せない。
「哥哥、受け取ってくれる…?」
また涙が流れた。
だけど次は笑顔でほほえんだ。
「うん…!もちろん!」
しばらく2人は抱き合い、笑った。
すると突然謝怜はあっ!と言い、後ろに並べられた花たちから1本花を取った。
「私からも君へ。」
1本のバラだった。
99本のバラの中へ加える。
そしてまた2人で笑い合った。
END